きめつ

1名無しさん
宣誓。僕はちょっと今からビンタしに行ってこようかと思います

2名無しさん
待て待て

3名無しさん
突然の暴力宣言はやめなさい

4名無しさん
何があった、ん?
ちょっと話してみなさい?

5名無しさん
おじさんたちが話聞いてあげるよー

6名無しさん
1は自己紹介をしてねー
分かりやすいように、名前も書いてね

7名無しさん
ビンタしようと思った経緯も話してねー

8名無しさん
こんな物騒な宣誓、聞いたことない…

9名無しさん
大体運動会とかで聞くこと多いよね
「宣誓! 僕たちは~」って。

10名無しさん
何となく爽やかな場面で使うイメージ

11名無しさん
少なくとも人を殴りにいく場面で使うものではないと思う

12名無しさん
「宣誓」をひとまずネット辞書で調べたんだけどさ。
多くの人の前で誓いの言葉を述べること。が一番で出てきたけど、他にも公務員が職務を史実公正に執行するのを誓うとか、そういうのもあるらしいよ

13名無しさん
へー!!

14むい
これで良い?
自己紹介って何書けば良いんだろうって考えてたけど、よく考えたら別に自己紹介なんていらないんじゃない?
ただビンタしに行くだけだし…

15名無しさん
いるよー!
こっちが話を聞く上で人物像の解析度が上がる!

16名無しさん
ここに書くという判断はむいがしたんだから、自己紹介とその経緯は大事だと思うの!

17名無しさん
本当に暴力を振るいに行くなら、その暴力には正当性があるか、無かったら止めるという責務がこっちにもあるしな
書け!

18むい
中学2年生。双子の弟。
個人情報漏洩が怖い時代だし、自己紹介ってこの位でいいと思うんだよね
もし詳しく書いて、僕やその周囲の人が特定されたり悪用された時、ここにいる人たちって責任とれる?取れないよね?
だからこの位で良いよね?

19名無しさん
…その位で大丈夫です!

20名無しさん
責任取れません!
ごめんなさい!

21名無しさん
じゃあ殴りに行こうと思った経緯をください!

22名無しさん
ネットリテラシーがしっかりしてるなあ

23名無しさん
この位でちょうどいいと思うよ
最近悪用する人多いし…

24名無しさん
皆お面とかサングラスとか目隠しとか、顔を隠してネットに投稿するべきだと思う

25名無しさん
まあ口より目を隠せとは思う

26名無しさん
口より目のほうが特徴あるから特定されやすそうだよなと思う…

27むい
殴りに行こうと思った経緯ね
えーと、僕には上級生の友達がいるんだけど、仲良いんだ
よく家で遊んでる。楽しいよ

28名無しさん
お、良いね
何して遊んでるんだ?

29むい
ゲームしたり、すいかをたたき割ったり、他にも勉強したりとか?

30名無しさん
青春だねえ

31むい
その上級生の友達、玄、だけどね
僕が風邪をひいた時にお見舞いに来ようとしてくれていたらしいんだ
地元の個人商店で、ジュースとか、ゼリーとか、あとチョコレートとかポテチとかも一緒に買っていたらしいんだよね

32名無しさん
優しいな友達

33名無しさん
大切な友達に何かしたかったんだろうな

34名無しさん
何で「らしい」を連呼するんだ?
見舞いに来てくれたんだろ?
来れなくなったのか?

35むい
来る途中で荷物をひったくられたんだって。
買った物をレジ袋に入れて僕の家まで向かっていたらしいんだけど、来る途中に二人乗りのバイクに盗られたって。

こう、一人が運転して一人が一瞬で後ろから盗って行って。
玄も走って追いかけたけど、追いつけるわけないから盗られたって
「車道側に持ってた俺が悪かった、今度から気を付ける」って言ってたけど、どう考えても玄が悪いわけないでしょ
盗む奴が悪いんだよ

36名無しさん
それはそう

37名無しさん
どう考えても盗む方が悪いわな
犯罪だよ

38名無しさん
盗んだ奴らが盗んだお菓子を食べながらゲラゲラ笑ってるかと思うと腸煮えくり返る

39名無しさん
え、玄はそのことむいに直接話したの?
「ひったくられちゃったー」って。

40むい
>>39そんな訳ないでしょ。玄はそんな恩着せがましいことしないよ
たまたま会話が聞こえて知ったんだよ

41名無しさん
差し支えなければ会話も書いてほしいなあ
ちょっと気になっちゃうなー

42名無しさん
個人が特定されない範囲で結構だから、会話を!!
ご慈悲を!

