【38】訳ありのアルバイト志願者(2)
※前半は、縁の回想話となります。
※十戒の一人が変身しています。
※外伝連載を含める当サイトの小説内のエスタロッサは、原作とは大きく乖離する
設定(【エスタロッサ】≠『マエル』)となります。
原作沿いを好まれる方は、お読みになるのは回避する事をお勧めします。
*** ***** ***
「…3歳の頃でした。私は初めて夢を見ました」
当時、養母である乙女による絵本の語りを聞きながら、うとうとと眠りについた。
縁が目を開くと、見た事のない場所にいた。
…ここはどこだろう?
自分の住む屋敷とは異なる違う家だった。
縁は養母を探そうと歩いていると、誰かの叫び声がした。
女の子が化け物に襲われそうになっていた。
縁は恐ろしいあまり動けないでいた。
女の子は化け物に殺される…一歩手前で難を逃れた。
一人の人物が…その子を助けたのだ。
とても大きな体の男の人だった。
けれども、その人の顔は真っ黒な影に覆われて見えなかった。
でも、女の子が助かって「よかった…」と安堵した縁は意識が遠ざかっていった。
『縁、大丈夫?』
目を開けると、乙女が心配そうに縁を声をかけてきた。
後から聞いた話だと、寝ていた縁は魘されていたそうだ。
怖い夢を見た事を素直に話したら、養母は優しく抱擁して慰めてくれた。
「次に夢を見たのは…5歳の誕生日を迎えた時でした」
視界に映ったのは、どこか懐かしい町の風景だった。
甘い匂いにつられて歩いていると、昔ながらの甘味を取り扱うお店に着いた。
その中に…成長したあの女の子がいた。
女の子はお洒落な着物を身に纏い、白玉団子入りのお汁粉を美味しそうに味わっていた。
『■■■君は…その子の事、本当に大切に思っているのね』
女の子は優しい声音で、向かい側の席に座る人物に話しかけた。
浅い黄みがかった赤色の髪の青年で、頬の所に薄らと傷跡があった。
『あいつは、もっと自信を持つべきだ。なのに…』
会話のところどころが聞き取りづらかったため、詳細は不明だが…
女の子は青年の悩みを聞いてあげている事は幼い縁にも理解できた。
『◇◇◇、ありがとう。話を聞いてくれて…』
『うふふ、美味しい甘味をご馳走してくれるなら、いつでも相談に乗ってあげる』
二人のその会話の直後に、縁は目を覚ました。
女の子は、友達と仲良く平穏な日常を過ごしていた。
その事に胸がじんわりと温かくなって…気付いたら涙が零れ落ちていた。
「それから、不定期に…私はその女の子の夢を見るようになったんです」
場所はその都度変わり、縁は色んな人の姿やその出来事を…
まるで、テレビのドラマの現場を遠目から見物するように…視聴する事となった。
内容は同じ人が何回か出てきたり、一話きりのゲストのような人々が登場したり…とパターンがある。
ただひとつだけ、共通点がある。
―――必ず、どの場面にもその女の子がいる事だ。
「その女の子…もしかしたら、私の家族なんじゃないかと思うんです」
「その根拠は?」
「顔が似ているんです。それと…」
「他にも何かあるんですね?」
ハルが聞き返すと、縁は小さく首を縦に振る。
「多分、その人が暮らしていた…
いいえ、生きていたのはこの世界ではありません」
「…! そうなると…貴女は異世界から何らかの原因でこの世界に落ちてしまった、と推測しているのか」
はい、と縁は瞼を閉じて顔を少し俯ける。
「夢の中の彼女は…この世界で言えば、百年前位の日本のような国で生きていたみたいです」
当初、縁は『過去の時間軸から、自分はタイムスリップしたのでは…』と思っていた。
しかし、調べてみて違う事に気付いた。
「夢の中の情報と、こちらの日本で起きた過去の出来事が一致しないところがあったからです」
「なるほど…だから、此処とは違う歴史を辿っている異世界だという仮説に辿り着いたんですね」
聞けば、縁は鯉伴の伝手を頼らずに自力でその事実を突き止めたようだ。
彼女の情報収集能力と行動力に、ハルはすごいな…と感興を覚える。
「『自分が何故この世界に来てしまったのか、その原因を突き止めたい』
それが、貴女が当店に勤めたい真の志望動機…という事ですか?」
「はい、その通りです」
祈るように手を握る縁。
その表情は懺悔室で、己の秘密を告白する人のように真摯なものだ。
「この御店には、異世界の書物がたくさんあると伺いました。
その中に…私の故郷の世界の情報があると思ったんです」
「でも、それなら顧客として訪れても普通に閲覧できますよ。
わざわざ、当店のアルバイトにならなくてもいいのでは?」
ハルの指摘に、縁は「やはり、隠せませんね」と微苦笑する。
「父から、進藤様のご活躍を幼い頃からお聞きしていました。
この貸本屋の経営をしている傍ら、世界の壁を越えて人助けをしていらっしゃると…」
「って…鯉さん、その事も話していたのか」
副業の事は、色んな理由で従業員や常連客の一部を除いて内緒にしている。
まさか、こういう形で…協力者の娘ではあるが…一般人に知られてしまうとは。
面倒くさい事になりそうだ、とハルは軽く溜息を漏らした。
・
