【37】訳ありのアルバイト志願者(1)


「ふーん、少年は此処の常連?」

「う、ううん…来たのは二回だけ」


「へぇ~、そうなんだ。

…で、店長とはあった事あるんだな」


「うん、あるけれど…」



コナンは冷や汗を流しながら、質問に答えていた。

貸本屋【双月文庫】の店長であるハルと再会したのはつい先日の事。

まだ先の話だが、店の宿泊施設を利用する事はもうハル本人に宣言している。


此処に足を運んだのは、気になる事ができたからだ。

店長がいたら直接、もしいない場合は店員の誰かに訊くつもりで、店の門の前までやってきた。


だが、予想外の事が起きた。

…そこに先客がいたのだ。

年齢は13か14歳くらい。

紺色のパーカーと青系のジーンズを着ている、銀色の髪に翡翠色の瞳の外国人の男子だ。


常連客だろうか、と試しに声をかけてみたのがまずかった。

男子はこの貸本屋に興味があるみたいだ。

そのため、店に行った経験のあるコナンにあれやこれやと質問を投げかけてきた。



(流暢な日本語を話せているし、日本に住んでいるのかな…この子)

「…なるほど。少年は、この店や店長の事はそこまで知らないのか」

「うん。そうなんだ…(少年って、いやいやあんたも同じだろう)」


男子の言葉に、内心ツッコみを入れるコナン。


「そういうお兄ちゃんは、なんでお店に来たの?」

「えっ、気になるからだよ」


今度はコナンが逆に問いかけるが、男子はあっさりと答えてくれた。


「気になるって…」

「うん…やっぱ、店に入ろう。少年はどうする?」

「えっ、うん…入るよ」


なんだろう…この男子は。

コナンは困惑を顔に露わする。

さっきから、この男子のペースに巻き込まれている気がする。


「あっ、そういや名前言ってなかった」


男子は、コナンに視線を戻すとこう言った。


「俺はエスタロッサ。少年は…名前を訊いてもいいか?」

「江戸川 コナンです」

「コナンだな。よーし、じゃあ行こうぜ。相棒」

「あ、ちょっと待って…(おいおい、【相棒】って…会って間がないんですけど)」


前言撤回。

実質、振り回されている。

コナンは顔を引きつかせながら、エスタロッサと共に店の門を通った。





【訳ありのアルバイト志願者(1)】





「…以上となります」

「説明してくださり、ありがとうございました」


全てのフロアの説明を終えると、縁は御礼を言った。


「縁さんは、本が大好きなんですね」

「はい。小さい頃から読書が趣味でしたから…」


会話をしていても、縁が本当に本好きな事が分かる。

若者が敬遠しがちな政治や難しい専門的なジャンルの知識もあり、

ハルがさりげなく振った話題についていけている。

歴史…特に近代の日本史が得意らしく、大河ドラマは毎年見ているそうだ。



「そういえば、縁さんはうちでアルバイトをしたいそうですね」

「はい。履歴書は昨日郵送したのですが、届きましたでしょうか?」


「いえ、まだ。昨日投函となると…

今日の午後に届くはずだから大丈夫でしょう」



そう告げると、縁はほっと安堵の息を漏らした。



「大体の事は、鯉さんから聞きました」

「…えっ?」


「縁さんがうちで働きたい理由を、

そして、貴女が何かに悩んでいる事も…」



ハルが言った事に、縁は驚きの表情を浮かべる。

どうやら、彼女は養父がとうに諸事情を説明していた事を知らされていなかったようだ。



「父様、なんで…」


「鯉さんは、貴女の事を凄く心配していた。

だから、貴女を此処で働かせるために…

表向きの志望動機だけでは、俺が納得しないと思ったんだろう」



動揺する縁に、ハルは真面目な表情でさらにこう続けた。



「もし許可をもらえるなら、教えてくれますか?

縁さんが抱えている悩みについて…聞かせてください」



ハルの要望に、縁は少々逡巡するが…意を決したように口を開いた。



「お願いがあります。

今から言う事は…できれば、父と母には内緒にして頂けますか?」


「もちろん。貴女の意志を尊重します」

「…ありがとうございます」



そして、縁は語り始めた。

両親にもまだ打ち明けていない…ある秘密について。





【つづく】

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