きめつ
「先生、何か怖い話してよー」
宇髄が教科書を片手に教卓で話をしていると、一人の生徒がダラリとした感じで雑談を突然ねだってきた。
普段の授業では絵を描かせたり何かを造らせたりする宇髄だが、たまには美術史などの座学もしなければならない。そして今日がたまたまその座学の日なのだが、本日は大変気持ちのよいポカポカ陽気である。
更にいうなら今は五限目。昼休み明けで、生徒達のお腹が満腹であるという眠気のすごい時間帯だった。そんな眠気を覚ます為に、何か面白い話をしてほしいという生徒の気持ちはよく分かる。だけど。
「何で怖い話?」
「怖い話だと、皆目がシャキっとするかもしれないじゃーん?」
「そういうもんか?」
宇髄としては怖い話よりも楽しい話の方が目が覚めるような気もするのだが、どうやらこの生徒は怖い話が聞きたいらしい。この学校には妖怪が出ると噂になっているから、恐らくその妖怪の話を聞きたいのだろう。だが、あいにく今は妖怪関連で怖い話は持ち合わせていない。となると、である。
「『人から聞いた怖い話』でも良いか?」
「もち!」
「しょうがねえなあ。話終わったら全員しっかり授業を聞けよー?」
教室を見回すと、全員の顔がこちらを向いていた。さっきまでは船をこいでいたり、机に伏せていた生徒が三割程度いたのに。
座学がつまらないのかな、と少し複雑になりながらも壁にもたれて話すことにする。
「えーと、話の主人公の男は高校生で、家族で旅行に行ったんだけどな。そうだな、こいつはとりあえず太郎とでも言っておくか」
「太郎って」
「ださっ」
適切につけた仮名に対して、数人の生徒からブーイングが入った。
「黙れー。話さなくて良いのか?」
「ごめん、ウズセン!」
「おう、素直でよろしい」
ひとつ頷いて、生徒を見回す。全員口を閉じてこちらを見ていた。えー、と一言言ってから話を再開してやることにした。
「普段は旅行へなど連れていってくれない太郎の父だが、この日は珍しく一泊の家族旅行を計画してくれたんだ。父と太郎と弟で旅行。こんなに珍しいことはないと、太郎はとても喜んだ」
一泊の旅行だというのに、鞄には着替え、トランプ、お菓子、とドンドンいる物からいらないような物まで詰めていった。まあ、そんだけ楽しみだったんだろうな。
「太郎は旅行の日を心待ちにしていた。毎日毎日、『あと三日』『あと二日』と、指折り数えた」
そう言いながら、宇髄は手を見ながら指を折り、それがゼロになった時。
さっきまでは下がっていて見えなかった顔が再び上がった。少し前までは確実に上がっていた宇髄の口角は真一文字になり、見られた者は皆凍えそうな瞳で生徒を見つめた。
「旅行当日。電車に乗っていたら、父親が困ったような顔で『そういえばスマホを新しくしたんだった』と言う。この場で言われたから、当然太郎も弟も新しい電話番号を登録していない。古い番号を消して、新しい電話の番号を兄弟は登録した」
普段とは違う、冷たくて硬い声色。全く見たことのない宇髄の様子に、聞いている生徒たちは一人二人と震えている。
しかし、宇髄はそんな様子に構うことなく口を開き続けた。
「無事にホテルに着いたら、『用事があるから先に中へ入ってろ』と言って父は部屋の鍵を渡して、そのままホテルの外へ出ていった。でも太郎はせっかくだから、父と三人で部屋に一緒に入りたかった。そこで父が戻ってくるまで弟とフロントの土産コーナーなどを見て時間を潰していることにしたんだ」
土産見て、持ってきたお菓子をロビーで食べて。待つこと約三十分。父が戻ってくる気配は全く無かったな。
温度の無い声で、ただ独り言のように話す宇髄。その瞳はどこを見ているのか分からない。