43むい
歴史「玄少年!そのかすり傷のようなものはどうした!?」
玄「あ、ええと。大したことではないんですが…」
歴史「大したことでもなくても良い。君が良ければ話してくれないか?!」
玄「…バイクにひったくられまして、その時に転びました」
歴史「ひったくりだと!!!!」(クソデカボイス)
玄「ちょっと、先生!声でかいです!」
歴史「ああ、すまなかった!他に怪我は無いか?」
玄「怪我は無いんですが…。昔兄ちゃんとお揃いで買ってもらった小銭入れも、買った物と一緒に入れていたので盗られて…」
歴史「何だと!!!!!!!!」(クソデカボイス!)
玄「先生!!」
歴史「すまん!!俺も弟がいるから、ついな!それで、警察には通報したか?」
玄「したんですが、俺も動揺してて…。女性二人ということは分かるんですが、ナンバープレートとか車種とか全然見てなくて。正直犯人の特定は難しいかもしれないと言われました」
歴史「そうか…」
玄「車道側に持ってた俺が悪かったんで、今度から気を付けます」
歴史「君が悪いことは何もないのだが、注意することは大切だな!!!!!!!!!!!」(クソデカボイス!!)
玄「先生!!!」
歴史「すまん!!」

この後も会話してて、その流れで僕への見舞いを買ってくれていたことを知ったんだよ

44名無しさん
(クソデカボイス!)が気になるんだけど

45名無しさん
しかもどんどん「!」が増えるっていうな

46名無しさん
これは聞く気が無くても聴こえるやつだ…

47名無しさん
歴史の先生、どんだけ声がでかいんだよ

48むい
で、僕もひったくり犯にはムカついたからね
囮をやってきたんだ

同じ店に行ってわざとお菓子を大目に買い物してカバンに入れて、ひったくらせたんだ
犯人どもはその中にGPSが入っているとは知らずにね
で、パソコンでバイクが停止したところを確認して、今からそこへ向かうところ。

49名無しさん
待て待て待て!
囮てお前!危険なことをするなよ!

50名無しさん
さっき玄の会話で、犯人の特定は難しいって言ってたよね
でも店に犯人がいるって分からないと囮って出来ないよね?

51名無しさん
まさかひったくられるまで、毎回おかし大量購入したの?

52名無しさん
どんな金持ち中学生だよ!?

53むい
さすがにそんな懐の余裕ないよ
諜報活動が得意な前世忍の先生がいるから、その人にお願いした。
すごいね、たった数日で犯人見つけて教えてくれたんだから。

54名無しさん
前世忍

55名無しさん
自称?

56名無しさん
そんなイタイ先生がいるんだ…

57名無しさん
でも警察が難しいといった犯人を見つけたのも事実…

58名無しさん
そういう真似事が得意な人ってだけかもしれないが

59むい
そろそろ同伴者の用意も出来たので行ってくるね
また後でね。
ちなみに同伴者は玄の兄です。
玄がひったくられたと知り怒髪天。
オーラすごい。勢いで犯人を虫の息にしないよう、僕が着いて行って往復ビンタする。

60名無しさん
兄の立場ならそりゃ怒る

61名無しさん
兄って言っても、むいと同じ学生だろ?
忍(笑)の先生に任せて大人しくしておいたら?

62名無しさん
虫の息にするとはまた大袈裟な表現…

63むい
【画像】
今度こそいってくる

64名無しさん
学生じゃねえ!
大人だ!!

65名無しさん
待って、顔は写ってないけど、身体!腕!
傷だらけだしムキッてしてるんだけど

66名無しさん
怖いヤバイすごい

67名無しさん
マジで虫の息にしてしまうのでは…

68名無しさん
むい、頑張って兄を止めるんだぞ!

69名無しさん
これ、止められるのか…?

70名無しさん
無理だろ

71名無しさん
ひったくり犯の為に念仏でも唱えてあげよう…










115むい
ただいま。ビンタできなかった。

116名無しさん
おっかえりい!
ビンタできなかったかー!

117名無しさん
え、犯人虫の息にしちゃった…?

