毒蛾
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がしゃん、と派手な音が響いた。
全員の視線がそちらへ向く。
床には砕け散った食器。
「あっ……」
落とした本人が固まる。
両目に十字の刺青のある男が肩を落とした。
「おいおい、もう他の食器ほとんどねえぞ」
「やっちまったなあ」
程なくして、仲間たちが苦笑しながら集まってきた。十字目の生活は相変わらず苦しい。皿一枚だって貴重品だ。
「ごめん…」
落とした本人が頭を掻く。仲間たちがしゃがみ込み、ちまちまと破片を拾い始める。
毒蛾も息をついて腰を下ろし、破片へ手を伸ばす。
その時だった。
玄関の扉がゆっくり開く。
「何事?」
名前だった。
部屋へ入った途端、こちらを見ている毒蛾と目が合った。次に床一面の破片と、それを囲んでしゃがみ込む男たちが目に入る。名前は一瞬だけ状況を眺める。
「ああ」
名前は状況を把握したように肩を竦める。
「割っちゃったもんは仕方ないよね」
誰かが苦笑した。
名前はそのまま奥の部屋へ向かおうとして足を止める。目の前に広がった破片。
「ごめん、通っていい?」
男達に首を傾げた。
それを見て毒蛾は、手に持っていた破片を置く。立ち上がって名前の横に付き、少し前へ腰を落とした。
「わっ」
体が浮いた。
毒蛾に抱き上げられていた。
そのまま毒蛾は何事もない顔で破片の上を歩き始める。名前が下を見た。潰された破片が、ジャリ、ジャリ、と鈍い音を立てている。
「あら」
名前が不思議そうな声を出すが、それでも毒蛾は下ろそうとしない。
名前は少し考える、すぐに毒蛾へ笑いかけた。
「ありがとう」
私も靴を履いてるけど——その言葉を飲み込んで、毒蛾の肩に手を添えた。貰える気遣いは受け取ることにする。
前を見ていた毒蛾が、名前へ視線を移した。添えられた手を見て、目を細める。
「俺も行こう」
「ん?」
「買い出しに行くんだろ」
毒蛾のアンバー色の瞳が、こちらを見つめている。ああ、と名前も声を漏らした。
「うん、行こう」
返事をすると、毒蛾が頷いた。
「でもまず、部屋に用事があって」
それを聞いて毒蛾はまた動き出す。
破片を越え。
廊下へ出て、奥の部屋へ向かう。
もう足元に破片はない。
とっくに通り過ぎていた。
名前を支える腕が解かれる気配はない。
息をつき、毒蛾の胸へ頭を預けた。
歩くたびに伝わる揺れが心地よい。
名前が視線を毒蛾へ滑らせた。
赤い熱が、彼の耳を染めている。
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