トントントン
野菜を切る小気味よい音がきこえる

私の彼氏である承太郎くんとは高校生のときからの付き合いで同棲を初めて5年くらいになる

彼はお洒落でかっこいいだけで無く料理もできちゃう完璧な人なのだ

しかし、そんな完璧な彼は同棲するに当たって変な約束を取り付けてきた

それは私の食事は殆ど彼が作ったものを食べる、外食のときは承太郎くんが食べさせるという約束だ

外で食べさせられるのは恥ずかしいが外食を滅多にしない上に、あまりワガママを言わない彼のお願いに私は別に嫌ではなかった

それに私がご飯を食べてるときが幸せらしくよく、こっちが恥ずかしくなるくらい愛おしそうに私をみてくる

もう習慣となってしまった事で忘れかけていたが、何故こんなことを約束させたのか気になって聞いてみた

「ねぇ、なんで承太郎くんは私に自分の作った料理を食べさせたがるの？」

実はこの質問は2回目で1回目は彼が約束を言った時に聞いたのだ

そのときは、なんやかんやとはぐらかされ結局うやむやになった

「あー…そうだな」

包丁を持っていた手を止め首を傾げている

「約束してから5年2ヶ月と3日たったし教えてもいいか」

「夢子は知ってるか？人間の細胞って大体5年くらいで古いものから新しいものに入れかわるらしいぜ」

また、包丁がまな板に当たる音が始まった

さっきまで好きな音だったのに聞こえてくる音が心臓に響く

「そこで俺は思ったんだ。あぁ、夢子の全部を俺が作れるかもしれないって」

コトコトと鍋が揺れいい匂いがする

「最初は俺の手料理を食べる夢子を見るだけで良かった幸せだったんだ」

ゆっくりと料理を器に盛り付けている

「でもな、そのうち俺の一部を食べてほしいと思うようになった」

カチャカチャとカトラリーが並べられていく

「なぁ？美味しかっただろ？俺」

微笑みながらそう言う彼は素敵で料理が並べられたテーブルは完璧で

目眩がするほどいつも通りの光景だった