118名無しさん
犯人は死ななかった?
大丈夫?

119むい
死んでないよ。

犯人のいた所に行くでしょ
倉庫で女が二人、キャラキャラケラケラ高い声で笑いながらお菓子のカスを散らしながら食べてた。

「汚い…」
思わず声が出て女に見つかった

120名無しさん
汚いwww

121名無しさん
確かにw
ボロボロ零しながら食べるとか汚いな

122名無しさん
倉庫も汚そうだしな

123名無しさん
食事マナーがなっていませんねえ

124むい
女たちは僕を見てた時は馬鹿にしたように笑っていたけど、隣を見た瞬間青ざめた
腕に傷がたくさんついてる男に、血走った目で見られたらそりゃ怖いよね

125名無しさん
怖いw

126名無しさん
俺でもビビる

127むい
女たちが逃げようとしたからね
走って行って上から押さえつけた
ひったくられた僕のカバンもあったから犯人確定だし、遠慮はいらないよね

128名無しさん
遠慮はいると思う!

129名無しさん
女たちのトラウマになっちゃう…

130むい
は?
この二人、ひったくり方上手だったよ
一瞬で持って行ったから。
この人たち、この二回だけじゃなく、もっとたくさんひったくってるよ
ひったくられた他の被害者たちもトラウマになってるよ
それでも犯人を庇うの?

131名無しさん
すいません…

132名無しさん
でもあんまりやりすぎたら逆にお前らが加害者になっちゃうから程々にね

133むい
兄「…ああん?お前ら、何年か前の卒業生じゃねえか。何くだらねえことやってんだぁ?」
女「…数学先生!放してっ!」
兄「放したら逃げるだろうがあ。お前らは学校へ連れて行って説教だあ。久々に愛のこもった説教してやるよお」
女「先生たちの説教怖いの!ごめんなさい!私たちが悪かったから!」
兄「はあ?お前らそう言ってもしょせん口先だけだろうがあ。分かってんだよ。逃がさねえからなあ」

犯人たちは震えあがってた。
問題行動を起こさなければ先生も優しいのになあ。まあ何かやらかした時は怖いけど。
居眠りや赤点取った時も怖いけど。

134むい
僕「ねえ」
女「なっ何?!」
僕「僕より前にひったくった人の物の中に小銭入れがあったはずなんだけど。知らない?」
女「小銭入れなんていらないから、中のお金だけ出して捨てたわよ…」
兄「…ああん?! 捨てただと?!」

この瞬間数字先生の顔が般若になった。女から涙があふれ出た。

兄「あの小銭入れはなあ、俺の弟が大切にしてるんだよ!俺とお揃いって喜んで、ボロボロでも大切にしてた物だ!そんな人の大切な物を、何つった?『捨てた』ぁ?」
女「…っ、っ!!」

メンチ切りながら迫られる女。
二人の内一人はもう身体が震えて声が出てない。
なんか生まれたての小鹿みたいだった。

135名無しさん
ちょっと女が可哀そうになってきた

136名無しさん
捨てた小銭入れがまさか母校の先生の弟の物だなんて思わないもんな
しかも怖い先生の。

137名無しさん
お前ら騙されるな。
女たちはひったくり犯だぞ

138むい
女「数学先生の弟のだなんて知らなくて…」
兄「知らなかったら捨てて良いのか?良い訳ねえだろうが。人の物は盗ってはいけません。捨ててはいけません。まず犯罪をしてはいけません。当たり前のことだろぉがぁ」
女「……」
兄「返事はぁ?」
女「……」
兄「……まあいい。とりあえず学校だ。着いてこい」
女「……はい」

この間ずっと鬼の形相で指をポキポキ鳴らしながら言われてるから怖いよね。
自業自得だけど。

139名無しさん
怖いけど、まあ怖い先生って学校に何人かは必要だよね

140名無しさん
学年に1人はいる。
その先生によって秩序が保たれていると思う

141名無しさん
でもさすがに怖すぎん?

142むい
女たちも一緒に大人しく学校に戻ってきて、説教タイムスタートした。
と言ってももう動機とか色々聞いて、二度とやらないように念押しするくらいだったけどね。

で、話を聞いた結果。
女たちの彼氏の指示だったらしいよ。
「ひったくりでも万引きでも何でも良いから食べ物やお菓子、あと可能ならお金を手に入れて来い」ってさ。
渡さなかったら殴られるってさ
こんな扱いしてくるのは彼氏じゃないよね?

