異界を繋ぐ恋の架け橋
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自分が天界に来てから何日が経っただろう。
来る日も来る日も敖潤の執務室で、書物を読み漁ったが、帰還する術が見つからない。
かろうじて、見つけられたのは、他の世界を観測する方法くらいだったが、元の世界に戻るためには観測者が一番有力な帰還方法を持っていると思われる点だけだった。
敖潤「・・・しかたない、朔羅。観世音菩薩の元に行こう。元はあの人が勝手に朔羅をこの世界に呼び込んだのだ。いつまでもこの世界に居るわけにはいくまい」
多くの書物を読み、少し疲労の窺える声で敖潤が言葉を口にした。
それも無理はない。
敖潤は自分が来てから、帰還の方法を探す傍ら、自身の仕事もこなしている。
部下の書類を添削しながら合間に、自分が元の世界に戻れる方法を夜遅くまで探し続ける日々が、連日続いていていれば疲労がたまるのも無理はなかった。
朔羅「私は・・・帰らなくてもいいけど、ココに居ては、敖潤の仕事の邪魔になるから。早く・・・帰った方がいいよね」
数日間過ごす中で、かなり敬語も抜けてきていた。
敖潤「帰らなくてもいいとはどういうことだ、朔羅」
自分の言葉に疑問符を投げかける敖潤。
朔羅「え?あ、えっとね、話すとくだらないことなんだけど、私、元の世界にそんなに執着がないっていうか、あっちよりもこの世界の方が綺麗だし、書物も多いし、それに・・・敖潤と一緒に居られるから良いかなって」
最後は少し恥ずかしくて尻すぼみに言葉を吐き出した。
敖潤「・・・朔羅、ココはお前の居るべき世界ではない。本来居るべき場所ではないのだ。どんなに美しい外見でどんなに美しい景色でどんなに書物が多くて楽しい日々だとしても、ココでの日々は偽りでしかない。お前にとっての本当の世界ではないのだ」
分かっている。そんなことは重々知っている。
でも、敖潤からその言葉は聞きたくなかったなと思う。
朔羅「・・・分かってるよ。それでも、さ。私は、敖潤と」
敖潤「朔羅、それ以上は言うな。別れが辛くなる。私とて、この数日間共に過ごして、お前に対して何の感情も抱いていないわけじゃない。元の世界に戻してやる方法は散々探したが、見つけてやることが出来なかった。これは、私の不徳だ。西海竜王として、異界から来た貴殿を最後まで送り届けさせてくれ」
苦渋の決断とも取れる敖潤の言葉に、自分は頷くしかなかった。
朔羅「・・・分かった。敖潤がそう言うなら、行こう。観世音菩薩様の所に。私ちょっと着替えてくるね」
自分の気持ちに嘘をついて、敖潤の部屋を後にして、あてがわれた部屋で、この世界に来た時の服装に着替える。
部屋の外に出れば、自然と敖潤が壁に背を持たれて待っていてくれた。
そうして2人で部屋を後にする。
部屋にある大量の書物は、捲簾大将の部隊が片づけさせられることになるのだろう。
そう考えならがらも、蓮池に向かって歩み始める。
初めて来た時とは違って、二人の間に会話はない。
ただ、敖潤は静かに自分の手を握って同じ速度で隣を歩いてくれている。
初めてエスコートしてくれた時よりも、少しだけ歩幅が小さく、速度はゆっくりとしていた。
それが何故か、敖潤も別れを惜しんでいるように感じて、寂しい。
正直な所、敖潤の心は最後まで読めなくて、彼に近づけなかったように思う。
(異界に来て、素敵な異性に一目惚れ出来た。これだけで、もう奇跡かな)
自分の中でそう割り切って、共に歩く。
気が付けば、蓮池に辿り着いていた。
そこには、長方形の短辺に当たる場所に設けられた席に腰かけて、蓮を眺める観世音菩薩の姿。
初めてちゃんとまともに見たが、とても薄着で、胸もしっかりあって、男性と女性の両方の性別を持つなんて信じられない位の黒髪の美人さんだった。
菩薩「なんだ、お前。この前、こっちに呼び出してやった奴じゃないか。もう天界は飽きたのか」
上から目線で告げられる言葉に、ここで引き下がっては敖潤のためにもならないと腹をくくって、怯えた声を出さない様に、腹筋に力を入れて言葉を発する。
朔羅「いいえ、飽きたわけではありません。でも、私にとって、この世界は綺麗過ぎて、不釣り合いなんです。私には私の世界での生活があります。どうか、私を元の世界に戻してください」
頭を下げて、観世音菩薩に懇願する。
菩薩「それ、本心で言ってんのか?俺にはお前がココで過ごしてる方が生き生きとしているように見えたがなぁ」
気だるげな観世音菩薩の問いに頭を上げて、心残りの無いように言葉を口にする。
朔羅「確かに、見た事の無い建物や人や美しい桜やたくさんの書物に触れて、楽しくなかったわけではありません。でも、それとこれとは別です。どんなにつまらなくてくだらなかろうが、それが私の世界での生活です。この世界を経験した今なら、たぶんきっと、これまでの生活も変えられると思うんです。だから、元の世界に戻してください」
まっすぐと力強い観世音菩薩の瞳に負けない様に、毅然と背筋を伸ばして言葉を吐き出した。
菩薩「・・・・はぁ、分かったよ。蓮池の真ん中まで歩いてきな、元の世界に返してやるよ」
朔羅「はい」
歩き出そうとする自分の腕を、敖潤が掴んだ。
敖潤「朔羅、愛していた」
それは初めて聞く、敖潤の感情。
過去形なのは、別れを告げるためだからだろうか。
とても短い言葉だが、そこに彼の本心が語られていた。
朔羅「私も愛してる。だから元の世界に戻ってもずっと見守っててくれる?」
敖潤「あぁ、西海竜王としてではなく、私個人として誓おう」
菩薩「別れの挨拶は終わったか?俺もあんまり、濡れてるの好きじゃないから早くしてくれねぇ?」
朔羅「あ、今行きます」
観世音菩薩に急かされて、敖潤が腕を離した。
その熱がまだ体に残っている内に、彼の心が自分に残っている内に、蓮池の中へと入っていく。
中央に辿り着けば、待っていた観世音菩薩が、自分の足元にちょんと指先を付ける。
小さな波紋が、自分と観世音菩薩の間に広がり、やがては大きな波紋となって自分を飲み込む。
水に飲み込まれていく中、一瞬だけ振り返った。
寂しげとも恋しげとも取れる敖潤の瞳と目があったと思った瞬間、水に溺れる。
気が付けば、雨上がりのあの日のあの角を曲がった水溜りの上でへたり込んでいた。
全身ずぶ濡れだったから、このままでは買い物に行けない。
ふと、カバンに入れていたスマホを見れば、日時も日にちも天界に行ったあの日のままだった。
あの美しい場所で過ごした日常との時間差はどうなったのか、独り疑問に思いながらも自宅に帰り、お風呂に入って着替えを済ませる。
こうして自分は大好きな人を置いて、一人退屈な日常へと戻った。