【第15章〜届け物〜ミランダ視点】
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――ゆっくりと浮上する意識に、私は目を覚ます。いつもと変わらない天井に気づいて、身体を起こす。
清々しい朝......とまではいかないが、昨日より体は軽くなった気がする。
サッサと身支度を整え、部屋を出る。向かう先は――病室だった。
「あら。おはよう。気分はどう?」
「婦長さん。ええ、私は大丈夫です。ありがとうございます。あの......あれからどれくらい経ちましたか......?それと、みんなの容態は......」
「あなた達が帰ってきてから丸一日、ってところね。みんなの容態も安定してるわ」
「良かった......!」
婦長さんの言葉に、ホッと胸を撫で下ろす。
(みんな無事......)
その言葉に、胸の奥につっかえていたものが取れたようだった。
「そうだ。動けるならコレをコムイ室長に渡してもらえる?」
ふと婦長から渡された、綴りになっている書類に、私は首を傾げる。内容を覗き見てみるが、よく分からない言葉がズラリと並べられていた。
「コレは?」
「渡せばわかるわよ。あ、そういえば、コートの中から傷んだ果実が出てきたんだけど、おやつかしら?」
「あ、それは、瑠璃さんのキイチゴ......」
(残りをポケットに入れたまま、忘れていたんだわ......)
汚れてしまっていたから、ゲートを通るなりみんなにコートを預けてしまった。その時点で既に、木の実の存在は忘れてしまっていたのだ。
婦長が袋に入ったキイチゴをポケットから取り出し、「はい」と手渡してくる。それを受け取って中を見れば、やはり日が経ってしまったせいか、少し痛み、黒ずんでしまっていた。
(......これじゃあ、食べられそうにないわね......)
折角椿ちゃんがくれたのに、......すごく勿体ないことしてしまったわ。
「それとね、女の子の方だけれど、」
「ッ! 椿ちゃんがどうかしたんですかっ!?」
「落ち着きなさい」
椿ちゃんの名前に思わず身を乗り出せば、婦長さんにぺしり、と額を小突かれてしまった。ハッとした私は「す、すみません......」と謝ると、身を引く。
(また取り乱してしまったわ......恥ずかしい......)
「まぁ、心配するのも分かるわ。と言っても、まだ起きないけどね。脈も弱いまま。点滴を打ってるけど、装備型のイノセンスに体が......って、ちょっと!?」
婦長さんの言葉に、1度落ち着いたはずの私は、無意識に飛び出していた。婦長さんを追い越し、彼女の声を聞くことも無く病室へと駆け込む。できるだけ静かに心がけながらも、早々にカーテン裾から1番物が置いてありそうな場所を開けた。
シャッと音を立てて、カーテンが開かれる。
そこに寝そべっていたのは、六角形のヒビが僅かに引いたものの、左手首のリングを中心に、イノセンスが体を侵食している、椿の姿があった。
綺麗な顔にまで六角形にヒビは広がっており、未だ浅い呼吸を呼吸器の中で繰り返している彼女。そして薄らと開く唇は、はくはくと何か音を紡いでいた。
追いかけてきた婦長さんに視線を向ければ、コクリと頷かれる。私は動かさないように、耳を近づけた。
「瑠璃...じ、............いき、.........る、............」
「......ずっとこの調子なのよ。大切なのね、相方が」
「......」
体はボロボロ。
眠っていながらも、心配するのは相方の瑠璃さんのことだけ。
......こんなの、
(まるで、呪いだわ............)
そこまでして守らなくてはいけないほど、彼は弱くはないはず。そんなの、誰よりも......椿ちゃんが一番、わかっているというのに。
(可哀想に......)
自分を信じられないが故、誰かに縋ってしまう気持ちが、私には痛いほどわかる。だから、責め立てることはできないけれど......それでも。
2人のためにも、彼女には前を向いてもらわなくては困るのだ。──瑠璃さん思うのであれば、余計に。
「......瑠璃さんとクロウリーさんは?」
「残念ながら、2人もあまり芳しくないわ。あの二人は寄生型。点滴の栄養摂取だけじゃ足りなくて、アクマの毒が抜け切らないのよ」
椿ちゃんのカーテンを閉め、私は婦長さんへと視線を向ける。彼女は肩を落としながらも、彼らの容態を説明してくれた。
(......私、また守れなかったのだわ......)
力を持っていても、やはりできない事の方が多い。こんな時はそんな自分に......、言い得も出来ぬ嫌気が差してしまう。
自己嫌悪に俯いていれば、ふと、室長に肩を叩かれた。
「全て一人で抱え込まなくていいのよ。みんなで支え合って生きてるの。それに、みんな息があるわ。だから......今は信じて待ちましょう。私達も最善を尽くすから」
「...はい、ありがとうございます婦長さん」
「えぇ。あと、あの書類は忘れずにコムイに届けてね。逃げてなければ、自室にいるはずよ」
婦長さんの言葉に、私は潤む瞳をそのままに、頭を下げた。......忙しいはずなのに、私にまで気を使って下さって。やはりここの人達はとてもいい人だと、私は鼻を啜りながら再度実感した。