【35】あの夏のSF(すこし不思議)な体験談
「でも…どうして、里の森からこの町にきたんだろう?」
「うん、なんでだろうね?」
大分落ち着いてきたところで、イルカは抱いていた疑問を口にした。
ゆかりも同調して首を傾げる。
「その件については、今から説明するよ」
彼等の疑問に対し、ハルが答えてくれた。
「この町から少し離れた場所にあるあの森は特殊でね
…夜の時間帯になると、時空が不安定になるんだ。
そのため、此処とは異なる世界と繋がってしまう」
「…つながる?」
「分かりやすく言うと、イルカ君とゆかりちゃんの故郷にある森と
こちらの森を行き来できる【道】ができてしまう。
君達はその【道】を通って、こちらに迷い込んでしまったんだ」
その説明を聞いて、イルカは言葉が出なかった。
気付かない間に、未知なるルートで世界を越えていたという事実に度肝を抜かれてしまったのだ。
「あの…わたしたち、帰れるんですか?」
頭の中で情報が錯綜して混乱しているイルカの代わりに、ゆかりがおずおずと挙手して単刀直入に質問した。
彼女も、早く里に…家に戻りたいのだろう。
(もしも、このまま帰れなかったら…)
考えたくない可能性が頭をよぎる。
自ずと服の生地をぎゅっと握りしめてしまう。
「大丈夫」
そんな不安を打ち消すように、ハルがその一言を口にした。
「多少時間はかかるけれど、必ず君達を元の世界…お家に帰してあげるよ」
…このヒトは良い人だ。
まだ子どもであるイルカ達に一から事情をきちんと話し、その上で
「元の世界に絶対に帰す」と約束してくれた。
何より、語り掛けるハルは嘘のない優しい目で二人を見つめていた。
…このヒトなら信用できる。
人となりに触れて、イルカは改めてハルの事を『信じていい人物』だと認識した。
―――ギュルル~…
「あの~…ごめんね。なんかいい時にジャマしちゃって」
ゆかりがえへへ…と笑って頬を赤らめる。
タイミングよく空腹のサインが出たのは偶然だろうか…。
「…おれも」
イルカも苦笑いして呟く。
里に帰れると分かり、緊張がほぐれた事も影響したのか…腹の虫が小さく鳴った。
本来なら、肝試しの後で友達と一緒に里の屋台でご飯を食べる予定だった。
わたあめ、タコ焼き、揚げ芋、鳥の串焼き、リンゴ飴…。
一ヵ月前から楽しみにしていたのに…と内心ガッカリしつつも、仕方ないと割り切るしかない。
母からもらったお小遣いも使う事無く、帰ったら豚の貯金箱行きとなるだろう。
「実はね…さっき、帰宅してちょうどに嫁さんが食事を作り終えたところだったようでね」
すると、ハルが中腰になって二人と視線を合わせながら、夕食が出来上がった事を伝えた。
イルカとゆかりはお互い顔を見合わせる。
「今日はお祭りだから張り切っちゃって、いつもよりたくさん作ってしまったみたいだ。
…二人ともよければ、一緒にご飯を食べてくれますか?」
「「はい、よろこんで!」」
二人の声が見事に重なり合った。
息の合った返事に、ハルはにっこりと笑顔を浮かべた。
「どうぞ、たくさん召し上がってくださいね」
奥さんは微笑して、手料理を食べるように勧めてきた。
テーブルに並んだ料理は、食べた事のあるものや見た事のないメニューまであって種類が多い。
…出来立てでどれも美味しそうだ。
「今年も盛大に作ったね」
「うん、作っちゃいました。ごめんねー」
「構わないよ。今日はお客様もいるから、このくらいあった方がいい」
笑って謝る奥さんに、ハルはその光景に慣れているのか笑い返した。
「なかよしだね、あの二人」
「うん」
ハルと奥さん…
二人とも纏っている雰囲気が穏やかで、お互いを見つめる目は愛情が込められている。
両親も同じような空気を漂わせているのをよく見かけるため、イルカもゆかりの言葉に同意する。
「ほら、温かい内に食べよう」
ハルの言葉に、イルカとゆかりは改めて料理に向き合う。
「えと…いただきます」
「いただきます」
両手を合わせて、食事の挨拶をすると二人は箸を手に取った。
イルカが、まず口に運んだのは天ぷらだ。
手前にあるきつね色の大きいそれを取って、一口齧った。
さっくりとした触感の衣、内側はじんわりと肉汁が出て柔らかく、
噛む毎に肉の旨みが出て美味しさが広がっていく。
「うまい…」
―――【鶏肉の天ぷら】
初めて食べるそれに、イルカは虜になってしまった。
「なにこれ、すっごくおいしー!」
隣の席で、ゆかりは絶賛の言葉を口にしている。
彼女が味わっているのは丸い形の揚げ物で、イルカも試しに半分食べてみた。
その中身は、周りにひき肉を纏わせたゆで卵だった。
ゆで卵の黄身がとろとろ~と流れて、サクサクの衣とジューシーなひき肉とあわさり、
口の中でハーモニーを生み出していく。
「これ、なんていうんですか?」
「それは【スコッチエッグ】、今回は半熟のみだけど、固茹での物も美味しいのよ」
奥さんが答えてくれた事に、ゆかりはへぇー…と興味深そうに耳を傾ける。
「こちらもどうぞ」
「あ、すみません」
ハルが取り箸で、別の大皿に盛りつけている焼き餃子を小皿に取り分けて、イルカに差し出した。
イルカは会釈して、それをもぐもぐと咀嚼する。
(ギョーザ、ぱりぱりだ…あっ、こっちのはカレーの味がする!)
餃子は通常のものだけでなく、カレーや、チーズ、梅肉、エビなどの一味加えたものなども含まれていた。
色んな味が楽しめて飽きがこないため、イルカは一個、また一個と食べ進めていく。
「しあわせだねぇー、ここって【とうげんきょう】かなー」
オムライスを食べつつ、ほんわかと幸せなオーラに包まれているゆかり。
(うん、おれもそう思う)
彼女の発言に、夢中で料理を味わうイルカも心の中で賛同していた。
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