すだちの魔王城
アッシュはニコニコしていた。
現在いるのは競馬場。その手には、大当たりした馬券が何枚も握られている。
所持金が空になるほど金をつぎ込んでも勝てない日が続いたのだ。満面の笑みになるのも当然というものだろう。
「やっぱりあの馬は見込みがあると思ってたんだよなー!」
勝利を信じて馬券を買い、何度も裏切られてきた日々を思い返し。応援している馬の成長に、感慨深くなる。
馬券の換金を済ませたら貰えるそこそこの金額をズボンのポケットに押し込み、競馬場を後にする。
スキップするような足取りで帰路に着きながら、アッシュはこの金をどうしようかと考える。
金はあるし、住居もある。急ぎで使う用事も無い。銀行に入れるべきだろうが、サイショ村には銀行が無い。
「うーん、次の競馬資金に取っておくかあ?」
ブツブツ呟いていると、強い風がブワリと吹く。思わず瞑った目を開けると、道端の枯れ葉が舞っていた。
「秋だな」
冒険に出たが、金も無く野宿が続いた最初の頃。肌寒くなってきた時に寒さを凌ぐ為、枯れ葉を集めて被っていた。
仲間ができてからはやらなくなった、暖の取り方を思い出す。
「久々にやってみるか?」
首を傾げながら一瞬だけ検討して。
「やっぱり無しだわ」
すぐ止めた。
マオに見られたら大笑いされるかもしれないし、ムラビトには無言で拭かれるかもしれない。他の村人に見られて、何をしているのかと心配させてしまう可能性もある。
「……落ち葉なあ」
そういえば、過去には枯れ葉を集めて仲間たちと焚き火をしたり、芋を焼いたりしたものだ。
焼き方のコツを掴むまで何度か焦がしてしまい、リラに怒られたのも今となっては良い思い出である。
「よし、決めた」
思わぬ臨時収入。良い使い方を閃き、鼻歌交じりにアッシュは歩き出した。
**********
「と言うわけで、お土産買って来たから皆で食おうぜ!」
「これはお肉ですが!?」
ルンルンしながらすだち屋に戻り、ムラビトに買い物袋を渡して。買ってきた理由を聞かれたからアッシュは丁寧に話したのだ。
そうしたらムラビトに何故か思いっきり叫ばれてしまい、アッシュはキョトンとしてしまう。
「肉だよ。肉好きだろ?」
「好きですよ! 好きですが、話の流れ的に袋の中身はお芋かなって思うでしょう?!」
「細かいことは気にすんなよ」
アッシュ君の気まぐれショッピングですぅ〜、と唇を尖らせながら台所へ足を向ける。
「マオ、ほら手伝え。鉄板出して、焼きながら食うぞ」
「肉とはたまには良い買い物するじゃないか!」
皆ですぐさま鉄板を運び出し、肉を焼く。
ジュ〜ジュ〜という音と、部屋中に漂う肉の焼ける食欲を唆る香り。魔物達もワラワラと近寄り、食べたり焼いたりとみんな自分達のペースで楽しんでいる。
上機嫌のマオがどんどんと肉を焼くと同時進行でフィルムラップを破った。そのフィルムに付いている値段シールが見えて、ムラビトは気絶しそうになる。
「アッシュさん?!」
「んー、何だよ? ほら。肉食え、肉」
ムラビトはちらりとマオの方を見遣ってから、小声でアッシュに小言を言ってしまう。
「この肉の値段……!!」
アッシュの買ってきた肉は、庶民にはとても手の出しにくい高級肉だった。
「美味いだろ?」
「美味しいですがっ!!」
「良いじゃん、俺の金なんだし?」
さすが富と名誉を手に入れた男である。金銭感覚がムラビトとは違う。ガクリと項垂れていると、アッシュの視線は楽しそうに肉を食べているマオや魔物へ向いた。
「美味いだろ? 団欒しながら食う飯は」
「はい、美味しいですよ……?」
「焚き火で芋を焼くんじゃ、外だから村の連中に見られるかもしれないだろ」
