【32】ハルさんの休日(6)
(それにしても、あの時の天ぷらって…
どんな材料を使ってたんだろう?)
スーパーで買い物の最中に、ハルはあの時の事を思い出した。
メリオダスの初料理である【怪しげな色の天ぷら】
…あれほどインパクトのあるまずさは忘れられない。
(野菜は使っていなかったのは確かだ。
あの触感だと…全部、肉だったか)
どんな肉を使ったのだろうか…
少なくとも、馴染みのあるデカとりの肉ではなかった。
かなり歯応えもあった記憶がある。
そうなると、竜肉や他の魔物の肉の可能性が高そうだ。
(…と言っても、メル本人しか分からない事だな)
メリオダスが一族を出奔して以降、彼と何度か接触したが、
聖戦が終わる寸前に消息不明となってしまった。
…彼が愛した女神族と共に。
(メルとエリザベス…あの後、二人は生き残れたのだろうか)
生まれ故郷である世界は、あれから三千年経過している。
聖戦を生き残っていたとしても、とっくの昔に寿命がきているはずだ。
もし、運よく生存していたなら…
二人は結ばれて子孫を残せているかもしれない。
(…時間ができたら、ブリタニアの現在の情勢を確認しにいこう)
今後の予定を思案しつつ、ハルは買い物箱に必要な品物を入れていく。
レジで支払いを済ませると、購入した物を二つの大きめのレジ袋に入れて、
人気のないところへ移動して魔力で異空間に収納する。
ふと、壁に設置されてる時計をみると、時刻は午後5時を越していた。
(ゲルダさんから連絡は…ないな)
ドロールとグロキシニアの動向を注視していたが、連絡がないところを見ると
懸念していた事は起こらなかったのだろう。
ほっと安心して、ハルは取り出したスマホをバッグの中に戻す。
(一通り用事も済んだし、どうしよう…)
連絡がないとはいえ、ゲルダ達の様子も気になる。
まだ、この時間帯なら電車の便もある。
(予定より早いけれど…帰るとしますか)
『帰宅しよう』という選択で、答えがまとまりかけていたその時…
「ねぇねぇ、ピンクのネコがいるよ!」
「珍しい、桃みたいな色ねぇ」
東側の出入口から入ってきた親子の会話が耳に届いた。
(おっと…あぶない、あぶない)
ハルは微苦笑して、反対の西側の出入り口に方向転換する事にした。
*** ***** ***
スーパーを後にして、ハルは駅に足を進めていく。
(リリに…グロキシニア、そしてメラ。
三人も復活しているとなると、他の人も…)
脳裏に王族の兄弟と、育ての親…顔見知りの同胞達の姿が浮かび上がる。
特に、魔神王の次男であり、あの銀髪のでかい幼馴染の男があたかも自己主張するかの如く、
彼との思い出が一気にリフレインしていく。
『ヴァイス、いっしょにあそぼー!』
『ヴァイス、体の調子どうなんだ?』
『あのさ…俺、言いたいこと…やっぱいいや』
『なぁなぁ、今日の飯は肉にしようぜぇ~』
『おい、ヴァイス。…いい加減、帰ってこい』
「うん、暫く出てこなくていいよ。お前は」
ハルは微かに眉を寄せると、幼馴染との回想を箒をはたくように頭から振り払った。
思い返していくと、いい加減煩くなってきた。
ハルにとって、その幼馴染は親友であると同時に世話が焼ける男であった。
(エルの奴、妙に勘がいいからな…
再会した時、どうやって他人のフリをしようか?)
実際に遭遇した時、幼馴染の追跡をどう回避しようかという悩みまで出てきた。
その事を中心にあれこれと考えながら、一旦歩を止めたところ…
「…んん?」
またしても、足元に何かが接触する感覚がした。
徐に視線を下に向けると…薄桃色の猫がすりすりと身体を寄せている。
「…いつの間に」
「にゃー」
先程から撒いているのに、やたらと追跡が早い。
猫に変身した姿でも、探究(ロケーション)は使用できるようだ。
「にゃーん!」
薄桃色の子猫は少々ご機嫌斜めな模様。
鳴き声を出して、何かを訴えている。
「君は…俺の事を探していたの?」
「にゃっ!―――【そのとおりよ!】」
猫の鳴き声が次第に、≪彼女≫の言葉に変換された。
視線を周囲に巡らすが…
通り過ぎる他の人々が気付いた様子はなさそうだ。
【私の言葉…貴方は分かるようね?
大丈夫よ、だってこの言語は普通の人間には伝わらないように調整しているから】
長い年月の間に、器用な術を身に着けたものだ。
「(まぁ、人の事は言えないが…)人語を話せる猫は、久しぶりに見たよ」
【あら、前例がいるのね…ちょっと残念】
「話を戻すけれど、俺を探していた理由を教えてくれるかな?」
【それはね…】
「ニャア―――!!」
すると、≪彼女≫の話を遮る形で猫の声が響き渡った。
その方へ視線を移すと、全速力で駆けてきた橙色の猫の姿が視界に映った。
「ニャアッ!」
【ちょっ…何するのよ!】
橙色の猫は、≪彼女≫の尻尾を口でくわえるとずるずると引きずっていき、
二、三メートル先の場所へ移動していく。
ハルは、彼女達のそのやり取りを見つつ小首を傾げる。
(『迎えに来た』…っていう感じじゃなさそうだな)
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