きめつ

 注意!
・キメ学の設定は完全無視した現パロ
・宇髄さんが社畜
・お嫁さんたちは妹として登場します
・炭治郎、善逸、伊之助がアイドルやってます
・宇髄さん視点で進みます。

以上の内、ダメなものがある方は速やかにお戻りください。
読後の苦情は受け付けません。
読んでいただけた方に、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


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 財布良し、定期良し、チケット良し、応援グッズもちゃんとある! うん、忘れ物は無し! 
 流石俺! 前日準備をしていたからもう後は家を出るだけだ。

「天兄ー、準備出来たぁ? あたしはオッケーですよぉ」
「おう、俺もバッチリだぜ。じゃあそろそろ出るか」
「はーい!!」
 俺と妹の須磨は休日の予定を一緒に合わせて取った。これから向かう先は、ただ今人気上昇中のアイドルグループ「かまぼこ隊」のコンサートだ。
 今日の天気は雲一つない快晴。絶好のコンサート日和。これも、かまぼこ隊の奴らの日頃の行いが良いからだと思う。

 さて。かまぼこ隊は、タンジロウ、ゼンイツ、イノスケという少年3人に寄り結成されている。正直に言うと最初は全く興味など無かった。「あぁ、須磨がハマっているアイドルグループだな」位の印象だった。
 その頃の俺はいわゆる社畜で、仕事に忙殺されていて、休日などあって無いようなもので。言い訳にしかならないが、大事な妹の誕生日に渡すプレゼントを買いに行く時間さえ出来なかった。泣き虫な須磨は、誕生日当日に俺がいないことに泣き叫び大変だったと、悲しそうな雛鶴とまきをから後から聞いて俺も悲しかったことは忘れられない。
 
 そんな須磨に「チケットを取ったから、一緒にコンサートに行ってほしくて…。一緒に行ってくれることがあたしへの誕生日プレゼントってことで、お願い…」と言われたのだ。いつも天真爛漫、素直でかわいい妹が遠慮がちに、目に涙を浮かべながら無理だと諦めたような顔で。
 そんな妹を見て本当に自分自身が不甲斐なく、心底情けなかった。だから兄ちゃん意地でも頑張るよな。その話はコンサートの数か月前に言われたから、須磨には絶対休みを頑張って取ることを誓い、その次の日からコンサート前日まで毎日職場で宣言しまくった。妹の誕生日祝いにコンサートに行くこと、絶対何があってもこの日は休日を取ること。当日は電話の電源を切るから出ないし、固定電話の線も抜くこと。万が一、家に押しかけて来ようものなら通報すること。
 こうして無理矢理もぎ取った休日。そこで行ったのが、かまぼこ隊のコンサートだった。

 物販の為に早めに家を出て、グッズを見て、須磨が欲しいというものを買って。久しぶりに見る妹の笑い顔に癒されるけれど、やはり通勤とはまた違う人混みは社畜の体にはしんどかったのもあり、自販機でジュースを買って少し早めに席に座って休んだ。座りながら、道中受けたかまぼこ隊についての説明を思い出す。
 リーダーのタンジロウは真面目で頭は固いが、誰にでも好かれる爽やか少年。ゼンイツは金髪でやかましいムードメーカーだが、作詞作曲させた曲は大変素晴らしいらしい。イノスケは、とても美形だがすごい筋肉を持っており、アクロバットな踊りが大変魅力的だとか。

 椅子に座ってウトウトしていたら須磨が両手いっぱいにグッズを抱えて満足そうに帰ってきて、その中から3人の写真を見せてくれる。確かに皆整った顔をしているな、と思っていたら会場が薄暗くなり、ド派手な音楽が鳴り響いた。観客の歓声がワァーッと会場全体に響き、ペンライトやうちわを振り回したりしていて、ここにいる皆、今日のこの日を楽しみにしていたということを全身で表現している。
 正直彼らの曲は何一つ知らないが、聴いてみるとかまぼこ隊の歌は俺の好みドンピシャで、知らないながら音楽にリズムを合わせて揺れてみたりする。そうしている内に、心が弾んでいるのを実感してきた。こんな気持ちになるのは一体いつぶりだろうか。
 大熱狂なコンサートは一回休憩を挟むということで、休憩になると俺はトイレに行ったり、まだ残っているだろうかと物販コーナーも少し覗いた。ふと周囲を見渡すと、どこを見ても笑顔ばかりで温かい気分になる。

