【30】ハルさんの休日(4)
「店長さん、久しぶり」
「久しぶりだね…」
たまたま遅めの昼食を取るために立ち寄った喫茶店で、以前訪れた小さなお客と再会してしまった。
小さなお客…もとい江戸川コナンは挨拶するや、ハルが座る場所の斜め横の席に腰かけた。
「コナン君、今日は何にするんだい?」
「うーん、と…サンドイッチセットにしようかな」
「かしこまりました」
慣れた感じでコナンからの注文を聞き取ると、安室はすぐにカウンターへ戻っていった。
ナポリタンを食べ終えたハルは、硝子杯に入った氷水を飲んで口の中をスッキリさせた。
「ねぇ、店長さん」
メニューを待つコナンが再び話しかけてきた。
「なんだい?」
「今日はお店にいなくていいの?」
「このところ、仕事ばかりだったから…気分転換を兼ねてね」
そう答えると、コナンは「そうなんだ」と相槌を打つ。
「江戸川 コナン君…だったね?
このお店に慣れているみたいだけど、近くに住んでるの?」
「うん、二階の探偵事務所に」
(……なるほど、近すぎる)
ふと、コナンが『親元を離れて暮らしている』と口にしていた事を思いだした。
育ての保護者が探偵とは…と意外に感じていると、ふとある事に気付いた。
「【毛利探偵事務所】…
もしかして、私立探偵の毛利小五郎さん?」
「そうだよ」
ハルの確認の問いかけに、コナンはその通りと頷く。
『毛利小五郎』とは、新聞やテレビなどのメディア媒体でちょくちょく顔を出している名探偵である。
元刑事という経歴を持ち、ある諸事情から探偵業へ転職したらしい。
そんな彼が表舞台に出るきっかけとなったのは、テレビ局で起きた殺人事件。
テレビで全国放送されている中、事件の真相を解き明かし、犯人を突き止めたのだ。
それ以降も難事件を解決していき、今やその名を知らない人はいないと言われるほどの知名度となった。
…あたかも眠っているかのように鋭い推理力を発揮し、瞬く間に事件を解決してしまう。
その姿から【眠りの小五郎】という異名で呼ばれている。
「毛利さんはお仕事?」
「ううん、事務所にいる。もうちょっとで降りてくるかな…?」
新聞で小五郎に関連する記事を見かけるので、彼に多少の興味があった。
もしお目にかかれるなら、話もしてみたい。
「サイン、お願いしてもいいかな?」
「あはは…おじさんだったら、喜んでするよ。…きっとね」
コナンは苦笑いをしながらそう断言した。
普段から、そういったお願いをされるのだろうか…
最後の呟きが辟易した感じに聞こえた。
「そういえば、コナン君」
「なに? 店長さん」
「先週、お店に一人で来たらしいね。ゲルダさんから聞いたよ」
「阿笠博士が用事ができて、僕が代わりに本を返しに行ったの。
その時に、お姉さんがアイスクリームとジュースをごちそうしてくれて
とっても美味しかったよ」
コナンは笑顔で「ありがとう」と御礼を言った。
どういたしまして…と返すと、ハルはさらに言葉を続ける。
「ところで…ずっと訊こうと思ってたんだ。
コナン君、うちの貸本屋に興味があるのかな?」
「えっ?」
「この間、三階を探検していたようだけど…」
さりげなくその話題に触れてみると、コナンはあぁー…えっと…とたじろぐ。
「ごめんなさい。
『行っちゃいけない』っていう約束を破っちゃって…」
「素直に謝ってくれてありがとう。
できれば、探検したかった理由も教えてくれると嬉しいな」
ハルは優しい口調で、コナンの行動の理由を尋ねる。
コナンは多少目を泳がせると…恐る恐る口を開いた。
「実は…あのお店の、店長さんより前に住んでいた人の事を調べたかったんだ」
「どうして?」
「話すと長くなるんだけどね…」
コナンの説明によると、学校の授業で『有名な人を調べてみよう』という課題が出されたとの事。
個人で調べても、他の子と協力してもいいので、二ヶ月後の授業の時にその結果を発表する事になった。
ほとんどのクラスメイトが伝記になった偉人や、テレビに出ている著名人に目を向けていたが、
コナンは出来るだけ被らない人物にしたいと思った。
誰にしようか迷っていた時、毛利小五郎の娘…蘭が夕食の最中にある話題に触れた。
それが、ハルに以前語ってくれた【双月文庫】の噂である。
噂と並行して、貸本屋【双月文庫】ができる前に屋敷に住んでいた富豪の老人の話が出てきた。
その人物…樺宮誠一郎は、現在も大企業として名を馳せている
【ニューページ】の創設者であったらしい。
話を聞いていたコナンは、ピーンときた。
…その人物なら、学友の子達ともテーマが被らずに面白い発表ができそうな気がする。
ちょうど、知り合いの阿笠氏が【双月文庫】に本を借りに行くと聞き、チャンスと思って同行したのだ。
「本当は、店長さんに話を聞きたかったんだけど、
博士や他のお客さん達に対応していて忙しそうだったから…」
「それで一人で、あの人の事を調べようとしていたんだね」
コナンの言い分を聞き、ハルはふむ…と顎に手を当てる。
「店長さんと、樺宮さんって知り合いだったんだよね?」
「ああ、仲のいい友達だったよ…誠一郎さんは」
「もしよかったら、出会った時の事とか教えてくれる?
樺宮さんってどういうヒトだったのかも…」
コナンからのお願いに、ハルはいいよと快く承諾した。
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