143名無しさん
彼氏じゃないなあ!
何だろ、都合のいい手足?

144名無しさん
道具程度にしか見てないのは間違いない

145名無しさん
女たちも可哀そうだったんだな…

146むい
まあ、ひったくりした物全部をそのまま渡すんじゃなくて一部食べてる時点で、本人の意思で犯罪やってるとは思うけどね
彼氏は不良グループのリーダーだってさ。
リーダーの女ってことででかい顔してたんじゃない?

147名無しさん
全然可哀そうではなかった

148名無しさん
同情の余地は無かった…

149名無しさん
警察には通報というか報告とかしたの?

150名無しさん
あー、確かに必要かな?

151むい
女たちに関しては、まずは学校内で話は収めておくみたい
次やったら容赦なくお縄にするとは言ってたけど…

先生たちはちょっとこれから不良グループのところに突撃してくるんだって。
グループを解体させに行くって言ってた。

152名無しさん
危なくない?!
いくらムキムキ数学先生がいると言ったって…

153名無しさん
先生たち無理すんな!
警察にでも任せておけ!

154名無しさん
デスクワークの先生たちには荷が重すぎると思うの

155むい
【画像】
はい。

156名無しさん
先生ww

157名無しさん
いや、やっべえ
力こぶ作ったムキムキの腕を並べるなw

158名無しさん
何で先生なのにこんなマッチョばっかりなのw
何この学校w

159名無しさん
体育系の学校かな

160名無しさん
あーなるほど!!
むいは何の運動してるの?

161むい


162名無しさん
刀。
剣道のことか?

163名無しさん
カッコいいよね剣道
あと20年若かったらやってみたかったなあ

164名無しさん
10年じゃないんだ

165名無しさん
10年だとまだ社会人

166名無しさん
え、社会人でも始めたら?
社会人で始められる教室とかあるでしょ

167むい
じゃあ突撃してくるから。
ばいばい。

168名無しさん
え、お前も行くの?!

169名無しさん
危ないだろうが
先生たちに任せてお前は大人しくしておけ!

170名無しさん
おーい
おーい!!

171名無しさん
中学生が不良グループに突撃とか危なすぎる!
この中に近所の人いないの?
警察に通報!!

172名無しさん
無理だよ
だってこの子ネットリテラシーしっかりしてるもん

173名無しさん
どの辺りの子なのか全く分からんよなあ!
本来良いことなんだけど!

174名無しさん
このご時世なあ!
詐欺や犯罪の危険を思えばネットリテラシーしっかりしてるのは良いんだけど!

175名無しさん
おっちゃん心配だよ!
むい!
無事戻ってきたら教えてね!


