【第16章〜観測者〜】
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「コムイ、終わったぞ」
コムイ室長の反省のない発言に、婦長が心底呆れていると、診察の終わったブックマンがカーテンの奥から姿を現した。
気を使って、しっかりとカーテンを閉める彼は、医療従事者の鏡と言っても過言ではない。
何処ぞの悪戯室長とは大違いだ。
「ブックマン、ありがとうございます。椿さんは?」
「うむ。命に問題はないが、栄養不足じゃな。人のいない町では、まともな食料も無かったのだろう。驚くほど細かったぞ」
「えっ、もしかして彼女の裸を、」
「見ておらんし、適当な事を言うでない」
はあ、と心底呆れたため息をつくブックマンに、婦長がコムイを睨みつける。
あははは......、と苦笑いを浮かべる彼は、キリッとした表情に変えると、「それで?」と促した。......相変わらず、調子のいい人だ。
「私の針で、ある程度臓器機能は回復に向かったはずだ。あとは栄養剤の投与を続ける事と......本人の気力次第じゃな。何か夢を見ておるようじゃが、内容まではワシにも分からん。悪夢ではなさそうだがな」
「そうですか...。一応、瑠璃くんも診てもらえますか?」
「ワシは獣医ではないがの」
「そこをなんとか」
文句を言いつつも、帽子を外し、頭を下げるコムイに、ブックマンは瑠璃のベッドの方へと歩き出した。......こういう所があるから憎めないのだ、とブックマンはコムイと、その隣で自主的に頭を下げる婦長を横目で見て、鼻を鳴らした。
虎の姿でベットに横たわる瑠璃の体を触り、触診していくブックマン。
虎の体なんて触った事はそうないが、......どうやらアクマ関係は人間とほとんど同じらしい。
「ふむ。......こちらも、アクマの毒以外の外傷は見られぬな。イノセンスの気が、綺麗に全身を巡っておる。人型も取れるのであれば、この者も寄生獣として扱うことになろうか」
「そうですか。なら、彼に合う団服も考えないとですね。化学班としての腕がなるなぁ〜!」
「まずは、コムイの作った注射を試してみてからじゃの。婦長よ、また日を開けて邪魔させてもらうぞ」
「えぇ。お疲れ様です、ブックマン」
腕まくりをし、高らかに宣言するコムイを横目に、婦長へと声をかけたブックマンは、反応することなく病室を後にした。
行動を拾われなかったコムイは、固まったまま、残りの婦長からの反応を待つ。
「コムイ室長、化学班の腕を奮いたいのはわかりますが、リーバー班長が探してたので、早く出て行ってください」
――が、希望は見事に砕け散った。
淡々と手早く注射を施していく婦長に、コムイはヤケになると、病室を出て行った。
「お邪魔しましたぁ!」
ひーん、と情けない声が聞こえそうなほど、泣き真似をしたコムイが、自分の仕事部屋へと駆けて行く。すると、その先に、ついさっき病室を後にしたブックマンの背中を見つけた。
コムイは声をかけようとし、――ブックマンが振り返る。
「コムイ」
ブックマンの真剣な声に、コムイの内側がキュッと引き締まる。......妙に静かな教団の空気が、余計耳に痛かった。
「.....あの娘、危ういぞ」
「それは彼女の過去が、」
「そうでは無い。元々の性質なのか、習慣なのかは分からないが、あの娘......随分前から、深い睡眠を取れておらんようじゃ。回復をしようとしている気配がない。つまり、今の彼女は――生きようとする意思が、極端に弱いのだ」
「生きようとする、意思......」
ブックマンの言葉を、コムイは反芻する。
――彼の言葉は、コムイにとって想定外のものだった。ミランダやファインダーから聞いた彼女の性格と、一致しないからだ。
勝気で、土足で踏み荒らす人間は尽く拒絶し、時には攻撃さえする。心に踏み入れられるのを良しとしない上、唯一のパートナーさえ、信じているのか分からない始末。
信じられるのは自分だけ。
自分以外の人間に、興味はないと。
そういうタイプだと思っていたが、はてさて。
(どうしたものか)
射抜くようにコムイを見上げるブックマン。その視線が意図することを、彼は自ずと理解していた。