【第13章〜解放〜】
夢小説設定
本棚全体の夢小説設定夢小説の主人公は、その話に応じて容姿や性格などを設定しています。
全ての小説で、夢用のお名前を使用する場合は、こちらを使用してください。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「まずは時計女からだよなァー?そして、弓女。その次はァ......そうだな、毛むじくじゃらにしよう。あァ、想像しただけで楽しそうだァ!」
体を揺らしながらベロリ、と口周りに舌を這わせるアクマは、椿達に向かってカツカツと近寄ってくる。目当てはこの中で基盤を支えている――ミランダだ。
(マズい。ミランダが今倒れれば、こちらの戦力はじり貧になってしまう)
致命傷にも近い傷を抱えて戦って勝てる程、敵は弱くない。どうする。どうすれば――!!
「......ミランダ。さっきの約束、ちゃんと守れよ?」
「......椿ちゃん?」
誰もが打開策を探す中、神妙な顔で椿はミランダへと声をかける。
硬い声に不安を覚えるミランダを無視して、椿は弓に額を当てた。まるで何かを願うように目を伏せ、腹から声を絞り出した。
「――なあ、イノセンス。貴様はこんなものではないだろう?守るんだろ。強くなるんだろ。今、その成果を発揮しなくてどうする!
――力を、寄越せッ! 」
椿が吠えるように叫ぶ。その瞬間――椿の弓が強い光を発した。
バチバチと音を立てて、ネットと光が争う。眩い光に、中に居たミランダが目を閉じた。
「足掻いたって無駄だァ!ダークマターのネットは壊れないッ!」
「ッ、所詮っ、ネットだろが......!」
「あァアン?」
「隙間があればいいんだよ......吹き飛べッ!――クソアクマがァッ!!」
放出した光が巨大な弓を型取り、イノセンスの力とダークマターが拮抗する。イノセンスの光の強さに、椿の額に大粒の汗が浮かび、頬を滑り落ちていく。その必死な様子に、ミランダの声にならない声が、椿を呼んだ。
しかし、徐々に押しのけている状況に、椿が返事をしている余裕はない。
「まだ抵抗するんだ?無駄なのになぁ?」
「はっ、......無駄かどうか、試してみるか......ッ?」
震える手で、弓を二度叩く。そのまま弦を引いていく手は、気を抜けば今にも放ってしまいそうな程、ぎりぎりで保たれていた。
レベル3のアクマは、必死な椿を舐め切ったように笑顔のまま近寄ってくる。ピタリと足を止めた時には、振り上げた手を振り下ろせば、殺せてしまう程の距離に来ていた。
しかし、それを止めるように、白く輝く矢の切先がアクマの胸の直近に向けられていた。人間であれば、確実に心臓を貫く位置。
それでも慌てた様子を向けなかったアクマは、矢の纏う光が更に強くなるのを目にし、顔を顰めた。崩れた表情に、椿がにやりと笑みを浮かべる。
「この距離なら外さない」
「お前......自分を犠牲にする気か?」
「構うものか、守れるのなら......!」
それでもいい、と弓を引く椿に、アクマが目を見開く。それと同時に、ビキビキと音を立てて、椿の両腕から顔にかけて六角形のヒビが現れた。
あまりにも強い痛みに、椿は出かけた悲鳴を噛み締めて、死ぬ気で呑み込む。......こんなの、父を殺した時の痛みと比べれば、断然マシだ。
光が辺りを強く照らし、アクマがたじろいだ。
ビキビキと広がるヒビが、椿の肩にまで浸食していく。
「ッ――!」
「椿!」
「やめて椿ちゃんッ!」
「クッソ......、こんなもの......ッ!」
「こいよ、イノセンス。ぶっ壊してやるッ!」
「壊れるのは、テメーだ!」
かけられる声に応えることなく、椿は矢を放った。返した手首が、ベキョッと聞いたこともない音を立て、折れる。
悲鳴にもならない声が、矢がアクマを貫こうとする音にかき消されていった。
「グッ、ゥゥゥウウウッ!!」
光の矢がアクマの体を貫こうとする中、アクマは両手で矢の行く先をせき止める。
しかし、空を切るほどの威力を持った矢の強さに、勢いよく後方へと吹っ飛ばされた。地面に足を食い込ませて耐えるレベル3に、椿は更に追加とばかりに矢を打ち放つ。
怪我など、黒い時計の下ではあってないようなものだった。
2射、3射、4射と追加の矢が、寸分の狂いもなく同じ所へ放たれる。それも全て、渾身の一撃のような物ばかり。束になった矢は、アクマの手の中で融合し、どんどんとその質量を増していく。金色に光っていた矢は、追加される度にその明度を上げ、4本目の矢を吸収した時には――純白の矢へと進化していた。
刹那。ガッ、と矢の先端がアクマの手を貫いた瞬間――――勝負は決した。
「ぐっ、がぁがァアアアッ!いの、センスめェエエぇえェエッ!」
「――地の果てまで消し飛べ、アクマ!」
一番大きな5射目がアクマの胸の中心を捉え、純白の光は一気に溢れだした。洪水と化した光が収縮し――――次の瞬間には、アクマごとあたり一帯を吹き飛ばしていた。
眩しい光が町中を包み、その場にいた全員が目を伏せた。
視界の暗闇の中、爆発音が聞こえ、暴風が身体に襲い掛かる。
ガガガガ、と地面を抉り、瓦礫が宙を舞う。木がなぎ倒され、アクマの放った攻撃の残骸が、許容量を超え、消滅していく。
爆風が落ち着いた時には既に――――そこは更地となっていた。