****************

「おい宇髄。あいつらの言ってた不良グループ、最近近隣でも注意するよう言われていたグループだよなぁ」
「そうだな。万引き、ひったくり、ケンカにと、色々やってるよ」
 学校の職員室。宇髄と不死川は二人、椅子に座っていた。捕まえた女二人は、指導室で今もまだ説教を受けている。恐らくそろそろ三時間は経過するのではないだろうか。
複数の先生に囲まれ、ある者には涙を流されながら、またはある者には真正面から何故そのようなことを聞かれるのは中々苦行だろう。
「まあ、あと数時間は説教かね。あーあ、可哀想」
「宇髄。一体何が可哀想だって言うんだぁ? ひったくる奴が十割で悪いだろうがあ」
 怒りを抑えようとしているのだろうが、大事な弟が被害に遭っているからやはり不死川の声がいつもより低い。
「違うっての。説教して指導してるあいつらが可哀想って言ったの。だって仕事がその間出来ないからさあ。残業コース確定じゃん」
「そう言うならてめえが変わって説教してやれば良いんじゃねえの?」
「俺が言ったって説得力が無いんだよなあ」
「そうだな」
「ひどいっ!」
 美術室を定期的に爆破させる男が何を言ったところで説得力など無い。それが分かっていて軽口を交わしあう。クックック、と二人で笑ってからふう、と息を吐く。
「注意するよう言われてたから、前から調べてたんだろ? あの不良グループのこと」
 冷静になり顔を上げた不死川はさっきとは一転、真面目な顔に変わっていた。宇髄もそれを見て真剣な顔になる。
「ああ。これ読んで」
 そう言ってファイルから取り出した紙を見せる。読んでいる不死川の眉間に段々と深い皺が刻まれていき、紙を返されると同時に大きなため息を吐いた。
「グループのトップ、鬼なのかよ……」
「そう。本当は今日早めにお館様に報告に行って、さっさと斬りに行こうと思ってたんだけどな。この鬼、グループのメンバーを使って人攫ったり食べ物盗んだりしていたっぽい」
「人攫うのは分かるけどよお。何で食べ物もだよ。鬼は人間の飯は食わねえだろが」
「拘束して逃げられないようにして、ご飯食べさせて太らせてから食うんじゃねえの? フォアグラみたいに」
 ただの想像だが、恐らく正解だと宇髄は思っている。やはりふっくらとしている方がやせ細っているより美味しいだろうから。
「……太らせてから食べるなら、まだ生存者もいるだろ。今から急いでぶっ殺しにいくぞ」
 舌打ちしながら不死川は立ち上がり、ロッカーへ向かう。ガコンという音と共に扉を開けると、そこにはきれいに手入れされた日輪刀がある。
「あ、俺も行くけどちょっと待ってて。斬りに行くことをお館様に報告してから行った方が良いだろ」
 応とも否とも言う前に宇髄は廊下を走っていった。少しでも早く行きたかったが、確かに報告も大切なので不死川は待つことにした。再び席に座り、チラリと横を見る。
「ところで時透は何やってるんだ?」
「掲示板に、以前皆に並んで撮らせてもらった力こぶ写真を投稿してた」
「何でまた」
「一応安心させてあげようかと思って」
 返事をしながらも時透はスマホを見ながらスイッと指を動かし、それから頭を上げた。
「でもひったくり女も運が良かったね。もしかしたら明日は自分たちが食べられていたかもしれないでしょ」
「ああ……。確かになあ」
 いまだに説教されている彼女たちは、卒業した時よりもかなり肥えていた。もしもう少し太っていたら、もうこの世にはいなかっただろう。そのままどちらも口を開かず、窓から赤色に染まった雲が覆う空を見る。
「悪い、おまたせ。報告してきたし、急いで行こうぜ」
「よし、さっさと行くぞ」
 ガラッ、と大きな音をたてながら宇髄が中に入ってロッカーへ向かった。そこに不死川と同じく日輪刀が入っている。それを手に校舎を飛び出し、走る。そこに時透も着いていった。
 宇髄が先導して着いた場所には、いかにもといった感じの古い倉庫が建っている。中からは品の無い耳障りな声が外まで響いていて、つい三人の眉間に皺が寄った。
「んじゃあ、さっさと鬼の頸を斬るぞ」
「……いや、ちょっと待て」
 乗り込もうとする不死川を制して宇髄が耳を澄ませる。集中して中の鬼の気配の数を数え、つい小さく舌打ちが出てしまう。
「この中、最初に調べた鬼の数より気配が少ない。生存者の方にも何匹か鬼がいるのかもしれねえ」
「ああ? 本当かよ……」
「こっちの鬼を斬ってる間に生存者が食べられてもいけないから、二手に分かれる?」
「そうするかあ」
 生存者の居るだろう別の倉庫へは、宇髄が行くことにした。元々ここの調査をしたのは宇髄なので、建物の配置などを一番よく把握している。鬼や生存者が隠れられそうな場所や逃走ルートなどを想定し、鬼の動きを先読みして動けるのが宇髄だということだ。