「太郎は少しずつ不安になってきた。見知らぬ土地で、父が迷子になってないだろうか。フロントに行って相談すべきだろうか。それとも部屋で待っていた方がいいのか…」
ただの怖い話として聞いている者、自分に置き換えて考え始めた者、中には宇髄のいつもと違う様子自体に青ざめている者がいる。しかしそれら全てに宇髄は何の反応もしない。
「頭がグルグルしだしたその時、太郎のスマホが軽快なリズムをロビー中に響き渡らせた。画面を見たら、父だった」
良かった。太郎はホッとして急いで電話に出て、今どこにいるか聞こうと口を開いたのだが。
「『おい、てめえ! 今どこにいるんだ! 何で部屋に入ってない?!』と、電話に出ると同時に怒鳴られたんだ。初めての旅行だったから一緒に部屋に入りたかったことをしどろもどろに伝えたら、父親はどんな反応をしたと思う?」
「えっ……と」
一応生徒に話していることは忘れていなかったらしい宇髄が、目の前の生徒に顔を向けた。しかしそれも一瞬で、また虚空を向いて淡々と音を吐く。
「『約束の時間を過ぎちまったから、相手が帰っちまったじゃねえか。ふざけんな! てめえら程度でもはした金にはなるんだから、俺の言うこと聞いて部屋に入る位しとけ! その程度のことも出来ねえのか、ゴミどもが!!』だよ」
教室の中が、シンとする。
誰も話せないし、動くことも出来ない。今宇髄の話していることは、本当に日本での出来事なのか。こんな外道がいるのか。果たして事実なのか、嘘なのか。生徒たちには何も分からない。
「太郎たちは言葉通り売られて金にされていたのかもしれないし、AVとかの役者として連れてこられていたのかもしれない。今となっては真実は分からないけどな」
ふー、と宇髄が息を吐き、それにさえ誰かがびくりとなった。
「でもまあ、新しいスマホは多分この旅行の為に用意したんだろうし。父の普段使いの私用のスマホの番号を消させて、今後電話しても連絡出来ないようにしようという目論みだったんだろうから、多分単純に兄弟を売り払うつもりだったのかもな」
それきり宇髄も話さなくなり、教室にはただ時計の針の音が響くだけ。
カチ、コチ、カチ、コチ。何度針が動いただろうか。
学校中に、五限目の終了を告げるチャイムが鳴った。
「はい、という訳で。『人から聞いた怖い話』でした。怖かっただろ?」
パチン、と両手を合わせて宇髄が言う。その声は明るく、顔もニコニコしている。
「一回休憩時間を挟んで、六限目からは授業再開だからなー。目は覚めただろ? 約束通り、授業しっかり聞けよ、お前ら!」
そう告げるとすぐに美術準備室へと入っていく宇髄を見て、一人、二人と少しずつ。顔をつき合わせながらも生徒達が立ち上がり廊下に出て。美術室に一見いつも通りの時間が戻った。
****************
「おい『太郎』」
放課後。美術準備室でボーッとしながら自動販売機で購入したジュースを飲んでいたら、突然の来客があった。ドアの開く音がするので、椅子に座ったまま顔だけそちらへ向ける。
「なんだよー、伊黒か。どした?」
「貴様、正気か? 何故生徒にあんな話をした?」
伊黒は宇髄を睨み付けながら「さすがに理解出来ない」と呟いた。
「何故って……。『人伝に聞いた怖い話』を、生徒にねだられたから言っただけだって」
「話を聞いた生徒たちが怯えていたぞ。話にも、普段とは全く違う様子のお前にも」
「今の時期、すっごい暑いから涼をとるのに丁度良かったんじゃね?」
「宇髄」
静かに。伊黒は真剣な眼でみつめる。それを受けても、なお宇髄はヘラリと笑い返すだけだ。
「『人から聞いた怖い話』って言ってんじゃん。俺の話じゃないよ?」
「貴様、『太郎』でしっかり振り返っただろうが」