そう言われ、ムラビトはハッとなる。
長い間、魔物たちに店の手伝いをしてもらっていて、すっかり感覚が鈍っていた。店の中に沢山の魔物がいたあの日。ムラビト自身、気を失いそうな程怖かった。サイショ村の誰かに魔物たちを見られたら、どうなるか。
まず、皆怖がるだろう。これは言うまでもない。次に、騎士団などに急ぎで討伐連絡が行く。騎士団などが来るまでに魔物たちが逃げられたら良いが、きっと逃げ遅れる子もいる。
逃げ遅れた子は殺される。一方で無事に逃げることの出来た子たちが避難出来る場所はあるだろうか。逃げた後に、すだち屋に戻ってくることは不可能で、しかし暖かな日々を知った彼らに外で暮らす日々に戻ることは可能かどうか。恐らく無理であろう。
それらを考えて、アッシュは芋ではなく肉を買ってきてくれたのだ。
「ありがとうございます……」
「おう。分かったらたらふく食え」
「はい……っ」
口に肉を運び、頬張る。とても柔らかく、口の中で溶けるような感覚だ。ふわふわである。そして、香りもとても素晴らしい。
これが、高級肉っ!と叫びたくなるほど美味しい。
「おい、アッシュ! 肉がそろそろ無くなるぞ!」
「え、マジでー? 結構多めに買ったんだけどな?」
ムラビトが味わいながら食べていると、マオから声が掛かった。その横には山のように積まれたプラスチックトレー。
「この量の肉が、全部一瞬で消えたんですか?!」
アッシュが買ってきたのは、家族団欒用の結構大きめのトレーの肉だった。それが僅かの間にマオと魔物達の腹の中収まり、消えて無くなった。
「美味しい物はしっかり食べないとな! 我慢は不健康だ!」
「そっ、そうでしょうけど……!」
「じゃあ次はカニ食うぞ〜。冷蔵庫に入れてたやつ取ってくるな」
「カニ?!」
カニと聞いて、マオや魔物たちの目が輝く。カニも高級品で、中々食べられる物ではないから当然の反応だろう。
鍋とコンロを出し、カニの胴体や脚を入れて次々に茹でていく。
「そろそろこれは食べ頃ですかね」
ムラビトが、茹で上がったカニを皆の皿に乗せた。だがしかし、身をほぐすのが下手な子も多く、結局はムラビトが殻からほぐして汁に入れていく。
「ムラビト、おかわり!!」
「ちょっと待ってくださいね、順番にやっていきますので」
自分でほぐすことを放棄したマオは、すぐ食べ終わって次を催促する。しかし、ムラビトは他の魔物全員の物もやらなければならなくなり、なかなか対応してもらえない。
「……」
じれったくなり、マオも自分でほぐし始めたが、自分でやると殻に身が残ってしまう。そんなマオの様子を見て、アッシュがゲラゲラ笑うのも腹が立った。
「ムラビトー! まだか?!」
「ああ、あとちょっとですっ! 待ってくださいっ」
丁度列の最後のカニを剥いたようで、軽く手を拭きながらマオの方を向く。そしてまた殻から身を取ってやりながら、ムラビトも自分のを少しずつ食べていった。
プレートで焼いた肉と、鍋いっぱいに茹でたカニの香りが充満したすだち屋は、今日はいつもより早く日付が変わったような気がした。
*************
「アッシュさん。あれから皆が次の高級肉バーベキューはいつだろうって、期待に満ちた目で見てくるんですけど……」
「あれはレアイベントだから良いんだよ。高級肉を買ったのも臨時収入があったからだし」
「普通の肉を焼いても、微妙に残念そうなオーラを感じるんですよ……。隠してはくれるんですけど、申し訳ない気持ちになります」
「毎日高級肉を食えるほど稼げるように頑張ろーぜ」
「はい……」
