【第2章〜廃墟にて〜】
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「ついてこいよ。地下にまだ崩れてない部屋がある」
振り返ることなく、背を向けた椿。
どこか悲しそうな雰囲気を背負った彼女の背中に、クロウリーは胸が痛むのを感じる。椿の後ろを少し距離を開けて付いて行きながら、クロウリーは改めて彼女を見た。
深い紺色の髪を低い位置で束ね、毛先は彼女の背中の中心くらいを右往左往している。アジア系の少し黄色味がかった肌色に、色褪せた緑色の中華系のノースリーブのトップスを着ている。
下は動きやすそうな裾が開いているズボンを履いており、左手首には、先程打ち付けていた白いリングがあった。――あれが、彼女のイノセンスなのだろう。
ふと、凛として歩く後姿が、かつての最愛の人に重なって見えて、クロウリーは瞬きをした。
しかし、目の前にいるのは二つ縛りをしている彼女ではなく、一つ縛りの適合者であるし、髪の色も明度も真逆である。
そんな彼女を空見したのが少しだけ申し訳なく思えて、クロウリーは視線を落とすと、おずおずと話しかけた。
「えーと......すまないが、なんと呼べばいいであるか?」
「あぁ、名乗りが遅れたな。――俺の名は椿だ。花の椿と同じ。俺の家では代々、子供に花の名前を付ける習わしでな。まあ、もうその風習を継ぐ人間は、俺以外に存在しないがな」
瓦礫を乗り越えながら椿と名乗る彼女の言葉に、ツキリと心の蔵が痛みを覚える。
身内がいなくなってしまうという事が、どれだけ不安で、どれだけ悲しい事か。幼い頃に祖父を亡くしたクロウリーは痛い程、思い知っていた。
だからこそ、彼女の言葉に深く反応してしまうのかもしれないが、それでもクロウリーは、自身の感じる彼女の悲しみを嘘だと言いたくはなかった。
「ふぁ!? ちょっと!どこいくのー!!?」
突然背後から掛けられる聞き覚えのある女性の声に、椿とクロウリーが振り返った。そこには大虎の背に、心底怯えながらも背中から離れられないミランダと、そんな彼女を気にしているのかしていないのか、わからない虎が、こちらへと向かっていた。
聞き覚えの無い、けれど、どこかで耳にしたかのような声にクロウリーは首を傾げ、椿は「あ。」と声を上げた。まるで今何かに気が付いたかのような声に、クロウリーがまさか、と思う。
(......もしかして、忘れていたのであるか......?)
てっきり、集合場所を決めている物だと思っていたが、そうではなかったらしい。
ふと、足を止めた椿に、クロウリーも続けて足を止める。
目の前にまで降りてきた大虎に、椿が手を伸ばした。
「ごめん、瑠璃。お疲れ様。降ろしてあげて」
椿の言葉に大虎はしゃがみこむと、彼女をそっと下ろしてやる。
戸惑いに満ち溢れていたミランダは、見知った人物であるクロウリーを見ると、駆け寄ってその後ろへと身を隠した。
「ミランダ、大丈夫であるか?」
「こ、こここ、この子、さっき襲ってきた虎よね......?だ、大丈夫なの?」
カタカタと身体を震わせながら、そう問うてくるミランダに、「問題ないである」と声をかける。
しかし、やはり信じきれないのか、彼女は訝しげなまま、目の前の2人を見ている。
そんな視線に気がついたのだろう。
大虎は[#徐=漢字_おもむろ#]に立ち上がると、ゆっくりとその姿を変えた。
「と、虎が!ひ、人に......ッッ?!」
みるみるのうちに変わっていく、大虎の姿。突然の出来事に、ミランダは悲鳴を上げ、クロウリーは目を見開いた。
徐々に人の姿へと変わっていく大虎。
人の姿へと戻った彼は、精悍な顔立ちに、虎の時と同じ瑠璃色の瞳を携えている。
不思議なほど綺麗に虎柄を浮かべる髪の間からは、ぴこぴこと小さくなった獣の耳が覗いていた。
――人型、というよりは、半獣半人といったところだろうか。
両腕は大きな爪を持った獣そのもので、下半身も獣のままだが、先程のよりも細く、どこか人間の脚のような形になっている。
ふりふりと揺れる尻尾が、愛らしい。ぱっちりと開いた鋭い猫目と、小さくなった口から見える牙が月明かりに照らされ、キラリと輝いた。
瑠璃は猫のようにブルブルと頭を振ると、乱れた髪を器用に掻き上げた。
「我が名は瑠璃。イノセンスと一緒になった者だ。無論、人語を話せるし、人を襲う趣味はない。──だからそう怯えるな」
口角を上げて、笑みを浮かべる瑠璃。
先程の青年が成長したような男の声だった。
ホームの中でもかなりの高長身のクロウリーよりも、少しだけ視線が高い彼は、ミランダを落ち着かせようとミランダに肉球を押し付けた。
恐怖に目を閉じた彼女が、肉球の柔らかさに目を見開く。