「生存者見つけたら爆薬を爆破させるから。それを合図に不死川と時透はさっさと中の鬼を斬ってくれ」
「了解ぃ」
「宇髄さん、気をつけてね」
「お、時透がそう言うのも珍しいな? お前も気をつけろよ?」
「爆薬で生存者を怪我させないようにね」
「って、そっちの心配かよ! それは気をつけるに決まってるだろうが!」
 何だよ、ちょっと嬉しかったのにー、と唇を尖らせながら歩く宇髄に対して時透がニコリとする。
「冗談だよ」
 瞳をパチクリとさせて宇髄が時透の方を振り返ると彼は元のスンとしか表情に戻っていたが、不死川の顔がポカンとしている。その様子で、見ていなかった一瞬の時透の様子が想像できた。宇髄は目を細めながら時透へ向けて親指を立て、再び背を向けた。
 宇髄が二人と別行動をとって、それからわずか数分で大きな爆発音が響いてきた。
「さすが宇髄さんだね。すごい早い」
「忍だったから、元々ああいうのが得意なんだろうなあ」
 言いながら刀を構えて扉を蹴破り、動揺している鬼たちが抵抗を始める前にどんどん頸を落としていく。ここにいるのは雑魚鬼ばかりのようで、元柱二人の相手になど全くならなかった。
「大したことなかったね」
「本当になあ。さっさと生存者の確認に行くかぁ」
 グループのトップを飾っている鬼がとても弱かったから、宇髄の方もさっさと片が付いているだろう。そう思いながら倉庫から出ると、何やら宇髄の叫び声と鬼と思われる笑い声が聞こえてきた
「は?! あいつ、まだ頸を斬ってねえのか?!」
「不死川さん、急ごう!」
 一体何をそんなに手間取っているのか。そんなに強い鬼があちらにいたのか。内心焦りながら、宇髄の声がする方へ走る。
「宇髄さん!」
 たどり着いたそこでは、ふくよかな体の人間が複数人で宇髄に抱き着き、動きを邪魔していた。どうやら宇髄は人間に抱き着かれたまま正気に戻るように叫びつつ、鬼の攻撃をかわしているようだった。一人一人がなかなかの重さであるのは遠目でもよく分かり、そんな人間に抱き着かれていたら鬼の頸を斬るのは難しいだろう。
 宇髄が人に抱き着かれて苦戦している様子を見ながら鬼が高笑いしている。不死川が辺りを見回すと、他の鬼はいないように見える。
「チッ!」
 鬼は宇髄を見てケタケタと笑っている。恐らく宇髄が強いことが分かっているので、手を出せない人間たちを使って疲労して動けなくなってから攻撃する予定なのだろう。
「雑魚鬼がぁ。死んどけ!」
 確かに人質はやっかいだが、鬼自体は大したことは無い。不死川と時透が一気に距離を詰め、あっけなく鬼の頸は飛んだ。
「おー、すまねえな。助かった」
そう言う宇髄はまだ複数人に抱き着かれたままで、顔には隠し切れない疲労がにじんでいた。周りの者は皆、鬼の頸が飛んだのを見て泣き喚いている。
「こいつらは一体何なんだあ? 何でお前の邪魔をしてたんだ?」
 不死川が睨みつけてやると、その顔が怖かったのか叫び声からすすり泣きに変わった。
「何か洗脳でもされてるのかな。あの鬼は素晴らしい奴で、太って美味しくなって食べてもらうことが至高の喜びと思い込んでいるみたいだ」
「マジかよ……」
 疲れ切った宇髄はげんなりとした顔をし、不死川は苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
「まあ洗脳を解くのは胡蝶さんにお願いしようよ。これは僕らの手には負えないよ……」
「そーねー」
 重たい人間を体につけたままズルズル引きずり宇髄が歩いていく。不死川もひっついている男を一人はぎ取ってやり、運んでいく。さすがに時透には運べないので、せめて二人の日輪刀を持とうと受け取り足を進め、ふと振り返る。
爆薬の影響で一部破損した倉庫の写真を撮り、「不良グループを何とか落ち着かせた」という文章と共に掲示板に投稿する。同時に掲示板の削除要請をすることも忘れない。
「時透―? どうしたー?」
 立ち止まって着いてこない時透に気付き、宇髄が振り返る。
「なんでもないよ」
「そうか? そうだ。学校に帰ったら、車で家まで送るからちょっと待ってろよ」
「送ってもらわなくても、僕一人で帰れるけど……」
「お前は未成年だろうがぁ。大人として付き添わせろぉ」
 不死川も振り返り追撃してくる。その眼は優しい。
掲示板を見ている人たちが「何があったのか」と騒いでいるが、最低限の報告義務は果たしただろうと判断して、返事をすることはしない。怒りに任せて掲示板に投稿した時はまさか鬼が出てくるとは思わなかったし、第一この人たちに鬼の事を言っても信じないだろうから。
「はーい。じゃあよろしくね」
ニコリと笑って返事をして、時透はスマホをポケットへしまい歩き出した。
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