現在いるのは競馬場。その手には、大当たりした馬券が何枚も握られている。
所持金が空になるほど金をつぎ込んでも勝てない日が続いたのだ。満面の笑みになるのも当然というものだろう。
「やっぱりあの馬は見込みがあると思ってたんだよなー!」
勝利を信じて馬券を買い、何度も裏切られてきた日々を思い返し。応援している馬の成長に、感慨深くなる。
馬券の換金を済ませたら貰えるそこそこの金額をズボンのポケットに押し込み、競馬場を後にする。
スキップするような足取りで帰路に着きながら、アッシュはこの金をどうしようかと考える。
金はあるし、住居もある。急ぎで使う用事も無い。銀行に入れるべきだろうが、サイショ村には銀行が無い。
「うーん、次の競馬資金に取っておくかあ?」
ブツブツ呟いていると、強い風がブワリと吹く。思わず瞑った目を開けると、道端の枯れ葉が舞っていた。
「秋だな」
冒険に出たが、金も無く野宿が続いた最初の頃。肌寒くなってきた時に寒さを凌ぐ為、枯れ葉を集めて被っていた。
仲間ができてからはやらなくなった、暖の取り方を思い出す。
「久々にやってみるか?」
首を傾げながら一瞬だけ検討して。
「やっぱり無しだわ」
すぐ止めた。
マオに見られたら大笑いされるかもしれないし、ムラビトには無言で拭かれるかもしれない。他の村人に見られて、何をしているのかと心配させてしまう可能性もある。
「……落ち葉なあ」
そういえば、過去には枯れ葉を集めて仲間たちと焚き火をしたり、芋を焼いたりしたものだ。
焼き方のコツを掴むまで何度か焦がしてしまい、リラに怒られたのも今となっては良い思い出である。
「よし、決めた」
思わぬ臨時収入。良い使い方を閃き、鼻歌交じりにアッシュは歩き出した。
**********
「と言うわけで、お土産買って来たから皆で食おうぜ!」
「これはお肉ですが!?」
ルンルンしながらすだち屋に戻り、ムラビトに買い物袋を渡して。買ってきた理由を聞かれたからアッシュは丁寧に話したのだ。
そうしたらムラビトに何故か思いっきり叫ばれてしまい、アッシュはキョトンとしてしまう。
「肉だよ。肉好きだろ?」
「好きですよ! 好きですが、話の流れ的に袋の中身はお芋かなって思うでしょう?!」
「細かいことは気にすんなよ」
アッシュ君の気まぐれショッピングですぅ〜、と唇を尖らせながら台所へ足を向ける。
「マオ、ほら手伝え。鉄板出して、焼きながら食うぞ」
「肉とはたまには良い買い物するじゃないか!」
皆ですぐさま鉄板を運び出し、肉を焼く。
ジュ〜ジュ〜という音と、部屋中に漂う肉の焼ける食欲を唆る香り。魔物達もワラワラと近寄り、食べたり焼いたりとみんな自分達のペースで楽しんでいる。
上機嫌のマオがどんどんと肉を焼くと同時進行でフィルムラップを破った。そのフィルムに付いている値段シールが見えて、ムラビトは気絶しそうになる。
「アッシュさん?!」
「んー、何だよ? ほら。肉食え、肉」
ムラビトはちらりとマオの方を見遣ってから、小声でアッシュに小言を言ってしまう。
「この肉の値段……!!」
アッシュの買ってきた肉は、庶民にはとても手の出しにくい高級肉だった。
「美味いだろ?」
「美味しいですがっ!!」
「良いじゃん、俺の金なんだし?」
さすが富と名誉を手に入れた男である。金銭感覚がムラビトとは違う。ガクリと項垂れていると、アッシュの視線は楽しそうに肉を食べているマオや魔物へ向いた。
「美味いだろ? 団欒しながら食う飯は」
「はい、美味しいですよ……?」
「焚き火で芋を焼くんじゃ、外だから村の連中に見られるかもしれないだろ」
そう言われ、ムラビトはハッとなる。
