原作編
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巡って、廻って。
過去から今へと帰ってくる。
意識が浮上する。目を開く。
部屋一面、余すところなく貼られたお札。手首には拘束されている感触。
――そして、夢月の真正面に座る目隠しの男。
彼は確か、五条先生と呼ばれていたか。
「おはよう、夢白夢月」
「……おはようございます」
「冷静だね」
虎杖悠仁はもっと驚いていたよと言う男。
ーー悠仁
「悠仁は無事ですか」
「大丈夫、彼ならピンピンしてるよ。」
それにしても、2人とも同じことを聞くんだね。
男が少し笑みを見せる。
「さて、単刀直入に言うけど」
虎杖悠仁と君の秘匿死刑が決定した。
「……そうですか」
「……本当に冷静だねー。普通もっと驚くとか、違う反応になると思うんだけど」
男の言葉に夢月は少し考える。
「悠仁の、」
「うん?」
「悠仁の死刑は、もう覆らないんですか」
「……そうだね。虎杖悠仁の死刑は決定事項だ。」
「――ああ、」
夢月の口からもれたのは嘆息だった。
少女とは思えぬ響きは年経た者のそれ。項垂れた頭の動きに合わせて白い髪が垂れ下がり、長い髪で顔が隠れる。
年齢にそぐわないその響きや雰囲気に、見る者はそこにいるのは本当に高校生の少女かと混乱することだろう。
目を閉じる。
胸にいくつも去来する感情が足元から全身へと、冷たく満ちていくようだった。
「ただ、」
男が言葉を差しのべる。
「彼の死刑には執行猶予がついた。」
目を開いて、緩慢な動きで顔を上げる。
「虎杖悠仁が取り込んだ特級呪物、両面宿儺の指。あれは全部で20本あってね」
本来なら今すぐにでも死刑が執行されるところだが、今後宿儺の器が現れる保証などない。ならば、全ての宿儺を取り込んでから死刑にした方が良い。男がそう提言したのだという。
指を取り込むまでの間なら、悠仁の死刑は先延ばしになる。
「それを聞いて、悠仁はなんて」
「まだどちらにするかは聞いてないよ。
それじゃ、次は君の話だ」
男が目隠しに手をかけ、そのまま上に引き上げる。
――雲ひとつない、澄みきった空だ。
どこまでも高く青く、透き通るような。人の心を晴らしていくような、清らかさを写したような青空。
夜とは相容れない、明るい真昼の世界の色。
「やっぱり、君も混ざってるね。おまけに呪われてる。」
じっと夢月を見つめた男が確かめるように呟く。
「最初に見たときも思ったけど、君はずいぶん呪われてるね。まあ、両面宿儺の呪いともなれば当然っちゃ当然だけど……それにしたって、度を超してる」
男は目を細める。
「そうだな。呪われてる、というより……呪いに満ちてる、と言った方がいい。
器を水で満たすように、君の中は宿儺の呪力と呪いでいっぱいだ。
決して離れていかないように、必ず、自分の近くに生まれるように……どこへも行かないように強力に繋ぎ止めるその呪い、それを君に混ざったものが更に強めてる。」
少女に絡みつく呪い。六眼を持つ五条にしか見えていないそれ。
かつて自身の生徒に言った言葉が蘇る。
「……本当、愛ほど歪んだ呪いはないってね」
「?」
小声で何かを呟いた五条に夢月は首を傾げる。
「君のその左手薬指、それは生まれつき?」
「……そうですね。生まれたときから、こうだったって聞いてます」
「…僕が見たところ、その指が呪いの要だ。そこから宿儺の呪力が君に流れて、混ざってる。……正直、君がまだ人間のままでいることが不思議なくらいだよ」
「まだ…」
「そう。まだ。解呪しない限り、その強すぎる呪いは少しずつ君を人間でない何かに変えていくだろう」
呪われたその果て。
宿儺が夢月をどう変えようとしているか、彼女には思い当たる節がある。
「心当たり、ありそうだね」
「……信じてもらえるかは分かりませんが」
夢の中で見た……思い出した光景。
かつて人ならざるモノだった夢月は宿儺と共にあった。
長い時間を共にし、家族として暮らした記憶。
「私は前世で人ならざるモノでした。宿儺と暮らしてて…血の繋がりはなくても、あの子は私にとって大事な家族で……
……宿儺は、私を人間から前世の状態に戻そうとしてるんだと思います」
「なるほどね。にしても家族、か…恵から聞いた感じ、そんなんじゃなさそうだったけどなあ…。
他に思い出したことは?」
「……ご期待に沿えるほどは覚えてないですよ。自分の最期と……そこに至るまでを、断片的にって感じです」
「……なんにせよ、執着されているというのは間違いないね。多少驚く話ではあるけど、前世で近い存在だったならその呪いも頷ける」
うんうん、と頷く五条。
「君の死刑だけどね、虎杖悠仁と同じで執行猶予がついたよ。老人共はやっぱり死刑にしたがってたけどね。
呪いの状態からして、君が宿儺の執着であることは間違いなかったし、そんな君を喪えば宿儺は何をするか分からないってね」
そこでだ。
「君に、宿儺のストッパー役になってほしいんだよね」
「ストッパー」
「そう。虎杖悠仁が宿儺を抑えきれず、表に出てきたとき、宿儺を止めてほしい」
「……あの子が人の言うことを聞くとでも?」
「ただの人じゃないでしょ。
呪ってでも繋ぎとめた、両面宿儺の"唯一"。
それが君だ。」
青に見据えられる。
「上は宿儺のリスクを少しでも減らしたがってる。
君が頷いてくれれば、虎杖悠仁も動きやすくなるんじゃないかな」
どちらを選ぶか。
その答えは―ー。