【3】常連さんの一日


太公望は夢を見た。

それは…まだ自分が‟人間”であり、家族と暮らしていた童子の頃の記憶から始まった。


太公望は、羌族と呼ばれる遊牧民の統領の子息として生まれた。

長の息子と言う事で、特別扱いされる事はしばしばあったが、太公望はそれを鼻にかける事はなかった。

一族の慣わしに従い、家畜の世話をしたり、弟妹や年の近い友と遊んだり、慎ましやかな平穏な生活をしていた。


その当たり前だった日常は、彼が12歳の頃に打ち砕かれてしまう。

当時、人間界で最大の国とされていた「殷」の国主が亡くなり、その埋葬の生贄として、

家族や一族は人狩りにあってしまったのだ。

1人、家畜の世話をしていて難を逃れた太公望は目の前の惨劇に言葉を失った。



…何時間経った頃だろうか。

放心状態の彼に声をかける老人がいた…その者は仙人だった。

仙人は「元始天尊」という仙人界の三角、崑崙山の教主であった。


彼は語ってくれた。

何故、太公望の家族が人狩りにあったのか…その原因を。


「殷」の国主には寵愛する室(身分の高い妻)がいた。

そもそも、本来なら無関係だった太公望の一族はその室の強引な提案により、生贄に選ばれてしまったのだ。

その室の正体は人間ではなく、妖怪仙人。

絶世の美貌と魅惑の業をもって、歴代の皇帝を巧みに洗脳し、朝廷を影から操っていたのだ。


一部の仙道による悪意によって、幼き少年の人生は大いに狂わされた。

その事実は、幼い少年の心を大いに掻き乱し、やり場のない怒りと底知れぬ悲しみをもたらした。


太公望は決心した。

仙道の手で、自分のように不幸になる者を増やしたくない。

そのためにも、強くなりたい…力を手に入れなければならない。

太公望は、元始天尊に弟子入りを懇願した。

この時より、太公望は人間ではなく仙道となった。



長きにわたる修行を経て、太公望は力を身に着けていった。

特に、知性に関しては師である元始天尊さえも唸らせる程のレベルに到達した。

気のおける同僚や親友にも恵まれた。


時折、親友の普賢真人とお忍びで人間界に赴いたり、師の付き人(弟子の一人)で

ある白鶴童子に仙桃(賄賂)を渡して散歩に行くなど…

若者らしくそれなりの青春時代を謳歌できたと思われる。


転機が訪れたのは60年経過した頃。

太公望は元始天尊から呼び出しを受けた。

あの殷王朝が再び荒みだした…

その原因である悪しき仙道を駆逐し、封神させる任務を与えられたのだ。

時の皇帝は文武に優れていた名君だったが、ある女性を室にした事で、悪政を強いる暴君となった。


―――その室の名前は『妲己』

60年前に『王氏』と名乗り、太公望が仙道となる原因を作った狐の仙女だ。



太公望は、この時を待っていた。

童子の頃に心に誓った事を現実にするために…その任務を遂行する事となった。

師から、仙道の武具である宝貝(パオペエ)と霊獣の四不象(スープーシャン)を授かり、

太公望は人間界へ降り立った。


送り込まれる刺客を持ち前の頭脳と宝貝で倒し、封神していく。

その際に、妲己の妹である王貴人と戦い、騙し討ちの形で戦闘不能にさせ、原型の玉石琵琶に戻す事に成功した。

妹を人質にする形で、太公望は身分を偽って宮廷音楽家となり、敵城へ乗り込んで妲己を倒そうとした。


しかし、結果は…惨敗。

妲己は太公望以上の頭脳の持ち主だった。

伊達に1000年生きてきただけに、隙を見せる事無く太公望を裏をかいて、彼を叩き潰した。

それこそ心が折れそうになったが、太公望はその失敗を認めざる負えなかった。


自身の慢心と力不足があった事を痛感し、太公望は仲間を集める事にした。

特殊な生まれ方をした宝貝人間の少年や、変化の術を得意とする美形の道士、

太公望を慕う天然道士の少年…さらに、殷王朝の元将軍やその息子の道士、

はたまた敵の女スパイ道士まで…。


そして、太公望は腐敗しきった殷王朝を倒すべく、周の武王の軍師となり、

味方の戦力強化や知略を駆使して、敵陣営と対峙していった。



火種は人間界にとどまらず、仙人界にまで広がった。

妲己の暗躍と、彼女に協力する妖怪仙人の王天君の策略…

そして殷王朝の存続を願う聞仲の並外れた力によって、仙界大戦が勃発。

太公望の第2の故郷である崑崙山と妖怪仙人が集う金鰲島…

両者は激しい戦いの末、多数の犠牲者を出し、崩壊してしまった。


過酷な戦いが続く中、太公望はある事実に直面した。

この封神計画と呼ばれる任務は、単純に人間界に蔓延る悪い仙道を退けるため…

というのはあくまで表向きの理由に過ぎなかった事に。

諸悪の根源とされていた妲己の背後に…さらに巨大な『真の敵』が潜んでいた。


――――「歴史の道標」


名前は『女禍』と言い、彼女は太公望のいる世界とは異なる星の住民だった。

強大な力を制御しきれずに滅亡した星から、女禍は部下達を引き連れ、故郷に似た地に移住した。

女禍はその地の生命体を滅亡させ、自分の故郷を地球に再現しようとした。


しかし、 部下達がそれに反抗。

女禍の肉体を封じ込めて、地球の生命体と融合した。

それは、彼等が自らの力を薄める事で、滅んでしまった故郷の二の舞を踏まないようにするための手段だった。

やがて彼等の血を色濃く現す生命体が現れ、その者達は『仙道』と呼ばれるようになった。


しかし、ある時築かれた文明が突如破壊されてしまった…生きていた女禍の手によって。

生き残った生命から再び歴史が生み出されていったが、それは女禍が干渉していき、

自分の思い通りの歴史を作りだし、操作していたにすぎなかった。

妲己は、女禍の手足となって率先して殷王朝を滅亡させる役割を担っていたのだ。


だが、太公望はさらに衝撃の事実を知る事となる。

事ある毎に、太公望や仲間達を苦しめてきた王天君から告げられた。

…太公望と王天君は同一人物であると。


元の存在は、女禍の部下であり、始まりの祖の1人。

歴史を影から支配する女禍を消滅させるべく、王天君は自らの魂を分割させる能力を利用し、

元始天尊も協力した上で長年の計画を遂行していたのだ。

魂の一部は亡くなった赤子に入れられた…その子こそ、太公望であった。


この時、太公望は妲己の妹の胡喜媚の手により、肉体を消失していた。

王天君は太公望と融合する事で、再び一つの存在に戻ろうと誘ってくる。

今までの自分ではなくなる…

それに抵抗感は起きるものの、拒絶すれば、己の魂は封神されてしまう。

若干、己の境遇を嘆きつつも太公望は…その誘いに乗る事にした。

結果、太公望は元の存在…『伏羲』に戻った。


太公望と王天君

――――それぞれの今まで辿ってきた記憶を共有する形で一体化したのだ。


紆余曲折を得て復活した伏羲は仲間達と合流。

既に、表舞台に姿を現した女禍を前に、仲間と共に最後の戦いへ挑んだ。

そして――――




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