過去編
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失敗した。失敗した失敗した失敗した。
やり直したい。やり直さなくてはいけない。
でもできない。あの人はもう、永遠に失われてしまった。
あの人の願いだったとはいえ、それを為したのは他でもない自分自身。
あの時こうしていれば、ああしていれば。
もう遅い。
そうして、喪われたものを思って泣くことも出来ずにそこに居続けている。
赤子の泣き声がした。
今自分がいるのはとうの昔に滅んだ場所だ。そんなところに赤子がいるとは考えにくい。
ああでも、確かに聞こえる。
「……」
あの時こうしていれば、ああしていれば。
どれだけ経ったか分からないくらい思い続けて、とうとう頭がおかしくなったのだろうか。
ふらふらと覚束なく立ち上がり、声のする方へ歩きだした。
視界が切り替わる。
着いた先は森の中。一本の木の根元。
丸い包みが打ち捨てられている。
次第にか細くなる声をそれでも張りながら誰かを呼ぶ。
そこにいたのはやはり赤ん坊だった。
捨てられた理由はすぐに分かった。
二対の目と腕。体に浮かぶ紋様。
通常の人間と異なるそれが忌み嫌われたのだ。
それに、赤子から感じる気配。強大さを感じるそれは人間を恐れさせるに充分すぎる。
しかしそれも時間の問題だろう。いくら何かしらの力があるといっても、食べなければ人間は死ぬ。
赤子なら尚更。少しの飢えが簡単に死を呼ぶ。
そうして死んだら、幼い骸を獣が食い荒らすのだろう。
ぱちりと目を開いた赤子と目が合った。
綺麗な赤がこちらを見る。
赤、血の色。命の色。
――このくらいの赤子はまだ首もすわってないんだっけ。
首が後ろに落ちないよう、そっと支えながら抱き抱える。
ほんのりと温かい。冷たくない。
――命が、まだ、そこにある。
また失くしたものが思い起こされた。
……あの人ならどうするか。きっとこのままにはしておかない。あの人は優しい人間だったから。
「……君、私と一緒においで」
捨てる者がいるなら、一人くらい拾う者がいてもいい。