「ねぇ、私が合図したら思いっきり走るんだよ」

「えっでもお姉ちゃんは？」

「お姉ちゃんは大丈夫！いい振り返っちゃ駄目だよ」

「なぁ〜にコソコソ話してるんだﾋｯｸ」
「俺にも聞かせてくれよﾋｯｸ」

「3.2.1いまだ！」
そう叫んだと同時に女の子は走り出し私は怪人の顔に制服のジャケットを被せた

せめて女の子が見えなくなるまではと、怪人と女の子の様子を交互にチラチラと伺いながら広い道に向ってゆっくりと歩いた

やっと女の子が路地裏から出て走り出そうとすると、ジャケットを取った怪人が怒り狂っていて、真っ赤になりながらこちらに手を伸ばしてきた

これはもうだめだ
顔の大きさほどある手が目の前にきて、世界がスローモーションに見え最後を悟った

と思った次の瞬間

パリーン　

何かが壊れるような音がした

伸びてきた手が下に落ち
良くなった視界には頭の部分が割れて、ビールを流している怪人とジャージを着た男の人がいた

理解するまでに時間がかかり、男の人に声をかけられるまでぼーっとしていた

「大丈夫か？よく頑張ったな」

温かい手が頭にふれ、涙があふれ出した
怖かった気持ちが一気に溢れ出てお礼が言いたいのに声が出なかった

男の人はあたふたし、セクハラだったかなと心配していて、その様子がおかしくて面白くて涙はだんだん止まっていった

事情を聞くと泣いて走っていった女の子を見て、路地裏を覗くと私が襲われていたので助けてくれたらしい

なんていう奇跡だろう

「ほんとに助かりました！名前なんて言うんですか？お礼させてください」

「いや、いーよ。たまたまだし」

「じゃあ、名前だけでも教えてください！」

「名前？俺の名前はサイタマ。趣味でヒーローをやっているものだ」

「私は夢子高校生です」

と、まぁこんな感じで私の彼の最初の印象は強くて格好良い理想のヒーローだった

でも、こんな恥ずかしい事今更サイタマさんには絶対言えないんだけどね