長い間、魔物たちに店の手伝いをしてもらっていて、すっかり感覚が鈍っていた。店の中に沢山の魔物がいたあの日。ムラビト自身、気を失いそうな程怖かった。サイショ村の誰かに魔物たちを見られたら、どうなるか。
まず、皆怖がるだろう。これは言うまでもない。次に、騎士団などに急ぎで討伐連絡が行く。騎士団などが来るまでに魔物たちが逃げられたら良いが、きっと逃げ遅れる子もいる。
逃げ遅れた子は殺される。一方で無事に逃げることの出来た子たちが避難出来る場所はあるだろうか。逃げた後に、すだち屋に戻ってくることは不可能で、しかし暖かな日々を知った彼らに外で暮らす日々に戻ることは可能かどうか。恐らく無理であろう。
それらを考えて、アッシュは芋ではなく肉を買ってきてくれたのだ。
「ありがとうございます……」
「おう。分かったらたらふく食え」
「はい……っ」
口に肉を運び、頬張る。とても柔らかく、口の中で溶けるような感覚だ。ふわふわである。そして、香りもとても素晴らしい。
これが、高級肉っ!と叫びたくなるほど美味しい。
「おい、アッシュ! 肉がそろそろ無くなるぞ!」
「え、マジでー? 結構多めに買ったんだけどな?」
ムラビトが味わいながら食べていると、マオから声が掛かった。その横には山のように積まれたプラスチックトレー。
「この量の肉が、全部一瞬で消えたんですか?!」
アッシュが買ってきたのは、家族団欒用の結構大きめのトレーの肉だった。それが僅かの間にマオと魔物達の腹の中収まり、消えて無くなった。
「美味しい物はしっかり食べないとな! 我慢は不健康だ!」
「そっ、そうでしょうけど……!」
「じゃあ次はカニ食うぞ〜。冷蔵庫に入れてたやつ取ってくるな」
「カニ?!」
カニと聞いて、マオや魔物たちの目が輝く。カニも高級品で、中々食べられる物ではないから当然の反応だろう。
鍋とコンロを出し、カニの胴体や脚を入れて次々に茹でていく。
「そろそろこれは食べ頃ですかね」
ムラビトが、茹で上がったカニを皆の皿に乗せた。だがしかし、身をほぐすのが下手な子も多く、結局はムラビトが殻からほぐして汁に入れていく。
「ムラビト、おかわり!!」
「ちょっと待ってくださいね、順番にやっていきますので」
自分でほぐすことを放棄したマオは、すぐ食べ終わって次を催促する。しかし、ムラビトは他の魔物全員の物もやらなければならなくなり、なかなか対応してもらえない。
「……」
じれったくなり、マオも自分でほぐし始めたが、自分でやると殻に身が残ってしまう。そんなマオの様子を見て、アッシュがゲラゲラ笑うのも腹が立った。
「ムラビトー! まだか?!」
「ああ、あとちょっとですっ! 待ってくださいっ」
丁度列の最後のカニを剥いたようで、軽く手を拭きながらマオの方を向く。そしてまた殻から身を取ってやりながら、ムラビトも自分のを少しずつ食べていった。
プレートで焼いた肉と、鍋いっぱいに茹でたカニの香りが充満したすだち屋は、今日はいつもより早く日付が変わったような気がした。
*************
「アッシュさん。あれから皆が次の高級肉バーベキューはいつだろうって、期待に満ちた目で見てくるんですけど……」
「あれはレアイベントだから良いんだよ。高級肉を買ったのも臨時収入があったからだし」
「普通の肉を焼いても、微妙に残念そうなオーラを感じるんですよ……。隠してはくれるんですけど、申し訳ない気持ちになります」
「毎日高級肉を食えるほど稼げるように頑張ろーぜ」
「はい……」
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