原作編
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「夢月、今日調子いい?」
「分かる? またあの夢見たんだ。」
今日も今日とて相変わらず眠い。果たしてどこから来るのか分からない、どれだけ寝ても解消されない眠気だが、宿儺の夢を見た日は少し眠気がはれる。
部室に向かって一緒に歩く幼なじみ――虎杖悠仁は付き合いも長い分、夢月の些細な変化もすぐ気づく。
ずっと同じ夢を見ていること、そこでしか会えない、顔も声も分からない彼のこと。他の人に話したことのない夢の話も、その夢を見た日は少しだけ起きていやすいことも悠仁には話している。
「今日ね、初めて声聞いたよ」
「おお、マジ? どんな声だった?」
「……一言で言うと、すっっっごく良い声だった。低音イケボ。耳が幸せ、この声帯生んでくれてありがとう世界って感じ」
「すげえ褒めんね」
「悠仁は可愛い声してるよ」
「……それ、男に言うことじゃなくね?」
話している間に、部室到着。ガラリと引き戸を開くも中は無人で、先輩達はまだ来ていないようだった。
「佐々木先輩、今日何するとか言ってたっけ?」
「あー、たしかこっくりさんとか」
「こっくりさん……じゃあ机くっつけとく?」
普段部活で使っている机を四人分くっつけ準備する。
座って待っている間にまた睡魔が忍び寄ってきた。
「夢月、眠い?」
「んー……」
「無理すんなよ。先輩達なら怒んないだろうし、帰る頃には起こすから」
「……それじゃ、ちょっとだけ……十五分だけ……」
悠仁の言葉に甘えて、腕を枕に机に突っ伏す。優しく誘う睡魔に手を引かれ、あっという間に意識が落ちていった。
仮眠程度では宿儺は夢に出て来ない。
深く眠る必要があるのか、今まで宿儺の夢を見るのはちゃんと夜に眠ったときだけだった。
何も見えない暗闇から、少しずつ、意識が浮上する。
うっすら聞こえる声からして、先輩達ももう来ているらしい。
起きないとな、とは思いつつ、瞼は変わらず重い。
昔から、夢月にはどこでも、どんな時でも眠ってしまうという悪癖があった。抗いがたい眠気はどれだけ夜にきちんと寝て、生活リズムを整えても改善されず。
何か病気かと様々な医者にもかかったが、どんな医者に診てもらっても原因は分からず、終いには匙を投げられ、ならば自身の怠惰故かと、一時期はかなり思い悩んだこともあったが……。
今は幸い、夢月の所属するオカ研の先輩方も夢月の体質に理解を示してくれている。
寛容な先輩方と、ずっと一緒にいてくれた幼なじみには感謝しかない。
そんな先輩方と幼なじみは現在、絶賛こっくりさん中だ。ふわふわと夢と現を漂うなかで悠仁のテンション高めの声が聞こえる。
「こっくりさんこっくりさん
生徒会長がギリ負ける生き物を教えてください」
悠仁、こっくりさんに何聞いてんの。
三人が固唾を飲んで見守ったこっくりさんの返答やいかに――
「クリオネだってー!! 雑っ魚!」
「ん"ふっ」
「あ、夢白起きた? おはよー」
「んん…おはようございます、佐々木先輩」
クリオネに負けるのか会長。
聞こえた結果に軽く吹き出す。
それではっきり意識が浮上した。そのまま顔を上げ、寝ぼけ眼を擦りながら挨拶を返す。
井口先輩と悠仁にも挨拶しようと口を開こうとした時。
「オカ研っ!」
「お、プランクトン会長どったの?」
「ふ、ふふっ」
ターンッと引き戸が開けられる音がして、噂の会長が姿を見せた。なんて良いタイミング。今この場には笑いの神が微笑んでいるのかもしれない。
さて、そんなベストタイミングなプランクトン会長の目的といえば、オカ研の部室を女子陸上部の更衣室として明け渡せということだった。
佐々木先輩が活動報告をするも呆気なく撃沈させられ――ついで会長から飛び出したのは耳を疑う言葉だった。
「そもそも一番の問題は 虎杖悠仁!夢白夢月!オマエ達の籍がオカ研ではなく陸上部にあり、同好会定員の三名に達していないということだ!!」
「へ?」
「え?」
思いもよらぬ会長の発言に悠仁と二人、目を白黒させる。
「虎杖ぃ~ 夢白~」
「いや 俺 ちゃんとオカ研って書いたよ?」
「私もちゃんと書きましたよ」
じとーっと湿った目でこちらを見る先輩方に無実を訴え弁解する。
悠仁と二人で首を捻っていると、答えは向こうからやってきた。
「俺が書き換えた!」
現れたのは陸上部顧問、高木先生。
典型的な熱血体育教師といった感じの先生で、夢月の苦手な部類の教師だった。
というか今、書き換えたっつった?