一拍。宇髄は向けた顔を正面に戻し、小さくため息をついた。手を組み、そこへおでこを乗せて、口を開く。さすがに伊黒は誤魔化せない。
「……もうさ、そろそろ小さい時の出来事の一つとして話せるかなーと思っただけだよ。生徒にも、人間には良い奴ばかりじゃないっていう教訓になっただろうし」
「にしても刺激が強すぎると思うのだが?」
「そうね、うん。だよね。ごめんな」
怖い話ねだられて、でも妖怪のネタが無かったからさー、とぶちぶち呟く姿は、いつもの宇髄だ。
「あらかじめ話のストックを作って、ローテーションしながら話せ」
「そうするー……」
まだ少し落ち込んではいるようだけど。それでも何とか「いつもの宇髄」を演じているし、本人も反省しているようなので、伊黒もそれに乗ってやることにする。
宇髄も伊黒も、どちらもそのまま何も話さない。ただ、静かな時間だけが過ぎていく。
あの後。ロビーで電話ごしに受けた暴言。あれがホテルの従業員にも聞こえていたので、その場で通報された。駆けつけた警察とホテルマンが事情を話しているのをぼんやり聞いていて、気づいたら知らない施設にいた。
噂によると、父親は逮捕されたらしい。調べたら実は色々悪どいことをやっていたらしく、まだ刑務所の中にいる。会いに行く気もないし、今はあの男を家族などとは思っていない。それでもたまに、思い出して辛くなってしまう。語るにはまだ少し早かったようだ。
もう一度息を吐き、宇髄はわざと明るい声を出す。
「伊黒ちゃーん、コーヒー作ってくんねー?」
「その呼び方は止めろ、気持ち悪いぞ」
「濃いめでよろしく」
「まあ良いだろう」
「サンキュー!」
廊下に出ると、一面真っ赤になるほどの凄まじい夕焼けが広がっていた。
それを横目に伊黒と歩く。目指すは化学準備室。
二人の背中ごしに、少し鈍い音をたてながら準備室の扉がゆっくりと閉じた。
宇髄が教科書を片手に教卓で話をしていると、一人の生徒がダラリとした感じで雑談を突然ねだってきた。
普段の授業では絵を描かせたり何かを造らせたりする宇髄だが、たまには美術史などの座学もしなければならない。そして今日がたまたまその座学の日なのだが、本日は大変気持ちのよいポカポカ陽気である。
更にいうなら今は五限目。昼休み明けで、生徒達のお腹が満腹であるという眠気のすごい時間帯だった。そんな眠気を覚ます為に、何か面白い話をしてほしいという生徒の気持ちはよく分かる。だけど。
「何で怖い話?」
「怖い話だと、皆目がシャキっとするかもしれないじゃーん?」
「そういうもんか?」
宇髄としては怖い話よりも楽しい話の方が目が覚めるような気もするのだが、どうやらこの生徒は怖い話が聞きたいらしい。この学校には妖怪が出ると噂になっているから、恐らくその妖怪の話を聞きたいのだろう。だが、あいにく今は妖怪関連で怖い話は持ち合わせていない。となると、である。
「『人から聞いた怖い話』でも良いか?」
「もち!」
「しょうがねえなあ。話終わったら全員しっかり授業を聞けよー?」
教室を見回すと、全員の顔がこちらを向いていた。さっきまでは船をこいでいたり、机に伏せていた生徒が三割程度いたのに。
座学がつまらないのかな、と少し複雑になりながらも壁にもたれて話すことにする。
「えーと、話の主人公の男は高校生で、家族で旅行に行ったんだけどな。そうだな、こいつはとりあえず太郎とでも言っておくか」
「太郎って」
「ださっ」
適切につけた仮名に対して、数人の生徒からブーイングが入った。
「黙れー。話さなくて良いのか?」
「ごめん、ウズセン!」
「おう、素直でよろしい」
ひとつ頷いて、生徒を見回す。全員口を閉じてこちらを見ていた。えー、と一言言ってから話を再開してやることにした。
