【35】あの夏のSF(すこし不思議)な体験談
「ふふふ、こんなに賑やかなのは久しぶり」
奥さんが懐かしそうにそう言った事に、イルカは目を瞬きさせる。
「息子や娘達も、お祭りの時にお腹いっぱい料理を食べていたから」
「お子さん、何才なんですか?」
咀嚼し終えたゆかりが興味津々に尋ねた。
「皆、大人になって別の場所で暮らしていますよ」
返ってきた答えに、イルカは驚きを顔に露わにする。
「…大きい子どもがいるの?」
「うん。今でも手紙でやり取りしているよ」
自ずとハルに視線を向けて訊いてみたら、ハルは普通に返してくれた。
ハルと奥さんの間には、子どもが三人いるらしい。
娘二人は、此処とは違う世界で伴侶を見つけて嫁いだ。
長子である息子は未だに独身で、特殊な仕事についているらしい。
「はい、しつもんです!」
「どうぞ」
「ハルさんとおくさんは、どのくらい生きているんですか?」
「とても長生きしているよ」
「多分、イルカ君とゆかりちゃんのおじいちゃんやおばあちゃんよりも
年上になっちゃうかもしれませんね」
ゆかりの率直な質問に対して、ハルと奥さんは朗らかに答えてくれた。
イルカはまたしても、頭からぷしゅーと煙が出てきそうになる。
二度目のキャパシティーオーバーな事実に、どう言えばいいのか分からない。
「イルカくん、イルカくん」
「…な、なに?」
「そんなにむずかしく考えなくていいんだよ」
イルカの状態を察したのか、ゆかりはアドバイスしてきた。
「『世の中、本に出てくるお話よりもふしぎなできごとはいくらでもある』って、うちのおじいちゃんが言ってた。だから、ハルさんとおくさんみたいにすっごく長生きしている人もいてもおかしくないんじゃないかな?」
彼女のその言葉に、イルカは目から鱗が落ちた。
「それに、二人ともわたしたちを助けてくれたからいい人たちだよ」
…その通りだ。
例え、この夫婦が普通の人間ではありえない特殊な生き方をしているとしても、
見ず知らずのイルカ達の恩人である事に変わりない。
「うん、そうだね」
イルカは力強く頷いた。
ゆかりは「そうそう」と、自分の意見に賛成してくれた事に満足そうだ。
ハルと奥さんは…そんな二人の様子を微笑ましそうに見つめている。
「そろそろデザートを出しましょうか」
奥さんがそう言って、冷蔵庫から三種類のフルーツが入った大きい寒天ゼリーを取り出した。
包丁で寒天ゼリーを切り分けようとしたその時、ハルが何かに気付いて椅子から腰を上げた。
「誰か来たみたいだ。先に食べてて」
(音、きこえたかな…?)
この部屋から玄関の扉まで距離があるのに、ハルはかなり聴覚が良いようだ。
イルカ達は言われた通りに、寒天ゼリーをちょっとずつ味わっていると…
複数の人の気配がこちらへ近づいてきた。
「こちらです」
「では、失礼します」
扉を開けて入ってきたのは、ハルともう一人
…金髪の二十代くらいの若い男性だった。
だが、イルカとゆかりは彼のその姿に目が集中した。
衣装が忍服であり、なおかつ…木の葉のマークが描かれた額当てを身につけていたのだから。
「夜分遅くにすみません。俺はあるところからやってきた者です」
「旅の御方ですか?」
「少し違います。
正確には、故郷の里で行方不明になった子ども達を探している最中です」
その男性は奥さんに事情を告げると…
イルカとゆかりの元へ近寄り、腰を屈めて視線を合わせた。
「うみの イルカ君と水基 ゆかりちゃんだね?」
「は、はい!」
「そうです!」
「ん! よかった! 無事でいてくれて…」
二人の元気な姿を確認できて、その男性は安心した表情を浮かべる。
彼は木の葉の上忍で、『波風 ミナト』と言った。
あちらの世界の時の流れで換算して…数時間前。
「アカデミーの生徒二人が、肝試し中に森の中で神隠しにあった」と
三代目火影に緊急連絡が回ってきた。
火影の命令で、捜索にあたる事となったミナトは部下の三人と一緒に
森の中で不審なところがないか調べていた。
「部下の一人が怪しい箇所を見つけてね
…そこを通り抜けて、こちらまできたんだ」
共同で捜索していた他の上忍達と話し合いをした結果、ミナトが単独で【道】に入る事となった。
最初は、部下三人も一緒についていこうとしていたが、不測の事態を考えてミナトが説得して止めさせた。
明日の昼までに帰還できなかった場合は、火影に連絡した上で然るべき対応をする事になっているようだ。
「そんなことになってたんだ…」
「ごめんなさい、わたしのせいで…」
ゆかりが申し訳なさそうに謝る。
イルカも勝手に行動をした事を思い出して、「すみません」と頭を下げた。
「ゆかりちゃんは、知らない内に巻き込まれてしまったから仕方ないとして、
イルカ君の場合は『問題がない』とは言えないな。
いずれ、忍になる身として…
周りを無視して独断で行動するのは危険極まりない事だ」
真面目な顔で諭すミナトに、イルカはしゅんとする。
「ご家族やアカデミーの友達も心配しているはずだ。
里に帰ったら、きちんと謝って…
そして、『待っててくれてありがとう』って御礼を言おうね」
続けて言われた言葉に、イルカははっとして顔を上げた。
先程とは変わってミナトは優しく微笑んで、イルカの頭を撫でてくれた。
胸に温かい何かがじんわりと、目頭が熱くなった。
涙が出そうになるのをこらえて大きく頷くと、ミナトは「ん、えらいね!」と褒めてくれた。
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