【33】ハルさんの休日(7)
「―――ようやく見つけたよ」
ふと聞こえてきた男性の声に、ハルはゆっくりと顔を上げた。
デリエリがハッと後方へ視線を向けると…
【モンスピート…】
「全く…お前といい、メラスキュラといい…
うちの女性陣は行動力がありすぎだよ」
スーツ姿の相棒…モンスピートがこちらへ一歩ずつ近づいてきた。
「すまないね、お兄さん…迷惑をかけたようだ」
「いえ、そんな事ありませんよ」
ハルは首を緩慢に振って、問題なかった事を伝えた。
(モンさん…やっぱり来たな)
なんとなく予感はしていた。
デリエリが此処にいる以上、モンスピートが迎えに来るのではないか…と。
育ての親の変わらない姿に、ハルは目を細める。
「ほらほら、二人とも帰還の時間だぞ…って、メラスキュラは話を聞いてないね」
頬を赤くしてぽぉーと放心状態になっている小さな桃色の猫に変身中の仲間を、
モンスピートはすかさず回収する。
【まだ…夜まで時間があるだろ】
デリエリにも同様にしようとした時、彼女が眉を八の字にして
「まだ帰りたくない」と不満を口にする。
「ダメだよ、早く帰らないとあいつらがうるさい。
それに…此処で甘やかしちゃうと、また逃げられたら困るからね」
モンスピートは諭すようにそう言うと、橙色の猫の彼女を優しく抱き上げた。
変身している二人を両の腕に抱えると、モンスピートは改めてハルと向き合う。
「この子達の相手をしてくれてありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
モンスピートが御礼を言って踵を返して去ろうとしたその時、
デリエリが慌てたように口を動かした。
【うまかった…ありがとな】
瞬く間に、モンスピートは遠方へ移動していたが、ハルの耳には彼女の感謝の言葉はしっかり聴こえていた。
遠ざかる彼等の背中を見ながら、ハルは微笑みを浮かべて手を小さく振った。
【ハルさんの休日(7)】
「ねぇ、デリエリ」
「………」
封印の空間へ戻ってから、モンスピートはかれこれ一時間くらい、デリエリに声をかけ続けている。
元の姿になったデリエリは、漆黒色の地面に寝転がっていた
…相棒に背を向けて。
「怒ってるのかい?」
「…別に」
そっけない口調で返され、モンスピートはやれやれ…と肩を竦める。
「『もう少し話をしたかった』
…その気持ちは理解できるが、あれ以上の会話はまずいよ」
ヴァイスの子孫に接触して、彼本人から情報を入手できたのは幸いだ。
だが、ヴァイスと重なるところが多々あった事がまずかった。
その所為で、冷静な思考ができなくなっていたメラスキュラが口を滑らせて
こちらの情報を漏らしてしまう可能性があった。
「まだあの調子だし…暫くはかかりそうだ」
モンスピートは視線だけを後ろに向ける。
そこには、未だに夢見心地でうふふ…と口元を緩めているメラスキュラが座っていた。
「今日のメラスキュラ、おかしいッスねぇー」
「なんか…変なモノでも…食べたか…?」
「あー…メラのヤツ、乙女モードになってやがる」
「乙女モード?」
「話すと長くなっちまうから、パス」
周りのメンバーが、メラスキュラの異変について口々に言い合っている。
その理由を…エスタロッサ辺りは勘付いているかもしれない。
「それに…あの青年がお前達に危害を加えるリスクもあった」
いくら同胞の血が流れる子孫だからとはいえ、魔神族に味方するとは限らない。
ハルが話した情報ですら事実なのかも分からない…信憑性が薄いのだ。
「ケツから言って…それはねえよ」
「仮に【魔神族】だとバレたとしても、彼がお前達を攻撃する意思はなさそうだった、と。
何故そう思うんだ?」
「勘だ」
「勘って…あのねぇ~」
デリエリがきっぱり答えた事に、モンスピートは呆れ顔になる。
すると、デリエリは上半身を起こして彼と目を合わせる。
「あいつのクッキーさ…ヴァイスの作ったのと同じくらい美味かった。
もしかしたら、ヴァイスの生まれ変わりじゃねえかな…」
「…そうだとしても、ヴァイスの意思をそっくり受け継いでいるとは限らないし、
彼はヴァイス自身じゃない」
…そういう考え方はあまり賛同できないよ。
そう告げて、モンスピートは腰を下ろすとデリエリを腕の中に閉じ込める。
「これからは…無闇に進藤 ハルに近づかない方がいい。
深入りすると痛い目に合うかもしれない」
「…過保護だな」
「どうとでも言ってくれ。
冷や冷やさせられるのは、勘弁してほしいからね」
その言葉に、膝に座るデリエリは「ばか」と小さく呟くと、モンスピートの胸に蹲る。
癖のあるオレンジ色の髪を撫でながら、モンスピートは機嫌が直るまで
デリエリを抱きしめて甘えさせる事にした。
【つづく】
・
