【29】その頃の彼等はというと…


「よっしゃ!」

「うぅ……」


五分後、勝負に決着がついた。


「あぅぅ…グーの方出せばよかった~…」


銀次は掌を広げたまま中腰で涙を流す。

通常の姿から、2.5頭身のちびキャラになっているところがなんとも可愛らしい。


「ほれほれ、さっさと店番行け」

「銀次さん、デザートを用意しておきますから頑張ってください」

「はーい!」


ゲルダの言葉で、銀次は笑顔ですぐさま立ち直ると受付へ走っていった。


「現金な奴だなぁ」

「君も含めてね」


食後のスイーツでいともたやすくやる気を出す相棒に、蛮は苦笑する。

そんな彼に「人の事言えないだろう」と、セッタがすかさずツッコみを入れる。


「で、ゲルダ。本日のデザートは?」

「桃のヨーグルトムースです」

「お~、季節的にピッタリだな。楽しみにしてるぜ」


つーわけで、料理長…おかわり!

ビシッとカッコよく皿を差し出す蛮に、セッタはハァ?と目を疑う。


「なんだかんだで、まだ食べる気なのか…」

「俺と銀次のとらなきゃならねえ栄養摂取量は、一般人よりもパロメーターが高いんだよ!」

「なら、少ない摂取量で効率的に活動できる方法を考えよう。何事もやりすぎはいけない」


なんだよ、ケチ野郎!

将来の事を見据えてだね…

蛮とセッタの押し問答を傍目から見ながら、ゲルダはふぅ…とほうじ茶を一口飲む。


「…平和って、本当にいいですね」


昔の映画の解説者の名台詞を思い起こさせるような言葉を、ほのぼのとした笑みで言った。

…まったりしたその一時が、時間をおかずにがらりと変わるとは思いもせずに。





【その頃の彼等はというと…】





「いらっしゃいませー、初めてのお客様ですか?」


受付にいる銀次は、やってきた来訪者の接客をしていた。

左目に眼帯を付けた、スポーツウェアを着た体育会系の大柄の男性と

…10代前半の子どもの二人。



「いえ、何度か通っています」

「あっ、そうだったんですか。じゃあ、二人とも…」

「あたしは初めてッス」

「じゃあ、これに名前を書いてもらえるかな?」



銀次が名簿を差し出すと、中性的な顔立ちの子どもはボールペンでさらさらと名前を記載する。


――――『Gloxinia(グロキシニア)』


読みやすい可愛らしい文字で書かれた、その名前は聞いた事のある花の名称と同じだ。

花の絵柄が入った大きめの白のTシャツと、青と白の縞々のレギンズを着ている事とを合わせると、

女の子かな…と銀次は思った。



「グロキシニアって、いい名前だね」

「ありがとッス」


銀次の言葉に、その子ども…グロキシニアはにこやかに笑って返事する。

すると、タイミングを見計らったように大柄の男性が口を開いた。



「失礼ですが…新しく入った方ですか?」


「俺はアルバイトです。

時々、もう一人の相方と一緒にこの店で働いてるんですよ」



普段は別の仕事してるけれど、最近そういうのがなくって…と銀次は苦笑いしながら人差し指で頬を掻く。

大柄の男性は、ほぅ…と右目を細めるとさらに続ける。


「店主がいないようですが…出かけているのですか?」

「ハルさんですか? ハルさんは今日からお休みとってますよ」


銀次がそう答えるや、男性とグロキシニアがぎょっとした。

二人の動揺した反応に、銀次はきょとんとする。


「えっと…ハルさんに何か用事があったのかな?」

「……ちなみに、どのくらいの期間で休む予定なのでしょうか?」

「一週間って聴いてますけど…」


すると、グロキシニアが手をちょいちょいと動かして男性の耳元で小声で話し出した。



≪ドロール君、聞いてないッスよ。留守だなんて…≫

≪すみません。まさか、長期の不在となるとは…想定外でした≫

≪思い切って、会議の翌日に来たのに…これじゃあ無駄足ッスよぉ~≫


≪…とはいえ、このまま帰宅するのは不自然です。

今日は店内を散策しながら情報を探りませんか?≫



留守…想定外…会議…店内…散策…

小声で途切れ途切れの単語しか聞こえてこないが、二人は店内を廻るようだ。

あと、男性は『ドロール』という名前だと判明した。


(ど、どうしよう…ゲルダさんかセッタさんに訊いた方がいいかなぁ…?)


もしかしたら、ハルは二人のどちらかに目の前の彼等に関わる用事を伝えているかもしれない。

確認を取ろうか…としたところ、廊下からゲルダが早歩きで移動してくる姿が見えた。


「銀次さん、何かありましたか?」

「あ、ゲルダさん! ちょうどよかった!」


素敵なタイミングとはまさにこの事。

銀次は事情を話そうとした時…ゲルダがぴたりと足を止めた。


「あれっ? ゲルダさん?」


まるで硬直したように動かないゲルダ。

顔色がいささかすぐれない…一体、どうしたんだろう?


(ま、マスター……事件です…!)


ゲルダが内心、そんな台詞を発しているとは思わない銀次はえっ、えっ…と

困惑気味に彼女の顔の前で手を振っている。

それから、正気を取り戻したゲルダがすぐさまハルのスマホへメールを送るのは

…20分後の話。





【つづく】

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