 あぁ、こういう雰囲気良いなあ、昔の俺は派手なことが好きだったのに、友達や家族を楽しませることが好きだったのに…。いつの間にこんなになっちまったかなぁ…。
 ちょっと気分が落ち込みそうになったが、せっかく楽しい場所に来ているんだから暗い気持ちになったらもったいない。今だけは仕事のことも忘れて楽しもうと気持ちを改めながら席に戻ると、須磨はすでに先に戻って来ていた。
「ただいま、須磨」
「おかえりなさーい。天兄、驚いたらいけないから先に言っておくね。後半しばらくはタンジロウとイノスケのダンスコーナーだからね」
「はぁ?」
 詳しく聞くと、かまぼこ隊のコンサートはいつもこうらしい。二人が踊っている間に、ゼンイツが今日来たお客さんの中から特に目についた人から受けたイメージを元に即興で一曲作り、最後にゼンイツが適当にギターを弾きながら歌うらしい。
 何だそれ、派手にヤバくねえか。一曲作るだけでかなりの労力がいるだろうに、初めて見る客からイメージして、その場ですぐに歌を作る? 何だその鬼才。

 今まで大して興味の無かったこのグループへの関心がムクムクと大きくなっていくのが自分で分かる。コンサート中に見られた三人の掛け合いだけでも、まるで親戚の子供たちのじゃれ合いを見ているような気分でほわほわしているのに。あいつらにお小遣いをあげたくなるような気分になってるのに。ヤバイ。何がヤバイのか分からないがヤバイ。
 そんな状態の俺のことなど構わないと言うかのように、ブザーと共に後半戦がスタートした。
 ステージの中央から出てきたタンジロウとイノスケの衣装も前半のキラキラしたものから、踊りやすく、でもヒラヒラとした華やかな見る者を魅了するものに変わっていた。彼らの踊りの激しさ、美しさ、面白さには思わず息が止まるほどで、時折ふっと見えた眼光の鋭さにはゾワッと鳥肌が立ったほどだ。コンサートなのに歌を歌わなくて大丈夫なのか心配したが、杞憂だったようだ。
 
 何曲も続けて踊っていた二人が、スタッフからマイクを渡されていた。
「ゼンイツの準備が完了したようです! いつもより断然早いですね、俺もビックリしました!」
 ハンカチで汗を拭いながらタンジロウがそう言うと、会場から今日一番の歓声が沸き上がった。ここにいる人は皆、もしかしたら自分をイメージして曲を作ってくれているのではないか、と期待しているんだろう。確かにそんな体験出来たら貴重だよなぁ。
「おい、権八! じゃあどうすんだ? 最初と予定が狂ってるってことだろ?」
「イノスケ。そうだけど、ハッキリ言うんじゃない! うーん、ゼンイツが歌った後にまた別の歌を歌えば良いんじゃないか?」
 
 権八って誰だ。思わずそう思ったが、タンジロウが普通に返事しているし、周りも笑っているから権八はタンジロウのことなんだなっと思って微笑ましく見る。そうワチャワチャしてると、ステージの端からゼンイツが出てきた。衣装も二人と同じようなものに着替えている。
「皆さん、お待たせしましたー! 即興曲、出来上がりましたー!」
 いやぁ、今日のコンサートは普段見ないタイプの方が来てるのが偶然見えてね! とっても疲れてる人ぽかったから、お疲れ様って気持ちを込めながら書いたら割と順調だったよー! と言いながら中央に用意された椅子に向かっている。 
 その言葉に思わずといった風に須磨がこちらを見てくる。気持ちは分かる。俺は今日初めてかまぼこ隊のコンサートに来たし、めちゃくちゃに仕事に疲れてるし。正直、俺の事? と一瞬俺自身思ったよ。
でも無いだろ。どんな確率だよ。
 
「あれ、ゼン君、ギター持ってない…?」
 俺の隣のお客さんがふっと、思わず零れたという感じの声を出した。確かに、さっき須磨はギターを弾くと言っていたはずだが、見ると今彼の手には何もない。どういうことだ?
「今日の即興曲にギターは似合わないかなっていうか、琴とか、そういった感じの和楽器とかが良いかなって思ったんだけど、俺は和楽器の演奏はまだ無理だから…。でも後日出すCDでは伴奏つけるから、許してね! 今日はアカペラです! ほら、今日限定のアカペラだから逆に貴重だよ、お願い許してね!!」
 マイクを持ちながら慌ててそう説明するゼンイツに会場からは「大丈夫だよー!」という声が返ってくる。その声にホッとした顔をしながら、ゼンイツは指で3,2,1とカウントした後、息を吸って目を伏せがちに歌いだした。
 簡単に言えば、お疲れ様。頑張ってるね、頑張るあなたはとても素敵。でも無理はしないでね。会社にとってあなたの代わりはいくらでもいるけど、あなたにとっては、家族にとってはあなたの代わりは誰もいない。といった内容の曲だった。
 とても優しい声色で、とても気遣ってくれているのだと感じる歌だった。

