【38】訳ありのアルバイト志願者(2)
「進藤様は、副業の際は従業員を同行させる事があるとお聞きました。
それで、アルバイトでも実力を認めてもらえたなら、副業の手伝いもできるのではないかと
…狙っていました」
縁は素直に告白してくれた。
彼女は、自分の故郷を探すために副業に携わる事で異世界へ渡ろうとしていたのだ。
「確かに、依頼内容に応じて従業員を連れていく事はあります。
ただ…勘違いしているようなので説明させてもらうと、連れていくのは
俺の信頼している仲間であり、眷族でもある二人だけですよ」
ハルが副業の際に同行させるのは、眷属限定と決めている。
強い要望があっても、実力があろうとも、異世界渡航の経験がない
アルバイトを連れていくなんてとんでもない事だ。
厳しいようだが、これはハッキリ言っておかないといけない。
「貴女の気持ちはお察しいたします。
でも、俺はお世話になっている人のご家族を危険な目に合わせるなんて真似はできません」
「…そうですか」
ハルから明確に却下されてしまい、縁は残念そうに目を伏せる。
「貴女が夢の事を、鯉さん達に秘密にしているのは心配させたくないからですか?」
「…はい」
血の繋がりはないが、鯉伴と乙女は縁の事を実の娘のように愛情を注いでくれた。
縁も二人の事を両親として慕っている。
だが、縁は知っている。
過去に、鯉伴と乙女の身に起こった悲劇の事を…。
鯉伴に仕えている従者のひとりが教えてくれた。
二人…特に乙女にとって、縁は思っている以上に心の拠り所となっている。
もしも、縁に何かがあれば…乙女は憔悴してしまう、と従者が断言するくらいだ。
「それでも、このままずっと真実を見つけずに、目を背けている事はできません。
私は自分が何者なのか…
あの夢の中に出てきた人が、今もあの世界で生きているのかどうか
…知りたい」
縁は切実な願いを吐露した。
(自分が何者なのか、知りたい…)
先程から、縁を見ていて既視感を覚えていた。
そして、彼女の言葉を聞いてその答えがハッキリした。
(そうか…彼女は、あの時の『俺』と似ているんだ)
かつて、ヴァイスハルトだった頃…自分の存在意義について悩んでいた。
今振り返れば、ああいう時もあったな…と思い出話として片づけられるが、
当時の自分にとっては重大な問題であった。
自分が生まれた本当の故郷と、意味を知りたい。
でも、今の居場所がなくなる事が怖い。
誰にも秘密を打ち明けられない孤独。
それがどんなに辛い事か…ハルは知っている。
(もし、前世の事を早い段階で打ち明けていたら…変わっていたかな)
こういう時、つい自分の選ばなかった…IFの物語を思い浮かべてしまう。
あの時…違う選択肢を取っていたら、今でも同胞のもとにいられただろうか?
(…考えても無意味だな。俺はもう選択してしまったんだから)
雑念を振り払うように、首を緩慢に振る。
正直に言うと…副業の件を抜きにしても、縁を店で雇う事に躊躇いがある。
通常の業務に関しては覚えて行けばいい。
常連客も余程の事がない限りは、新米の従業員であろうと見守ってくれるだろう。
問題は、突発的にやってくる異世界からの迷い人だ。
常識的な人物ならいいが、人格的に問題があるタイプが迷い込んできた場合…
ハルを含める慣れている従業員がいない時、縁が関わったら危害を加えられる危険がある。
(でも、縁さんにはまだ選択肢がある)
此処で穏便な形で辞退を促す事は簡単だ。
でも、縁の意思を無視する形で選択を制限する事は…果たして正しい事なのか?
(いや…決めるのは、彼女自身だ)
ハルは顔を俯けている縁へ視線を戻す。
「副業に関わらなくても…当店の試験を受けますか?」
その問いかけに、縁は顔を上げた。
「今回の事は、当店の情報を一部公開したものとして受け止めてください。
元々、履歴書が届いたら試験の日程をお知らせする予定でした。
もし、辞退したいのであれば…此処で返答してもらえると有難いです」
「受けます!」
縁は大きな声で即答した。
瞳に宿るのは「諦め」の感情ではなく、困難に立ち向かおうとする【闘志】だ。
(うん、いい目をしている)
思っていた以上に、縁は打たれ強いようだ。
よかった…という安堵の気持ちから、ハルは口元に緩く弧を描いた。
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