【第13章〜解放〜】
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ズサ。
「瑠璃......」
唖然とする全員の耳に、か細く、弱弱しい声が聞こえる。
更地の中心にいたのは――――両腕と体の半身が六角形のヒビに覆われた椿と、その姿に絶望に顔色を染めるミランダの姿があった。
ずさ、と一歩歩いた瞬間、ふらりと揺れる椿の体が、ミランダの上へと落ちてくる。しかし、ミランダは受け留める体制ではなかった為、尻餅をつく彼女に全身で倒れ掛かる体制になってしまっていた。
「椿ッ!」
「瑠璃......もう......おまえは、自由だよ。待たせて、わるかった......」
「っ、椿、ちゃ......ッ!なんで、どうして傷が......っ、時間が吸えないの......ッ?」
解放された瑠璃が一目散に駆け寄り、クロウリーが慌ててその後に続いてくる。ミランダが混乱したように己の黒い時計を見上げた。
時間が戻らない。
必死に必死に願ってみても、その結果は変わらなくて、自分の中のイノセンスと繋がった部分が、“これは無理だ”と騒ぎ立てる。それが余計彼女の頭を混乱させた。
――『本当、肝心なところで役に立たないわね』
誰とも知れない声が、ミランダの脳裏に響いた。
(役立たず。......本当に?こんな時に、なんで)
「ミランダ、落ち着け。タイムレコードは、止まってないんだな?」
「あ、当たり前じゃないっ!常に最善の状態を保つリカバリーをかけてるのに、椿ちゃんの時間が吸えないのよ!今の状態で発動を解いたら......!」
「落ち着け、ミランダ」
ペチリとクロウリーに額を叩かれ、彼女の混乱していた頭が停止した。
(あ......)
明瞭になっていく視界に、ミランダは自分の腹部から先に感じる重みに、視線を落とす。気絶してしまったらしい椿が、短く浅い呼吸を繰り返していた。
一見単純であるクロウリーの言動は、ミランダを最速で落ち着かせることに成功したのだ。
クロウリーは椿の様子を観察すると、手を伸ばした。
「...失礼」
彼は椿を壊さないように、慎重に椿の体を抱き上げる。......体温は温かいはずなのに、ひび割れの起きている部分は恐ろしいほど冷たい。
それが、ひどくクロウリーの心中を凍らせた。
「瑠璃、町の出口はどちらかわかるか?」
「ああ。ついて来い。椿は...助かるな?」
「あぁ、治せる者が居るの所へ連れて行く」
クロウリーの声に、瑠璃は硬い声だが冷静に言葉を返す。
――時間がない。
それだけが、三人にわかっている事だった。
「待ってクロウリーさん。ゴーレムに案内してもらいましょ。私が連絡取っ て、案内するわっ!」
「頼む」
冷静になったミランダに、クロウリーが頷く。
そして直ぐに瑠璃を先頭に、一向は歩き出した。ファインダー部隊と早く合流するためにミランダはゴーレムで連絡を取る。町の最後の瓦礫を過ぎるまで、――瑠璃は一度も振り返る事は無かった。
「瑠璃さん、......寂しくないの?」
「問題ない。この町にはもう、何もない。椿を縛るものも、我が守るものも......な」
「そうね......」
ミランダの問いに、瑠璃は淡々と応える。
その会話を聞いていたクロウリーが、町への気を振り切るように声をかけた。
「2人とも。椿の為にも急ぐである」
「ええ!」
「乗れ。その方が早い」
「ありがとう、瑠璃さん。助かるわ」
屈んだ瑠璃の申し出に、ミランダが彼の背へと身を任せる。ミランダを乗せた瑠璃が走り出した。
それに合わせてクロウリーも走る。怪力の彼には、年端もいかない少女を揺らさないように抱える事等、造作もない事だ。
(......とはいえ、血を失いすぎたな...。ミランダのリカバリーが無ければ危うい。......頼む、教団に着くまで持ってくれ)
クロウリーはいつもより早い心臓の鼓動に焦りを感じながら、瑠璃の扇動に振り払われないよう、足を動かす。走って走って走って――――
(見えた!)
「瑠璃止まれ!迎えだ!」
前方から4頭立ての馬車が、ガラガラと音を立ててこちらへと向かってきている。見た事のある紋様に、クロウリーが瑠璃に制止をかけた。
すれ違う寸前、瑠璃が足を止め、馬車を引く馬と対峙する。突然の肉食獣の出現に、馬は幸運にも自主的に足を止めた。