すだちの魔王城

「勇者降臨記念祭」が終了し、三人は王都からサイショ村に帰ってきた。
ここでアッシュとはお別れになると思い、祭の間に覚悟をしていたのだが、全員揃って帰宅することが出来た。
そこで本日、道具屋「すだち屋」ではムラビト主催のパーティが行われている。

机の上には、揚げ物やケーキ、肉に海鮮と、普段ならばなかなか出すことの出来ない豪華な食事が溢れそうな位食卓に並べられ。部屋には花や、「アッシュさんおめでとう」と書かれた垂れ幕が飾られた。ちなみに酒は置かれていない。
アッシュとしては垂れ幕は今すぐにでも外したかったのだが、100%善意で用意したであろうムラビトの顔を見ると外せなかった。
垂れ幕はともかく、あのお金大好きなムラビトが財布の紐を緩めてこんなにも用意してくれた。マオも言葉にはしないが己の帰宅を歓迎してくれている。
その事実に、じんわりとアッシュの胸には温かいものが込み上げてきていた。

「いただきます」と挨拶を済ませた後、アッシュとマオが率先して肉を取り口に入れていくので減りが早く、一方でサラダはまだ皿の上に山盛りである。
ムラビトがサラダを自身の皿に取り分け食べていると、「カランカラン」とドアの開く音が店内に響いた。

「やあ、みんな。元気そうだね~」
「あ、村長。こんにちは!」
「すごい楽しそうな声が聞こえてきて、ついお邪魔しちゃったよ」

ふくよかボディの村長が明るい声で言いながら部屋の中を見回していると、垂れ幕のところで目が止まった。
「アッシュ君、何か良いことがあったんだね。何があったんだい?」

村長の期待に輝く瞳を向けて、アッシュを見つめる。
一方アッシュは困惑してしまい、ちらりと二人の方に視線を向けた。
まさか村長が来るとは思っていなかったので、パーティを行う外部への理由を考えていなかった。
「多忙だった勇者業の休暇をもらえました」と馬鹿正直に言うわけにはいかないが、適当な嘘をついたら嘘がバレた時に信用が無くなってしまう。
何より不必要な嘘はアッシュ自身つきたくないから、さあどうするべきか。

小さく唸りながら悩んでいたその時。
「こいつは言いたくないみたいだからな、我が代わりに言ってやろう」
ふん、仕方のない奴だ、と言いながらマオが村長に近づいた。

最近のマオは、アッシュのことを昔よりは嫌っていないだろうと思っているので上手い感じに誤魔化してくれるのかと期待していたが。
「アッシュの人格を否定しながら約十年執着し、更にはトイレ位しか自由時間を与えなかった爺さんと先日無事に和解してアッシュが解放されたから、その記念パーティーだ」

この瞬間、部屋の温度が下がったのが全員に分かった。
ムラビトは視線をゆっくりと店の外に向け、マオは腕を組みながらその場に立ち、村長はポカンと口を開けてアッシュを見つめている。アッシュは今すぐ崩れ落ちてしまいたいのを、何とか意地と根性で耐えていた。
確かに嘘は言っていないが、表現の仕方が最悪である。

「……本当なの、アッシュ君?」
「……はい」
「そっかぁ……。大変だったんだね……」
誰にも言わないからね、と肩を軽く叩いた後、村長は店のドアをそっと閉めて出ていった。

「マオ……?」
「何だ」
「もう少し別の言い方はなかったのか……?」
「別に間違ってはないだろう?」

そう言って見上げてくるマオの顔は、城のトイレの天井に張りついていた時と似たような顔をしていて。
村中に響きわたるほどの大声で「外道~!!」とアッシュは叫んでしまったが、恐らくそれは誰にも責められないだろう。

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