「普段は旅行へなど連れていってくれない太郎の父だが、この日は珍しく一泊の家族旅行を計画してくれたんだ。父と太郎と弟で旅行。こんなに珍しいことはないと、太郎はとても喜んだ」
一泊の旅行だというのに、鞄には着替え、トランプ、お菓子、とドンドンいる物からいらないような物まで詰めていった。まあ、そんだけ楽しみだったんだろうな。
「太郎は旅行の日を心待ちにしていた。毎日毎日、『あと三日』『あと二日』と、指折り数えた」
そう言いながら、宇髄は手を見ながら指を折り、それがゼロになった時。
さっきまでは下がっていて見えなかった顔が再び上がった。少し前までは確実に上がっていた宇髄の口角は真一文字になり、見られた者は皆凍えそうな瞳で生徒を見つめた。
「旅行当日。電車に乗っていたら、父親が困ったような顔で『そういえばスマホを新しくしたんだった』と言う。この場で言われたから、当然太郎も弟も新しい電話番号を登録していない。古い番号を消して、新しい電話の番号を兄弟は登録した」
普段とは違う、冷たくて硬い声色。全く見たことのない宇髄の様子に、聞いている生徒たちは一人二人と震えている。
しかし、宇髄はそんな様子に構うことなく口を開き続けた。
「無事にホテルに着いたら、『用事があるから先に中へ入ってろ』と言って父は部屋の鍵を渡して、そのままホテルの外へ出ていった。でも太郎はせっかくだから、父と三人で部屋に一緒に入りたかった。そこで父が戻ってくるまで弟とフロントの土産コーナーなどを見て時間を潰していることにしたんだ」
土産見て、持ってきたお菓子をロビーで食べて。待つこと約三十分。父が戻ってくる気配は全く無かったな。
温度の無い声で、ただ独り言のように話す宇髄。その瞳はどこを見ているのか分からない。
「太郎は少しずつ不安になってきた。見知らぬ土地で、父が迷子になってないだろうか。フロントに行って相談すべきだろうか。それとも部屋で待っていた方がいいのか…」
ただの怖い話として聞いている者、自分に置き換えて考え始めた者、中には宇髄のいつもと違う様子自体に青ざめている者がいる。しかしそれら全てに宇髄は何の反応もしない。
「頭がグルグルしだしたその時、太郎のスマホが軽快なリズムをロビー中に響き渡らせた。画面を見たら、父だった」
良かった。太郎はホッとして急いで電話に出て、今どこにいるか聞こうと口を開いたのだが。
「『おい、てめえ! 今どこにいるんだ! 何で部屋に入ってない?!』と、電話に出ると同時に怒鳴られたんだ。初めての旅行だったから一緒に部屋に入りたかったことをしどろもどろに伝えたら、父親はどんな反応をしたと思う?」
「えっ……と」
一応生徒に話していることは忘れていなかったらしい宇髄が、目の前の生徒に顔を向けた。しかしそれも一瞬で、また虚空を向いて淡々と音を吐く。
「『約束の時間を過ぎちまったから、相手が帰っちまったじゃねえか。ふざけんな! てめえら程度でもはした金にはなるんだから、俺の言うこと聞いて部屋に入る位しとけ! その程度のことも出来ねえのか、ゴミどもが!!』だよ」
教室の中が、シンとする。
誰も話せないし、動くことも出来ない。今宇髄の話していることは、本当に日本での出来事なのか。こんな外道がいるのか。果たして事実なのか、嘘なのか。生徒たちには何も分からない。
「太郎たちは言葉通り売られて金にされていたのかもしれないし、AVとかの役者として連れてこられていたのかもしれない。今となっては真実は分からないけどな」
ふー、と宇髄が息を吐き、それにさえ誰かがびくりとなった。
