死んだ町に居座る適合者【改訂版】
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騒々しい会場を離れて、一人そわそわとしながら、廊下を歩く。
腕の中では、自身の胸に頬をすり寄せて心地よく眠る椿がいた。
ドクドクと早い心音が聞かれていないか、不安ではあるが、それよりも先程の椿の言葉が頭から離れない事の方が、大事だった。
(さ、さっきのはなんだったであるか......? 椿が私のことを、す、すす す、好き......?であるか?)
そんな馬鹿な。
そう思いながらも、椿の性格を考えれば、嘘だとは言えない現状に、ゴクリと生唾を飲み込む。
――本当に好かれていたとしても、きっかけは一体何なのだろうか。何時?どこで?何が椿の心を動かしたのか?
懐かれてる温もりと心のモヤが具現化し、疑問符が自身の周りを囲っていく。
考えれば考えるほど、分からない事だらけだ。
「んー......、くろぅりぃー......?」
「!気づいたであるか?気分はどうだ?大丈夫であるか?」
「......ん、あったかい」
目を細め、猫のようにゴロゴロと身を寄せる椿。
嗚呼、だめだ。まだ酔っているらしい。
ツカツカと廊下を歩き、椿達の部屋へと向かう。その間、無口では何となく居心地が悪い気がして、私は口を開いた。......とは言っても、こちらもパニック状態なのだから、出るのはついさっきの話くらいしかなくて。
「さ、さっきのは、なんであるか......?」
「んー、好きって、いっらこと?そのまんまらよぉ」
――再度落とされる、爆弾。
それにこんがりと焼かれながら、私は足を進める。
椿達の部屋は、もうすぐだ。
カチャリ、とドアノブを捻り、部屋へと入る。
「くろーりぃー......?」
「......シラフの時に聞くである」
「いぇないよ、こんなこと......酔ってないと、むり」
フイ、と顔を背ける椿に、クロウリーは足を止めた。
......何故止まったのか自分でも分からない。ベッドはもう既に目の前なのだ。あと――4歩程度で、着く。
そう思った瞬間、ぴとりと冷たい手に頬を撫でられる。まるで、困らせてごめんね、と言わんばかりの優しい指先に、私は息を飲んだ。
「......椿。冷えてるのではないか?すぐ布団に、」
「大丈夫。少しだけじっとしてて......?」
「何を......っ!」
つぅ、と椿の指先が、唇を撫でる。形をなぞる様に動く指先に、不安とドキドキがない混ぜになる。
――長いようで、短い刻。
魅入られたかのように、椿から目が離せない。......そう思った瞬間、椿の顔がクロウリーに近づいてきた。
心臓の鼓動が早鐘のように煩い。
その心音が自分だけではないと気づき、思わず目を閉じた。
(...っ、...............?)
「.........ありがとう」
温かな吐息が耳に触れ、遠ざかる。唇に触れていた指先がするりと抜けていき、途端に腕の中の椿が重くなった。
脱力する身体に、やっと感覚が戻ってきたような気がした。
「.........寝、た......、であるか......?」
くてんとする椿を抱え直して、ゆっくりと歩き出す。あと5歩が、遠いようで、近かった。
ベッドに椿を下ろして、布団をかけてやる。その寝顔を見つめ、――先程の出来事が、頭を過ぎった。
(今のは......なんであるか......?...この胸の高鳴りは...もう、感じることはないと思っていたのに。......嗚呼、私が愛しているのは、エリアー デ。エリアーデだけである。それなのに。それなのに......――)
ぐらり、と揺れる頭。ショックと椿の甘い香りに、思わず目眩がしてしまう。
私は自分を一途な男だと思っていたが、......とんでもない。
(だが、これは、その、......告白?されただけで、へ、返事はしてなくて ......)
――いや、返事をしないのは、失礼であるか?自分の中で葛藤に葛藤を重ねる。
自分の心に何度も何度も言い聞かせるが、気恥ずかしさと戸惑いが拭えない。
それでも、誰かに好かれるというのは嬉しいことで......――。
『いきなさい、私は――。』
――エリアーデの、声が聞こえた。
ふと振り返るが、そこには誰もいない。......いなくて当然だ。
『いきなさい。』
再び聞こえる声に、私は息を飲む。......嗚呼。嫌な予感がする。エリアーデが、アクマであると知った時のような。――そんな感じが。
「......エリアーデ。私は、どこへ行くと言うのだ?」
ぼつりと呟いた、小さな独り言を聞くものはいない。
目の前で小さく寝息を立てる椿に、堪らず泣きたくなった。