 胸がジィンとしながら中央に立つゼンイツを見ていたら、俺の隣から鼻をすする音がする。焦って横を見ると須磨が泣いていた。急いでポケットを漁るがハンカチはさっきトイレに行ったときに濡れてしまっている。代わりのハンカチなど持っていないので、服の袖で涙を拭ってやった。
「天兄―…。そうですよぉ。毎日毎日、仕事に行くのに始発の電車で帰りは終電で、何十連勤してるのぉ…。このままじゃ天兄、死んじゃうよ…。そんなの嫌だよぉ…!」
 あぁ、俺は大事な家族にこんなにも心配を掛けていたのか。急にそのことを実感したら、俺の眼からも勝手に涙が出てきた。くそっ、自分自身が嫌になる。ごめんな、と何度も呟きながら震える腕を伸ばして須磨の体を抱きしめる。そうすると益々須磨は泣き出して、俺の服を皺が出来るほど強く握りしめた。
 
 そんな俺たちは大変目立っていたらしく、周囲の人はハンカチをそっと渡してくれたし、歌が終わった後にタンジロウが「仲の良いご兄弟ですね! 俺も弟妹がたくさんいるし、皆とっても大事な家族なので! お二人を見て俺もウルッときました!」と大きい声で言いやがった。お前マジ止めろ、恥ずかしいから。
「おい、紋逸。今回の歌はあいつらが素か?」
「うん。そう」
 は? ちょっと待て。お前何サラッと衝撃発言してやがる。俺も須磨もビックリしすぎて涙引っ込んだわ。
「開演前にステージの端から観客席見てたらさあ。あの人が目に入ってさぁ。メチャクチャ背の高いイケメンいるな、ムカつくなって思ったんだけど。見るからに草臥れましたって感じで。座りながらウトウトしてるし。どうしたんだろって思ってちょっと見てたら、すんごい美人さんが隣に来るじゃん。イケメン爆発しろって心の底から思ったけど、二人とも愛しい家族を見る目をしてたから。そういうの良いなって思ったらメロディーがボンボン浮かんできてさ」
 良いよねぇ、兄弟愛! と言いながら頷いているゼンイツに、そうだな! と同意しているタンジロウ。ほわほわさせんじゃねえ! と叫びながら叫んでいるイノスケ。
 あいつらを見ながら出た言葉は「推すー…」だった。

 それからの俺は退職に向けて全力を注いだ。まずコンサートの翌日には1ヶ月後に退職することを伝えた。引き留められたが、俺にはこの職場に残る理由など何もないから応じない。この上司は時代遅れのパワハラ上司だから何か言われるかと思ったが、俺の体格がいいから俺を恐れているんだろう、「辞めたらどうなると思う?」等と脅されることは無かった。
 それから、俺がいなくなった後も困らないように引き継ぎの資料はしっかり作り、伝達事項の伝え忘れがないよう細心の注意を払い、履歴書なども調達した。転職先はまだ決まっていないが、このままこの職場にいても転職活動をする時間も体力も無いから辞めることを優先した。幸い金は貯まっているし、実家住まいだから大丈夫だろうと思うことにする。
 ちなみに無事退職出来た時には家族みんなで盛大にお祝いしてもらった。美味い食事を食べながらこんなに俺のことを心配してくれる家族がいることは幸せだなってかみしめた。

 コンサートに向かう電車に揺られながら、降車駅付近でゆっくりと目を覚ました。懐かしい、昔の夢を見たなぁ。あの時のコンサートDVDと、しばらくして発売されたあの即興曲のCDは、現在我が家では神棚に飾ってある。あの日が俺の転機となったものだから、当然の扱いだと思う。
 他にも俺の部屋にはグッズ、写真集、アルバムCDとかまぼこ隊アイテムをたくさん揃えている。ちなみに今日のカバンには、かまぼこ隊三人のイメージをモチーフに作られたキーホルダーを着けている。このキーホルダーが大変お気に入りで、雛鶴とまきをにも協力してもらって数個手に入れて、それぞれ外出用と出勤用、保管用として愛用している。
「天兄、寝すぎじゃない? 行くまでの間に話をするのもコンサートの醍醐味だと思うんだけどー…」
「バッカ、社会人は体力温存しないと体力持たないんだよ。コンサートを全力で楽しむ為だから許せ」
「うん。許す」
 そうやって、須磨と二人で顔を突き合わせてふはって笑って。停車した電車から降りて心を弾ませながら俺たちは会場へ歩いた。周囲には同じ会場に向かう同志たちがたくさんいる。
 こうやってみんなで楽しめることに感謝を、そして推しには全力の応援を!
 さあ、ド派手に今日という日を楽しもう!
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