毒蛾
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「じゃ〜ん」
名前は毒蛾の前でくるりと回った。
毒蛾は目を開いた。アジトの薄暗い部屋、豆電球が名前の姿を照らしている。黒く短いスカートに、大きく開いた胸元と肩の大きなフリル。
手を広げて、期待した目で毒蛾を見ていた。
「……何のつもりだ?」
「バーの制服」
「……」
「高時給」
名前が親指を立てた。
毒蛾はもう一度上から下へ視線を移して、すぐに視線を外した。
碌でもないバイト先だということは理解した。
「……顔が割れるぞ」
「大丈夫、みんな同じマスクして働くんだ」
くるくると指でマスクを回して見せる。毒蛾は眉間を押さえた。
「そんな危なくないよ」
「目立つと危険だろ」
「ん〜」
毒蛾はいたって真剣だった。
高時給に越したことはない。十字目はいつだって金が無かった。だがリスクを負うほど金が欲しいわけではない。自分たちはともかく、名前が。
マスクをいじる手を止めて、名前が顔を上げる。
「大丈夫だって、一日だけだし」
「どうせ、クソな奴らが集まる店だろ」
「他のキャストも大勢いるよ」
「……頼むから、少しぐらい言うことを聞け」
なぜこんなにも乗り気なんだ。
毒蛾が思わず天井を仰いだ。
名前はそれを見て少し笑った。
腕を組んで、少し間を置く。
「他の子たちの方が凄い。私は普通だし目立たないよ」
毒蛾の眉がぴくりと動いた。
「……は?」
低い声に名前が首を傾げて目を丸くする。
そしてゆっくりと、毒蛾は名前を見つめた。
頭の先から、足の先まで。肩や胸元、柔らかなシルエットに、短いスカートから伸びる足。立ち方や、仕草。揺れる衣装を見て、落ち着かない感覚が腹の底に居座っていた。
自分の顔が熱くなるのを感じて、毒蛾は咄嗟に視線を外した。
名前が一歩近づき、口を開いた。
「問題ないから、任せて」
こうなると名前は止められない。毒蛾はそれをよく知っている。
問題しかない。
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