【第2章〜廃墟にて〜】
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「......やはり戦わなければダメあるか」
クロウリーの言葉に、全員の身が引き締まる。
ガンガンと鳴り響く警鐘は、彼等の脳内で遠慮なく騒ぎ立てた。
......すると、虎が何かに気づいたのだろうか。虎は唐突に周囲を見回すと女の立つ瓦礫へと飛び移り、急かすように、女の腰に鼻を押し付けた。
まるで、早く行くぞ、とでも言うように。
「邪魔が入ったな、まずは奴らの掃除だ。...... 瑠璃、行けるか?」
「いつでも行ける」
僅かに聞こえた声を、クロウリー達が判別する前に、虎は女を背に乗せ、一目散に建物の奥へと跳躍した。
その脚力には目を瞠るものがあったが、それよりも急に方向転換をした彼らの行動の方が気になってしまう。
それにあの声。
確かに人間の話し声だったが、声色としては少年から青年ともいえる声だったはず。
(女以外に、人間はいなかったはずであるが......)
「え、な、なに......?」
戸惑いにミランダが声を零した――――その瞬間だった。
クロウリーの鼻に、甘い香りがふわりと襲い掛かる。
「ファインダー、ミランダを連れて隠れていろ!――アクマだ!」
クロウリーの声にいち早く動いたファインダーが、ミランダを抱えてその場を飛び退いた。
2人のいた場所に振り下ろされた攻撃は、地面を抉り、瓦礫を増やしていく。
――まさに、危機一髪だった。
ドクドクと緊張で強くなる心音が、ミランダとファインダーの体内を駆け巡る。
アクマの姿を捉えた瞬間、先程虎と女が消えた建物の奥で、何かが光った。
クロウリーが視線を向ければ、そこには先程退散したはずの虎と女が、凛として立っていた。
「椿、無理するな」
「コイツらを排除したら、スカウトのお断り対応だな。忙しいってのにさ!」
2人の声が陽の落ちた廃墟町に、静かに響く。少しばかり愉快げに聞こえるのは、先程の女性の声。
彼女の透き通る声が、闇に浸透していく。
今にも宙を舞おうとする虎の後ろに潜むようにして隠れた女は、弓柄を人差し指と中指で二度叩くと、弓を引き、天へと向けた。透明な矢の形をなぞる様に、三本の金色の光が女性の手元から矢の形を象っていく様は、ひどく神秘的なものに思えた。
「イノセンス発動! ――千年公に捕まった魂に休息を。広範囲射撃、“レリーフアロー”!」
高らかに女の声が響き、金色の矢が放たれる。三本の矢は無数に増え、アクマの群れへと大量の弓矢が天から突き刺さるように降り注いだ。
爆発音が次々と聞こえ、黒い液体が飛散していく。そんな中でも、仲間の死をもろともせず突っ込んでくるアクマもおり、大口を開けて飛び込んでくるアクマに、バシュッと一本の矢が刺さった。
蠢いた後、大破するアクマを背に、女は呆気にとられて棒立ちになっていた3人へ怒声を張り上げる。
「おい、紋章の奴ら! 戦えるなら手伝え!」
「言われなくても、歯が疼くわ!」
バサリと広げたマントが、音を立てて宙を切る。クロウリーが身を低くして、戦闘態勢を取った。その反対側では、弓の攻撃を免れた残りのアクマ達を、橙色の獣の腕を持つ男が豪快に切り裂いていく。
クロウリーもそれに負けじとアクマの触覚を捕らえると、噛み付いて血を吸い、自身の体を強化した。アクマの甘い血が舌に触れ、喉を通り、自身の細胞と混じり合っていくのが分かる。
――刹那。
ドクン、と心臓が大きく脈を打ち、突然の強い血の巡りに目眩がした。
耐えきれず折れた膝が、地面に打ち付けられる。ぐわりと揺れる視界を遮るように、クロウリーは自身の左目に手を当てた。
「っ、またか......!」
「クロウリーさん、大丈夫!?」
「っ、あぁ、心配ない。久々のアクマの血に、身体中の血が騒いでいるだけであろう」
駆け寄ってきたミランダに、クロウリーは干からびたアクマの残骸を地面に落とすと、制止するように手のひらを掲げた。
ピタリと止まる彼女を見て、彼は徐に立ち上がる。目眩はもう、しなくなっていた。
「ミランダは離れていてくれ。今はまだ力を使う必要は無い」
「でもっ、......私も、何か役に立ちたいのに......」
「戦闘だけが、エクソシストの仕事ではない。お前の力は、二人の適合者を連れて帰る時の為に使うべきだ」
クロウリーの毅然とした態度に、ミランダは息を飲む。
彼の言うことが最善であることも、彼が体調に関して本当に無理をしていない事も、数年彼を同じホームで見てきていた彼女には、分かっていた。
そして何より──任務と状況を鑑みた彼の判断を疑うほど、彼女は愚かではなかった。
(......そうだ。あの2人の心の傷を知るためにも、私は......私だけは、 力を使い切る訳にはいかない)
自身の力を知っていることが、どれだけ大切なのか。
アレン達と初めて会った時のことを思い出し、ミランダは口を噤む。そんな彼女を見て、クロウリーは頷くと隣にいたファインダーに視線を向けた。
広げたマントが、アクマの攻撃の軌道を変えて、地面を抉る。
「ファインダーは引け。ここからは私達の仕事だ!」
「承知致しました。──ご武運を」
彼の的確に指示にファインダーは頭を垂れると、ミランダと共に颯爽と瓦礫の中へと消え去った。彼らの時に冷徹なまでの判断は、見習いたいものだ。