【第13章〜解放〜】
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(ああクソッ)
右肩が痛い。左足の感覚がない。弓を引きすぎた指先がすり減って、血が出てきている。
――満身創痍。
その言葉が茹った彼女の頭を過るくらいには、鋭く、鮮明に、現実として存在していた。
けれど、椿には関係がなかった。
アクマの声が遠くなっていくのも、視界が白んでいくのも、どうでもいい。やるべき事はたった一つ。敵がいなくなるまで――――駆逐するだけだ。
「一人で頑張りすぎだと言っただろうッ!頑固娘ッ!」
アクマの砲撃が放たれる直前。
後ろから飛び出した黒い弾丸のような存在と、今日ですっかり聞き慣れてしまったその声に、椿は目を見開いた。目の前にいたアクマが切り裂かれ、爆風が襲い掛かって来た。咄嗟に顔を庇うように出した腕が、視界を遮る。
それを狙っていたのか。ガッ、と腹に衝撃が走った体が、一気に後方へと引き下げられた。黒と白の髪に、椿は息を飲んだ。
「っ!クロウリー?!」
「ミランダ!今だ!」
「何をっ、!」
「リバースを解除。間に合って......――“リカバリー”!」
叫ぶ椿に構わず、ミランダは能力を一旦解除すると、別の能力を発動させた。
「っ!、黒い、時計......!?」
一気に色が変化した時計の海に、椿は目を見開く。
ほんの一瞬だけ3人に傷が戻るが、ミランダの頭上に浮かんだ黒いレコード時計盤が、それを許さなかった。全員を最善の状態を保つため、時間を吸い込んでいく。
今にも血を全て失ってしまいそうだった椿の身体は、嘘のように回復し、まるで怪我がなかったかのような状態にまで戻っていった。
驚きに目を見開いていれば、のし、と聞きなれた足音が聞こえる。
振り向けば、そこに居たのは既に臨戦態勢になっている、瑠璃の姿だった。
「コレで、我も戦える」
その言葉に、椿の心臓が一気に冷え、引き絞られた。
「瑠璃、なぜ来た!?休まないと......!」
「お前が傍に居なければ、休む理由などない」
「っ、バカだろっ......」
「馬鹿はどっちだ、お転婆娘」
瑠璃の物言いに、椿は心の蔵を握りつぶされたかのような痛みを覚えた。......それでも口角が上がってしまうのは、どうしてなのか。
しかし――士気は、高まった。
一人、かなりの無茶をした人間がいたが、それもミランダの能力でとりあえずなかったことになっている。敵であるアクマ達は未だ空を飛び、ミランダの能力の本質に気づかないまま、こちらの出方を窺っている。
......隙をつくなら、今しかない。
ミランダは三人に向き合うと、強い視線と声でもって訴えるように声をかけた。
「みんな。あまり私から離れないで。傷が戻ってきたら、直ぐに私の近くに戻ってきて欲しいわ。それと......戦いの最中の怪我も戻しているから......できれば、あまり怪我はしないでね」
「これが仮初の回復か。......とはいえ、怪我云々は保証はできないが、瑠璃を生かすために使わせてもらおう」
「椿ちゃんも気をつけて。貴女が居なくなったら、瑠璃さんが悲しむわ」
そう告げたミランダに、椿は言葉を返すことは出来なかった。
......自分の身勝手に、ここまで協力してくれている。力を持っていたとしても戦えないのでは無力と同じだと思っていた人間に、――今、自分は助けられているのだ。
見栄だけではどうにもならないと、どうにもさせてくれないのだと、椿はどこか頭の片隅で理解してしまった。