「でもまあ、新しいスマホは多分この旅行の為に用意したんだろうし。父の普段使いの私用のスマホの番号を消させて、今後電話しても連絡出来ないようにしようという目論みだったんだろうから、多分単純に兄弟を売り払うつもりだったのかもな」
それきり宇髄も話さなくなり、教室にはただ時計の針の音が響くだけ。
カチ、コチ、カチ、コチ。何度針が動いただろうか。
学校中に、五限目の終了を告げるチャイムが鳴った。
「はい、という訳で。『人から聞いた怖い話』でした。怖かっただろ?」
パチン、と両手を合わせて宇髄が言う。その声は明るく、顔もニコニコしている。
「一回休憩時間を挟んで、六限目からは授業再開だからなー。目は覚めただろ? 約束通り、授業しっかり聞けよ、お前ら!」
そう告げるとすぐに美術準備室へと入っていく宇髄を見て、一人、二人と少しずつ。顔をつき合わせながらも生徒達が立ち上がり廊下に出て。美術室に一見いつも通りの時間が戻った。
****************
「おい『太郎』」
放課後。美術準備室でボーッとしながら自動販売機で購入したジュースを飲んでいたら、突然の来客があった。ドアの開く音がするので、椅子に座ったまま顔だけそちらへ向ける。
「なんだよー、伊黒か。どした?」
「貴様、正気か? 何故生徒にあんな話をした?」
伊黒は宇髄を睨み付けながら「さすがに理解出来ない」と呟いた。
「何故って……。『人伝に聞いた怖い話』を、生徒にねだられたから言っただけだって」
「話を聞いた生徒たちが怯えていたぞ。話にも、普段とは全く違う様子のお前にも」
「今の時期、すっごい暑いから涼をとるのに丁度良かったんじゃね?」
「宇髄」
静かに。伊黒は真剣な眼でみつめる。それを受けても、なお宇髄はヘラリと笑い返すだけだ。
「『人から聞いた怖い話』って言ってんじゃん。俺の話じゃないよ?」
「貴様、『太郎』でしっかり振り返っただろうが」
一拍。宇髄は向けた顔を正面に戻し、小さくため息をついた。手を組み、そこへおでこを乗せて、口を開く。さすがに伊黒は誤魔化せない。
「……もうさ、そろそろ小さい時の出来事の一つとして話せるかなーと思っただけだよ。生徒にも、人間には良い奴ばかりじゃないっていう教訓になっただろうし」
「にしても刺激が強すぎると思うのだが?」
「そうね、うん。だよね。ごめんな」
怖い話ねだられて、でも妖怪のネタが無かったからさー、とぶちぶち呟く姿は、いつもの宇髄だ。
「あらかじめ話のストックを作って、ローテーションしながら話せ」
「そうするー……」
まだ少し落ち込んではいるようだけど。それでも何とか「いつもの宇髄」を演じているし、本人も反省しているようなので、伊黒もそれに乗ってやることにする。
宇髄も伊黒も、どちらもそのまま何も話さない。ただ、静かな時間だけが過ぎていく。
あの後。ロビーで電話ごしに受けた暴言。あれがホテルの従業員にも聞こえていたので、その場で通報された。駆けつけた警察とホテルマンが事情を話しているのをぼんやり聞いていて、気づいたら知らない施設にいた。
噂によると、父親は逮捕されたらしい。調べたら実は色々悪どいことをやっていたらしく、まだ刑務所の中にいる。会いに行く気もないし、今はあの男を家族などとは思っていない。それでもたまに、思い出して辛くなってしまう。語るにはまだ少し早かったようだ。
もう一度息を吐き、宇髄はわざと明るい声を出す。
「伊黒ちゃーん、コーヒー作ってくんねー?」
「その呼び方は止めろ、気持ち悪いぞ」
「濃いめでよろしく」
「まあ良いだろう」
「サンキュー!」
廊下に出ると、一面真っ赤になるほどの凄まじい夕焼けが広がっていた。
それを横目に伊黒と歩く。目指すは化学準備室。
二人の背中ごしに、少し鈍い音をたてながら準備室の扉がゆっくりと閉じた。
