【35】あの夏のSF(すこし不思議)な体験談
イルカはまず初めに移動していったルートを通って、女子を探してみた。
(…どこにいるんだろう?)
先程のお化け役の教師に驚いて、女子は必死に遠ざかろうと走っていった。
その所為で、この面積の広い森の中で迷子になってしまったのだろう。
昼ならまだしも、夜の時間帯は狭くなって全体が見渡せなくなる。
実習を重ねた上のクラスや、プロの忍なら難なく対応できるだろうが…
まだ下級生の子ども達では難しい。
「おーい! おーい!」
イルカは大声で呼びかける。
肝試しとはいえ、女子のパートナーになっていたのは自分だ。
自分だけ、安全な所でただ待っているだけなんてできなかった。
女子の姿を見つけようと、一生懸命に探索するイルカは気付かなかった。
…奥へ奥へと進んでいくにつれて、森の雰囲気が変化した事に。
(…どうしよう、ここどこ?)
彼是一時間くらい経過した。
…ミイラ取りがミイラになってしまった。
イルカはグスッと涙ぐみながらも、歩を進めていくものの…女子は一向に見当たらない。
とうとう足が疲れて、その場に座り込んでしまった。
「…とうさん、かあさん」
両親は心配しているだろうか?
同級生は皆、帰ってしまったのだろうか?
先生達が迎えに来るまで…ずっとこのままここにいた方がいいのかもしれない。
「どうしたの?」
ふと、誰かの声が聞こえてきた。
恐怖と不安でいっぱいになっていたイルカは、咄嗟に顔を上げると…
明るい茶色の髪の20代くらいの青年が、いつの間にか目の前に立っていた。
「おにいさん…だれ?」
「俺は、この先の町に住んでいる者だよ。
君はどうして森の中にいるんだい?」
見かけない人だけど、里の住民だろうか…?
気遣いの言葉をかけてくれた目の前の青年に、イルカはえぐえぐと涙を流しながら理由を話した。
「きもだめししてて…みんなで…おれ…まいごになって…」
「『肝試し』か…さっきの女の子もそんな事言ってたな」
青年がぼそっと呟いた事に、イルカは「えっ…?」と目を大きく見開く。
「まずは此処から離れよう。
夜の森は、獣が徘徊しているから危ない」
青年はほんのり笑って、手を差し出した。
イルカはおずおずと自らの手を乗せると、優しく握ってくれた。
「俺は進藤 ハルと言います。
君の名前を訊いてもいいですか?」
「うみの…イルカ」
「イルカ君、ちょっと歩くけれど…いいかな?」
青年…ハルはそう尋ねると、イルカはこくりと頷く。
手を握られ、イルカはハルと一緒に暗い夜の森の道を歩いていった。
イルカの歩幅に合わせて、ハルはゆっくりとした速度で移動していく。
「あの…ハルさん」
「ん、なんだい?」
「おれの前に、女の子がいたって…」
「ああ、二時間ほど前に同じ森でね。
その子も道に迷ってしまって困っていたよ」
ハルは貸本屋を営んでおり、そこでは顧客に料理も提供しているため、森で食料を調達している。
今日も奥さんと一緒に森の中を散策していたところ、迷子の女の子を発見した。
混乱していた女の子を落ち着かせて、事情を訊くと「肝試しの最中に走り回って、
気付いたら此処にいた」と答えてくれた。
奥さんの提案により、彼女はその子を連れて一足先に自宅へ帰ったようだ。
「あの…その子って、たんぽぽ色のかみでみつあみをしていた?」
「そうだったけれど…
もしかして、イルカ君はその子と友達なのかな?」
「うん、きもだめしのパートナー」
女の子は幸いにも無事だった。
その事にホッとして、イルカは幾分か心に余裕が出てきた。
「よかった…」
「彼女の事を探していたんだね」
イルカの表情を見て、ハルは彼が女の子を探して道に迷ったのだと察した。
イルカはうん…と首を小さく縦に振ると、正直に経緯を語る。
「優しいね、君は」
「…そう、かな?」
会ったばかりの人に褒められてヘンな気分だ。
くすぐったくてムズムズする…でも、嫌とは感じない。
「あっ、でも…」
「なに?」
「だまって出てきたから…おこられちゃう」
今頃、担任や他の教師は自分も捜索対象に含めて探しているに違いない。
勝手な行動をして迷惑をかけてはいけない、と両親からも言われているのに…。
「それなら、俺も一緒に同行して話してあげようか」
「えっ…」
憂鬱そうに小さく息を吐くイルカに、ハルが笑ってそう提案した。
「事情を話せば、先生達からのお説教もマイルドになるかもしれないよ」
「…いいん、ですか?」
「ああ、君がよければね」
「あ、ありがとう…ございます!」
イルカはパァ…と顔を輝かせてお礼を言った。
それから、目的地へ辿り着くまでの間、ハルと話しながら夜道を進んでいった。
最初は心細くて、どうすればいいのか分からなかった。
でも、今は傍にハルがいる。
そのおかげで、暗闇が延々と続く森の中が怖くなくなった。
見上げれば、夜空に星が弱い光を放っていた。
徐々に闇の恐ろしさが薄らいで、静かで日常では味わえない清々しさを感じ、
とても不思議な気持ちになった。
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