死んだ町に居座る適合者【改訂版】
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「ねぇ。椿ちゃんって、スタイルいいのね。細いけど、腹筋割れてない?」
「あ、何だよ?いきなり」
女性のみが入る事を許された聖地――女風呂。
その中では、髪を洗うミランダと、同じように髪をまとめた椿が身体を洗っていた。髪は既に洗い終わり、リンスを浸透させている。
体中に刻まれた傷に、湯や泡が入っていくのがピリピリと痛むが、2人は慣れたものだと言わんばかりに普通に身体を洗っていく。
その最中だった。
ミランダが椿に声をかけたのは。
「えと、羨ましいなって。肌も綺麗だし足も綺麗で......」
「あー、婦長にもソレ言われたなぁ。そんなにか?」
「ええ」
ザァ、と体に湯を掛け、首を傾げる椿は、ミランダの体をまじまじと見つめる。......ミランダも綺麗だと思うけど、と内心で呟きながら、椿は視線を逸らした。
――教団の浴場は広い。
そりゃあもう、広くて広くて。壁との距離が風呂の湯気で、よくわからなくなるほどだった。
入る直前には、扉を開けた瞬間、「俺の実家の家のより広くね?」と呟いてしまう程。椿の家は、町の中でも有数の屋敷だったはずだが......。
髪を下ろして、一度リンスを流す。
すると、ミランダは再びどこか不思議そうにしながら話しかけてきた。
「椿ちゃんの髪、何で止めてるの?」
「あ?何も使わねーよ。テキトーにこうしてる」
道具を一切使う気配のなかった椿が、気になったのだろう。
首を傾げるミランダの前で、椿は慣れた手つきで水分を絞ると、くるくると頭上で巻いて、先端を巻いた髪の中に差し込む。グッと上へ持ち上げれば、手品のように髪をまとめあげると、見ていたミランダから拍手があがる。
「凄いわね! 椿ちゃん、何でもできるのね!」
「そうか?でも、できないことの方が多いさ。ずっと廃墟の中で暮らしてたから、覚える必要性があっただけ。教えろって言われても無理だからな」
「そうなの?出来そうだけれど......私も髪、伸ばそうかしら?」
濡れた髪をいじるミランダを横目に、椿は湯船へと浸かる。
体を洗いはじめるミランダを見ながら、浴槽の縁に腕を乗せた椿は、その腕に頭を乗せた。じんわりと広がる温もりに、ホッと息を吐く。......湯船なんて、いつぶりだろうか。
「にしても、温泉っていいな......こう......なんか、飲みたい気分になる」
「椿ちゃん、お酒飲めるの?」
ザバ、と身体を流し、ちゃぽんと隣に入って来たミランダが、驚いた顔で問いかける。その顔を見ながら、椿はコクリと頷いた。
「商人が道に落としていった酒瓶をちょっと、な。瑠璃も飲めるぞ」
「虎なのにっ!?......虎って、お酒飲めるのね......?」
「らしい。けろっとしてたぞ。毒味みたいだったけどな。まあ、その時は『大人になったら』と没収されたんだが」
「ふふっ。そこはちゃんとしているのね」
「瑠璃が煩いだけだよ」
その当時を思い出しているのだろうか。はあ、とため息を吐く姿は、口うるさい親の愚痴を言うような、娘の姿そのものだった。
その背中に、くすくすとミランダは笑みを浮かべる。ほのぼのとした2人の話は、いつ聞いても心が温まる。
「......瑠璃。一人で大丈夫かな?」
「うーん......よく考えたら、瑠璃さんはいつも......その、裸、よね?」
「まぁ、虎だからなぁ。好きな時に獣人型になってるし」
若干頬を染めるミランダ。温泉のぬくもりに揺れている椿は、そんな彼女に気づかないくらい、ぼんやりしていた。
体の中を、血が巡っていく。こんなにゆっくりと風呂に入るのは、幼少期ぶりだったのだ。仕方がない。
「水浴び好きだから、温泉も好きだといいなぁ......。なあ、他に誰もいないし、泳いじゃダメか?」
「いいんじゃないかしら?そんなに深さはないから、気をつけてね?」
「よっしゃー」
のんびりとした声に次いで、椿の姿が湯の中へと消えていく。
すいー、と音を立てることなく浮き、時折方向転換をしている椿を、ミランダは温かい目で見守っていた。傍から見れば、もう完全に姉妹のようなやり取りだ。お転婆の妹を、見守る、優しい姉のような。
(今度はお酒でも持って、一緒に入りたいわね)