「虎杖 全国制覇にはオマエが必要だ
夢白も!オマエには虎杖と陸上部のマネージャーとして来てもらう!」
「しつけーな!何べんも断るって言ってんだろ!」
「私もお断りで」
「駄目だ!」
「駄目なの!?」
漫才のようなやり取りの後、高木先生と悠仁が勝負することになった。先生はとりあえず正々堂々を辞書で引いてきてほしい。
***
そんなこんなで、やって来ましたグラウンド。
種目は砲丸投げ。
さすがにあの重さは投げられないなと思うが、メインで勧誘したいのは悠仁なので、悠仁が勝てば私のことも一緒に諦めてくれるらしい。
「よし、悠仁がんば」
「おー!まかせろ!」
軽い応援と共に悠仁を送り出す。
まあ、悠仁なら大丈夫でしょ。なんせ西中の虎だし。
投げ方でファウルを取られないことを確認し、振りかぶって投げた。
……砲丸って、ピッチャー投げできる物だっけ?
重い音を立て、煙をあげながらサッカーゴールにめり込んだ砲丸を背に、見事勝利を手にした悠仁がこちらへ歩いてくる。
「悠仁お疲れー。はい鞄」
「おーあんがと!」
勝負が終わったらそろそろ帰らないといけない時間になるだろうと、持ってきていた悠仁の鞄を渡す。ほとんど目の前でふわふわ揺れる髪に悪戯心がわく。わしゃわしゃと犬よろしく撫でまわしたい衝動をこらえ、セットがくずれない程度に留めた。
「よしよし、偉い偉い」
「……あのさ夢月、俺子どもじゃねーんだけど」
「拗ねないのー」
「拗ねてんじゃないんだけどなぁ」
少し頬を赤くして口を尖らせる悠仁。そんな顔も可愛いがそれは言わずにおく。
じゃれあっていると佐々木先輩が口を開いた。
「虎杖、アンタ無理してオカ研残らなくてもいいのよ」
「え」
「運動部の方が才能発揮できるんじゃない?」
「いや色々あって五時までには帰りたいんだよね。でもウチ全生徒入部制じゃん
そしたらさあ……」
『何もしなくていいのよ!ユウレイでいいのよ!オカ研だけに』
『マジ?』
「つーか先輩ら、俺らいないとロクに心霊スポット行けないじゃん。怖いの好きなくせに」
「う……好きだから怖いのよ」
「先輩らがいいならいさせてよ。結構気に入ってんだ オカ研の空気」
「そういうことなら私らは別に」
「なあ」
テレテレする先輩方と、その様子を見て?を飛ばす悠仁。可愛い光景に和みつつ、悠仁に時間が迫っていることを告げる。
「悠仁、半過ぎてるけど時間大丈夫?」
「やべ、大丈夫じゃない! 夢月ありがと!」
急げー!とどんどん加速していく悠仁を見送る。
黒髪の男子とすれ違ったところで、佐々木先輩に呼ばれた。
「そういえば夢白!今日の夜は空いてる?」
「今日の夜……、大丈夫ですよ。何かありました?」
そこで佐々木先輩と井口先輩が顔を見合せてから、こちらに向かってにひひと笑う。
「虎杖が拾ってきた『あれ』をね……夜、御札剥がそうと思って」
「あー」
そういえば悠仁、何かいわくありそうな物拾ったって言ってたな……。
「もちろん、夜起きてられそうならってことなんだけど……」
「んー……」
――魔が差した、とはこういうことを言うのだろう。
「やっぱり無理なら全然、」
「――大丈夫です。参加します」
「本当!? それじゃこの後なんだけど――」
嬉しそうにはしゃぐ佐々木先輩。井口先輩もニコニコだ。
まあ、普段寝てることが多いし、たまにはちゃんとオカ研として行動してもいいよね。
ヒヒ、と低く笑う声が聞こえた気がした。