【33】ハルさんの休日(7)
【…似てるのね】
【おい、メラ】
メラスキュラが顔を俯けてぽつりと呟いた。
それに反応したデリエリが眉を顰めて、メラスキュラに「余計な事言うな」という意味を込めて釘を刺す。
【分かってるわ。でも…】
彼女は声を震わせて、言葉を途中で中断してしまう。
ハルは徐に腰を屈めて、俯く桃色の猫に声をかけた。
「…どうしたんですか?」
【ごめんなさい、ちょっと…昔の事を思い出してしまったの】
メラスキュラはそう答えると顔を上げた。
泣きそうになるのを誤魔化そうと作り笑いをしている。
【気にしなくていいから。こっちの事だ】
デリエリがハッキリした口調で告げた。
詮索するな…と暗に言われた事を察して、ハルは小さく頷いた。
「分かりました、深く聞き出す事はいたしません」
でも…と反対語を口にしたハルは、掌をギュッと握った。
彼の行動にデリエリは反射的に身構え、メラスキュラは小首を傾げる。
―――ポンッ!
数十秒後、再び掌を開くと同時に軽快な音が鳴り、掌の上には紙製の四角い箱が乗せられていた。
何か仕掛けてくると警戒していたデリエリは呆気にとられ、メラスキュラは目を瞬きさせる。
二人の反応をよそに、ハルがその四角い箱の封を開けていく。
「今にも泣きそうな女の子をただ見ているだけなんて、男として見過ごせませんよ」
ハルはそう言うと、四角い箱を二人の前に差し出した。
そこには…丸や花を模った形、星型の三種類のクッキーがあった。
「手作りですが、甘い物はいかがですか?
お嬢様方」
猫の姿で食べられない体質だったら、遠慮なく断ってくださいね…と念の為に付け足す。
デリエリは、クッキーとハルの顔を交互に見比べると…すんすんとクッキーの匂いを嗅ぐ。
恐る恐る一枚だけ齧りついてみた。
【…うまい】
その一言を呟くと、前脚で器用にもう一枚とってメラスキュラの座る地面の前に置いた。
メラスキュラも、その一枚をサクッと小気味いい音を奏でながら味わっていく。
【おいしい…】
「よかった、お口に合ったようですね」
メラスキュラは目を大きく見開いた。
穏やかに笑うハルの姿が…【彼の人】と重なり合ったから。
【本当にそっくりすぎでしょ…もうっ!】
目が潤みそうになるのを堪えながら、メラスキュラはクッキーを食べ進めていく。
一枚食べ終えたデリエリは、前脚で箱の角度を変えてクッキーを地面にばらまいて、それらを口に入れていく。
ハルは何も言わずに、クッキーを美味しそうに食べる二匹の猫の様子を微笑ましそうに見つめていた。
(子どもの頃…よく味見してもらってたな)
幼かった頃の二人の姿が脳裏に蘇る。
満面の笑みで作った料理を味見してくれる姿は、年相応の少女そのもので可愛らしかった。
(メラ、リリ…俺は、君達にまた会える事ができて…本当に嬉しいよ)
追放された挙句、迷惑をかけた自分が彼女達に会う事自体、本来は許されないのだから。
それでも…家族のように共に育ってきた二人の笑った顔が見れて満足感で包まれていく。
【…ッ! あっ…その…】
食べている最中、我に返ったメラスキュラが微かに頬を紅潮させる。
素の面を見られてしまった事が、恥ずかしかったのだろう。
【…お見苦しい所を見せてしまったわね。
ごめんなさい】
「いいえ、謝る必要なんてないですよ」
自ずと彼女の桃色の毛並みを撫でていた。
「貴女の心が癒されたなら、クッキーを作った甲斐があります。
それに…『女の子は泣き顔よりも笑顔の方が素敵』じゃないですか」
子どもに言い聞かせるように…その言葉を口にした。
すると、デリエリが大きく目を見開いて口に銜えていたクッキーをぽろっと落とした。
メラスキュラの方は…顔が沸騰したように朱色になっていく。
(あれ…?)
二人がおかしい反応をしている事に、ハルは不思議そうに首を捻る。
【もぉー…(その台詞は反則でしょー! この胸の高鳴りって…ヴァイス以来じゃない!)】
【………(…こいつ、マジでヴァイスの生まれ変わりじゃねえのか)】
メラスキュラは心を落ち着かせようと必死で、首をぶんぶんと左右に振っている。
そんな彼女の横で、デリエリは半目でハルを凝視している。
あまりにも幼馴染の彼との共通点がありすぎて、真実に近いようで異なる仮説に辿り着いてしまった。
(リリ…どうしたんだろう?
メラのあの仕草、小さい頃よくやってたなぁ…久々に見た)
二人の心中とは裏腹に、ハルはまた昔の事を思い出しながら
呑気に心の中でツイートしていた。
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