【第2章〜廃墟にて〜】
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「......ココで合っているの?」
「えぇ、間違いありません」
「瓦礫の山しかないである」
ゲートから歩いて30分程度。
3人の前にあったのは、クロウリーが言った通り、破壊された瓦礫の山だった。
周囲には、元は町であったらしき廃墟が広がっており、その所々にアクマの残骸が見られる。......目的は分からないが確かに情報通り、適合者はアクマを撃退しているらしい。
荒涼とした風に煽られた癖の強い自身のショートヘアを軽く手で押さえながら、ミランダは周囲を見渡し、言葉を吐き出す。
「こんなにたくさんのアクマを倒せる人がいるなんて......」
「気をつけてください。奥に建物の形が残ってる場所が見えますか? あそこに、適合者が今も住んでるみたいです」
ファインダーの指差す方向を2人は見上げる。
辛うじて建っているとも見えるその廃墟は、一見教会のような、はたまた館のような形をしていた。
割れたステンドグラスが、歪に日光を反射している。
そんな建物を数メートル先に控え、クロウリーがすん、と鼻を鳴らした。
「人も家畜の匂いも何もしないである。......こんな所にどうして住んでいるのであるか?」
「わかりません。ただ......」
「ただ、なんであるか?」
クロウリーの問いかけに、ファインダーが言いづらそうに視線を落とした。
ぎゅっ、とリュックサックの肩掛けを握り締める音が聞こえる。
「......捨てられない過去が、重荷になりすぎていると。ティエドール元帥がいらした際に、残していったお言葉です」
「捨てられない、過去...」
低く、まるで控えるようにひっそりとした声で伝えられた情報に、ミランダもクロウリーも、胸の奥底が締め付けられたような気がした。
(......エリアーデ)
“捨てられない過去”という単語に思い出すのは、――自身がエクソシス トになる前のこと。
最愛の人を失うに値した、その出来事。
......もし。
もし、適合者にも何か、孤高の存在で居続ける事に理由があるのであれば。
自分たちは何か、役に立つことは出来ないのだろうか。
そんな想いが、2人の間を過っていく。それと同時に、自分に救えるのかという不安がより一層強くなった。
先に気が付いたのは、クロウリーだった。
「ミランダ、大丈夫であるか?顔色が優れないであるぞ」
「!!、だ、大丈夫よ。それよりクロウリーさんの方こそ、お体は大丈夫な の?その......この前のコムイさんの薬......」
「心配無用であるぞ。私ならこの通り、ピンピンしているのである!」
廃墟の中を歩きながら、笑顔でガッツポーズをとってみせるクロウリーに、ミランダはくすりと笑う。
その様子に、クロウリーはホッと息を吐いた。
僅かに怠い指先をピクリと動かし、その動きづらさに奥歯を噛み締める。
(誤魔化せた、であるか......?)
クロウリーは思っていた以上に鋭い彼女の洞察力に、本当は内心ぎくりと音を立ててしまっていた。
彼の体は、コムイの起こしたあの一件以来、時折体が重くなっていたのだ。暫くアクマの血を飲んでないからだろうか、と思う反面、初めて感じる倦怠感に、疑心は消えそうにない。
(......後遺症ではないといいのであるが)
時間をおけばきっと治るだろう、と自分に言い聞かせ、「もう少し近づいてみよう」と館の方へと出す足に、意識を向けた。
すると、先導していたファインダーが振り返った。
「着きましたよ、お二人とも。この屋敷跡に適合者が」
「止まれ!」
ファインダーの声に、矢のような鋭い声音が突き抜けた。その声の主は見えず、クロウリーは咄嗟に身を屈めるようにして戦闘態勢を取った。
身を硬くする一行に降り注いだのは――――高くも低くも聞こえる、不思議な女の声だった。
バシュッ、と音を立てて放たれた矢が、クロウリーとミランダの足の間に鋭く突き刺さる。
ミランダが咄嗟に手を組み、きゅっと唇を引き結ぶ。
見上げたそこに居たのは、紺色の髪を後ろでまとめ、弓を持って鋭い目付きをした女の姿だった。その瞳は、深海のように深い藍色を持ち、底知れない闇が拒絶の色を灯して、こちらを睨みつけていた。
「その胸の紋章。お前らまた懲りずにやってきたのか」
「あ、あなたが適合者なのですね。わ、私達は話を、」
「帰れ!アクマ退治ならしてやってるだろ!これ以上関わってくるな!」
「っ、退がれ!」
ミランダの声も届かず、無情にも二本目の矢が放たれる。それと同時に、女の殺気を感じたクロウリーがマントを広げた。軌道が大幅にズレ、地面に突き刺さる。
マントで勢いを殺したというのに、硬い地面に突き刺さるほどの威力が残っている矢に、クロウリーは心底驚愕した。
――しかし、それも束の間。
クロウリーの背後に迫る影に、驚いたファインダーが声を上げた。
「新手が......っ!」
その声を合図に、瓦礫の影から飛び出してきた影は、ミランダを目掛けて飛び掛かった。凶悪な牙がきらりと沈む陽に反射したのを見て、ミランダは「ヒッ」と息を飲んだ。
「危ない!」
「きゃっ!」
咄嗟に動いたのは、ファインダーだった。ミランダの体を押し倒し、身を縮めることで攻撃を避けたのだ。
空を切るほどの勢いの影は、物陰に隠れると、再びこちらをじっと見つめてくる。
まるで機を窺う野生動物のようで、2人の背中に寒気が走った。
(なん、なんだ......アレは)
宝石のように碧く光る瞳。
獰猛とも言わんばかりの気性の荒さに、ファインダーは動揺が隠せなかった。
......まるで、目の前の猛獣の餌にでもなった気分だ。もし対峙したとして。......到底、敵う気がしないと、本能が冷静に判断する。騒ぎ立てる訳でもなく、気持ち悪いくらいに、――冷静に。
「......大丈夫ですか、エクソシスト様」
「え、えぇ。ありがとう」
出来るだけ、動揺を悟られないようにして掛けた言葉は、無事、彼女の糧になったようだ。ぎこちなく微笑む彼女を見て、ファインダーは自身の仕事を全うしたことに安堵した。
ゆっくりと起き上がるミランダを支えつつ、ファインダーは猛獣に視線を向ける。
僅かに見えた爪先は、恐ろしいほど、鋭く尖っていた。
「警告はしたぞ。次は外さない」
静かに落とされた氷のような女の言葉に、場の緊張が高まる。
その声を合図にして、ゆっくりと出て来たのは――――想像していたよりも一際大柄な、虎の姿だった。
神秘的なまでの碧い瞳に、大の大人を丸飲みできそうなくらい、大きな体躯。
グルルル、と唸り声を上げ、毛を逆立てながら一歩、また一歩とこちらを窺うように動く虎に、ミランダは悲鳴を上げ、ファインダーとクロウリーは息を飲んだ。
円を描くようにしながら、徐々に近づいてくる虎は、弓使いの女と対角線上にまで来ると、姿勢を低くする。