湯上り小話
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ケホ、と軽い咳と少しばかりの寒気を感じた。
理由は単純で、この町に着く前にスコールに当たったからだ。
それ自体は直ぐに止んだが、山岳地帯の気温と相まって寒さにぶるりと身体が震えたのも覚えている。
それは俺以外も一緒で、悟空に至っては鼻水を垂らしていた。
それが約2時間前程の話。
八戒「温泉付きとは運が良かったですねぇ。はい、上がりです」
悟浄「その前にスコール当たってりゃトントンじゃねぇの?お、猿ババ引いた」
悟空「あー!悟浄、言うなよな!」
三蔵「言われんでも顔に出てる」
鬼宮「俺、三蔵が引いたらアガリだ」
温泉付きの宿で身体を温めた一同。
服は宿に頼んで洗濯してもらい、今は浴衣姿で一部屋に集まり、いつもの様に酒とツマミを並べてトランプに興じている。
今回は賭け事が苦手な俺を気遣って、ババ抜きとシンプルなゲームなので、もちろん巻き込まれている。
しかし、ゲームなどいいから早く自室に戻って休みたい。
スコールに見舞われたせいか、風呂上がりなのに寒さが抜けない。
こんな所で、風邪をこじらせて無駄足を踏ませたくはない。
鬼宮「アガリだから、部屋に戻るよ」
できるだけ平静を装って、三蔵に最後の一枚を託して立ち上がる。
それを見上げた悟浄が、自身の残ったカードを八戒に渡した。
アガリの枚数ではないカードを素直に受け取り、「好きですねぇ」なんて言う八戒。
(なんでだよ、やってろよババ抜き)
そう思いつつ、部屋を後にしようとする。
八戒「送り狼はダメですよ、悟浄」
三蔵「いっそ、そのまま殺されてこい」
悟浄「なんも、しねーって。ちょい、ツマミ買ってくる」
悟空「あ、じゃぁ、俺、ゲソ!」
悟浄「勝手に注文するなよ、バカ猿!」
いつもの如く、ヘラヘラと会話して、俺の後についてくる悟浄。
扉の取っ手を掴めば、さりげなくエスコートして、そっと肩に手を添えられて部屋を出る。
斜め後ろに感じる悟浄との近い距離感に、身体に力が入ってしまった。
鬼宮「・・・なんで一緒に出てくるんだよ」
悟浄「なんでって、そりゃ好きなオンナとは片時も離れたくないもんでしょ」
鬼宮「だからそういう・・・って近い!」
悟浄が肩を抱き寄せ、覗き込むように言うもんだから、顔が熱を持つ。
満足そうに笑って見てくる悟浄が腹立たしくて、脇腹に肘鉄を喰らわす。
悟浄「っ!凛華ちゃん、力強っ」
鬼宮「自業自得だろう」
悟浄の咳き込む様を横目にフン!と鼻を鳴らして歩き出そうとするが、腕を引かれ叶わなかった。
後ろから抱きしめられ、額に手を当てて熱を測られる。
悟浄「ちょっと熱、あるんじゃねぇの?」
鬼宮「・・・ない」
悟浄「おーおー、素直じゃないねぇ」
「こんな熱いのに?」と首筋で囁かれ、一瞬肩が震えてしまえば、悟浄が小さく笑った声が聞こえた。
恥ずかしさと悔しさから、今度は足を踏み付けてやると腕の力が緩み、その隙にするりと抜けだす。
悟浄「ったく、ホント強情」
涙目の悟浄がくつくつと面白そうに笑うのを、赤くなった顔を隠すように横目で見ていると、突然ふわりと体が浮かぶ感覚。
驚きに目を見開き、慣れない不安定さに、つい悟浄の首に腕を回せば、紅い視線と絡み合う。
悟浄「お部屋までお連れしますよ、お姫サマ。ってな」
(弱ってる他人のフォローに抜け目ない奴・・・悪くはないけど)
鬼宮「・・・・・・頼んだ」
数秒の思考を経て、この距離でも聞こえるかどうかの声量で呟く。
それでもしっかりと悟浄の耳には届いていたようで、予想外の返答だったのか、目をぱちくりさせていた。
(自分でやっておいて驚くな)
と思ったのは、一瞬で、紡がれる彼の言葉を聞いて、お姫様抱っこを拒否すべきだったと反省する羽目になる。
悟浄「何、凛華ちゃん、どうしたの?超かわいいんですけど?大好き!!」
鬼宮「馬鹿っ、やめろ!!」
そのままの体勢で思い切り抱きしめられ、反射的に叫んでいた。
俺の声に反応して部屋から飛び出してきた面々に、悟浄は大バッシングを受けた。
お姫様抱っこから解放され、結局、4人に部屋まで送ってもらった。
彼らが立ち去る際、悟浄と目が合う。
悟浄(もっと甘えても良いのよ?凛華チャン)
鬼宮(調子にのるな)
優しく細められる悟浄の瞳に眉間をひそめたが、彼はそんな事を気にするそぶりもなく、ヒラヒラと手を振って出て行った。
扉が閉まる音を聞き届け、ばふりとベッドに倒れこめば、自然と声がこぼれた。
鬼宮「・・・悟浄の、バカ」
そんな言葉と裏腹に、彼に対する嫌悪感はない。
むしろ、彼の事を思うと、心にぬくもりを感じる。
この感情に、名前があることを知るのは、もう少し先の話。
~湯上り小話、完。~