死んだ町に居座る適合者【改訂版】
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歓迎会というもので、飲み比べをさせられ、部屋の前で眠ってしまった。
会場を出た時には床一面に酒瓶が転がり、何人か倒れていた気もするが、正確にどれほど飲んだのか、我自身も記憶していない。
たくさんの酒を飲んだせいか、ひどく喉が渇く。
椿にはクロウリーが付いているから、もう暫く任せてもいいだろう。
きちんと酒の匂いを体から飛ばしてから、見守り役を交代しようと、虎の姿へと戻る。
ぼやけた思考をはっきりさせようと、ブルブルと体を揺らせば欠伸が漏れた。
食堂に行けば水をもらえるだろうが、ジェリーには会いたくはない。
(飯は美味いが、人間の雄は守備範囲外だ)
周囲の匂いを嗅いで、風が吹く方向へと歩みを進めれば、開けた場所へ出る。
地面から水が上へ吹き出している不思議な建造物を見つけた。
覗き込めば、澄んだ水が満ちている。
川辺を探さなくても水が飲めるのだから、人間というのは、つくづく賢い生き物だ。
水が満ちている淵に前足をかけて、舌で水を舐めて喉を潤す。
椿と暮らした町の水とは違う、少し硬い感触のする不思議な水だが、酔いを醒ますにはちょうどいい。
暫く水が溢れる不思議な建造物で喉を潤し、体内に残っていた酒を流していく。
美味い水を飲んだついでに、乱れていた毛並みを舌で丁寧に整え、最後に首回りを後ろ足で搔いて、もう一度伸びをする。
酔いが抜けていく感覚に、良しと腰を上げて歩き出し、改めて空を見上げれば、今まで見たこともない美しい橙色の空。
うっすら透けて見える小さな月が登っているのを見て、かなり長い時間寝ていたことに気づいた。
(あの子と見る夕焼けは、常に死の匂いが漂っていて、空気が濁っていたな)
アクマ共は毎日来ていたが、夕暮れ時が数が多く、有毒ガスが蔓延していた。
空気が荒んでしまうから、空をゆっくり眺めている余裕などなかったと、感慨に耽りつつクロウリーを解放してやらねばと部屋に戻る。
昨夜、椿のことが心配で、外開きの扉を力ずくで内側に開けてしまったから、扉は少し歪にハマってしまっていた。
獣人型になり、大きな爪をドアノブに引っ掛けてこじ開ければ、ガコっと音を立てて扉が外れた。
(…直すのは科学班と言っていたから、コムイに言えばどうにかなるか)
邪魔な扉を部屋横の壁に立てかけ、声をかける。
「クロウリーすまぬ、酒が抜けるのに時間がかかった」
「た、助けて欲しいである、ぅ、腕が」
我の目に飛び込んできたのは、青い顔を涙で濡らし悲壮感を全身で表しているクロウリーと、彼の涙で濡れているにも関わらず、全く起きようとしない愛娘の姿。
何をどうしたら、自身よりも大きな大人を抱き枕にできたのか理解できないが、昨夜からずっと同じ体勢であったであろうクロウリーを解放する為、半ば強引に椿をひっぺがし、床へ投げ捨てる。
日頃はこんな事しないが、クロウリーが哀れで仕方なかった。
床に落とされても一向に起きる気配がない椿を横目にため息が漏れた。
(ようやく、気を許せる相手を見つけたのに、これでは嫌われてしまうぞ)
他人に興味を持つことがなかった愛娘が、我以外の温もりに安堵し熟睡できたのは喜ばしいが、他者との距離の取り方から指導せねば。
「た、助かったである。もう、腕の感覚がなくて」
「すまないな、クロウリー。うつ伏せになれるか?昨日の礼だ」
「こ、こうであるか?」
疑問符を浮かべながらも、長時間の拘束で大きく体を動かせないクロウリーがなんとかうつ伏せになったのを待ってから、虎の姿に戻る。
ベットに飛び乗り、彼を圧迫しないように気をつけながら、爪を出さぬよう肩から背中へと、にくきゅうを押し付けて身体を揉んでいく。
本来は子猫が母乳を飲むために、母猫の腹を押す仕草なのだが、稽古疲れで筋肉痛が酷いと椿が寝込んでたにコレをやったら喜ばれたので、人間にとって気持ち良いことのはずだ。
案の定、クロウリーが、気持ちいいであると漏らし始めたので、間違った判断ではないと認識し、一心地つけば、徐に尻尾を引っ張られた。
「‼︎っ……… 椿。起きたなら、尻尾を離してくれ」
「ゔー、みぃずぅう」
地の底から這い出てきた亡者のような呻き声をあげる椿に、昨夜クロウリーが用意してくれていた水の入ったコップを押し付けて飲ませる。
(酒の勢いで告白した相手の前で、コレでは先が思いやられるぞ、愛娘よ)
尻尾から手を離した代わりに、コップを取り落としそうな椿の介抱に悪戦苦闘しながらも、クロウリーに視線を投げれば、にこりと笑いながら立ち上がって身支度を整えていた。
「すまぬ、コレはまだ復活に時間がかかりそうだ。迷惑をかけたな」
「いや、私は大丈夫である。瑠璃はもうお酒は抜けたであるか?」
「あぁ、問題ない。体は大丈夫か?」
「先程のマッサージが効いたである。とても気持ちよかった。また任務から戻ったらお願いしてもいいであるか?」
「気に入ったのならいくらでもしよう」
水を飲み終えた後、"二日酔い"というやつから抜け出せない椿をベットに押し込み、クロウリーを送るべく背を向けるが、再び、むんずと尻尾を掴まれる。
(………堪えろ、今はクロウリーがいる。説教は起きてからたっぷりしてやる)
獣にとって尾を掴まれるというのがどれほど不愉快な事か、散々説いて聴かせたというのに、酒を飲むと正常な意識をなくすから、舐めるだけにしろと厳重注意していたのにこの有様だ。
我の苛立ちが伝わったのか、クロウリーが慌てて取り繕うように言葉を吐き出した。
「で、でも!…良かったである。… 椿にも安心できる場所が出来て」
「あぁ。クロウリー達のおかげだな。これからは共に戦わせてくれ」
「よろしく頼むである。仲間にはたくさん頼るべきだ。私もホームの仲間に助けられて今がある」
白い牙を覗かせて笑い、とても頼りがいのあるクロウリー。
少し後ろめたい気持ちがあるが、やらねばならぬことを思い出し、おずおずと言葉を吐き出す。
「その…、早速で悪いのだが、コムイに部屋の扉を直してくれるよう頼んではくれまいか?」
我の言葉に、一瞬首を傾げたクロウリーは振り返り、枠と化した扉の場所を見ると、任せるである!と、部屋を飛び出していった。
程なくして到着した科学班によって扉は修理されたはいいのだが、我はクロウリーに頼んでしまった事を後悔した。
現場に駆けつけた連中によって、椿とクロウリーが、保護者公認カップルだという噂が立ってしまったのだ。
致し方ない事なのだが、この時の我は、扉を直す間も全く尻尾を離さない椿に対する怒りをこらえるのに必死で。
団員達を驚かせてはいけないと、獣人型で来た者達へ詫びながら、修繕を待つしかなかった。
酔い潰れた椿が正常に再起動したのは、2度、日が昇り、月が沈んでからだった。