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「今日はどこがいいですか?」

「この領域内で構いません」

「はーい、あっちにある東屋へごアンナイしまーす!」


俺は緊張から唾を飲み込んだ。

画面越しにウタとその女神族のやり取りを見つめるのは、例えリスクが少ないにしても

敵陣のど真ん中で偵察をしている気分にさせる。


手の震えがようやく落ち着いてクッションから手を離した。


(…ウタは怖くないのか?)


女神族は、羽根の数や大きさで序列が決まると言われている。

そうなると、あの女神族はかなり身分の高い女性だろう。

下位の女神族とは何度か戦闘をした事はあるが、女性のように悪寒を感じたりはしなかった。


つまり、次元の違うレベルの強さがその人にはあるという事だ。

安全圏内にいても、彼女の纏う強烈な光の力が伝わってきて肌がぴりぴりしてくる。

それを我慢しながら、俺は視聴を続行する。



「どーぞ、お座りください」


東屋へ着くと、ウタはその女性を座り心地がいいクッションが置かれた席へ座らせた。



「ぬしさま、今日はなににします? いつものにします?」

「では、紅茶を」


「りょーかいしました、お茶ガシはわたしのチョイスでいいですか?」

「任せます」



ウタは「ちょっとおまちくださーい」と告げて席を外した。

女性…『ぬし様』は彼女がいない間、その領域内の景色を眺めていた。


時折、指先で前髪をよけたりと何気ない一つ一つの所作が優雅だ。

敵対部族である俺でも、彼女の洗練されている仕草に見惚れてしまう。

もし、あそこにプロのカメラマンがいれば、迷わずカメラを何十枚も撮るはずだ。



「おまたせしました~」


ウタが銀のトレイを持って戻ってきた。

木製のテーブルの上にティーセットを置いてからまた姿を消し、

今度は本日のお茶菓子を運んできて女性の前に置いた。


「どーぞ、ごショウミください」

「ええ、いただきます」


ティーカップに注がれた紅茶を飲むぬし様。

ウタは、その間何も喋らずにこにこと笑顔で待機していた。


「甘い香りですね…紅茶の品種は?」

「『マリアージュフレール』の【マルコポーロ】です」


ウタの選んだ紅茶は、フレーバーティーで有名な老舗の紅茶ブランドの一品だ。

フレーバーティーは、人によっては好みが別れてしまう紅茶だが、画面に映るぬし様の様子を見ると、

彼女はフレーバーティーを好んでいるようだ。



「そう。ならば、この茶菓子は…クッキーの一種?」

「はい、【ラング・ド・シャ】って言います!」



【ラング・ド・シャ】は、軽くて口の中で溶けるような食感が特徴のクッキーだ。

フランス語で『猫の舌』と言う意味であり、細長い独特の形状をしているため、

猫の舌の形をしているからそう呼ばれている。


だが、ウタが出したのは正方形の【ラング・ド・シャ】。

白と黒…二種類のチョコレートを挟んでいるもので、日本人だった頃によく見かけた馴染みのあるタイプだ。


あれっ?と首を捻る。

さっきまで一緒にクッキー作りに励んでいたけれど、あのタイプのクッキーは作っていなかった。

いつ作ったんだろう…?


「…悪くないですね」

「ありがとうございます」

「こちらを包んでもらえるかしら?」

「はい、りょーかいです!」


【ラング・ド・シャ】が気に入ったのか、ぬし様はお持ち帰りするようだ。

ウタは笑って承諾すると、自分用のティーカップに紅茶を注いでいく。


「ミスティリア」

「はい、なんですか?」


紅茶を半分まで飲んだぬし様が、ティーカップを置いてその名を呼んだ。

俺の知らない…ウタの事を指している名前で。


「この領域内で、『客人』はどのくらい来ているのかしら?」


ぬし様のその質問に、ウタがきょとんとした顔を浮かべた。


「貴女がもてなしているのは…私達、女神族だけではないのでしょう?」

「あっ…ごぞんじでしたか」

「同胞の領域内に、勝手に入り込む輩がいるのは気になるものです」



―――『同胞』

ぬし様が告げたその言葉。


(ウタが…女神族…)


思わない形で知ってしまった事実に、頭が真っ白になりかけた。


―――『わたしは、どんなことがあっても…ハルさんの親友でいるからね』


その時…ウタの言葉が頭を過った。



(そうか…

…ウタがあの時、自分の種族の事を言いたくなかった理由はコレだったのか)



…魔神族である俺に知られたくなかったんだ。



「だいじょーぶです。

みんな、シンセツだったり、おもしろかったり、いい人ですよ」



ウタは満面の笑みでそう答えた。


(ウタ…)


もし、ウタが他の女神族のような思想に染まっていたら…

そんな可能性は彼女が言った回答により消えてしまった。


「…貴女がそう断言するなら、様子をみましょう」


そう返しながら、ぬし様の表情は硬い。

彼女は納得していないのが…よく分かる。



「……ティア」

「はい」


「何かあれば包み隠さずに話しなさい。

客人の件だけでなく…貴女の健康状態も」



ぬし様がもの思わしげな顔で、ウタの頭を撫でた。



「貴女が生まれる前に失ってしまった七割の魂は、必ず回収します。

…そうすれば、貴女は完全に夢から覚める」


(七割の魂が…ない?)



またしても明らかになったウタの秘密。

…俺は暫くの間、画面から目が離せなかった。




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