【第11章〜約束を果たす為に〜】
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「......ミランダ」
「ふぁっ?!」
思考に浸っているミランダの耳に、突然声が飛んでくる。
一瞬誰の声かが判別できず、慌てて辺りを見回せば、こちらをじっと見ている影に気が付いた。
「っ、椿ちゃん、起きてたの......?」
「寝たふりだ」
「そ、そうだったの...」
とても吃驚したわ、と笑うミランダに、椿はフイ、と視線を上へと向ける。
彼女の後ろから広がる時計の空間に、イノセンスが発動しているとわかった椿は、時計に触れてみようと近くの物に手を伸ばした。しかし、抵抗もなくすり抜けるそれに、首を傾げる。
「......コレは、時計のある範囲を出ても、効果が続くのか?」
「ええ。あまり離れすぎると戻ってしまうのだけど、一定の距離なら問題ないわ」
「そうか」
へぇ、と声を出しながらも、納得したらしい彼女はゆっくりと起き上がると、ポケットから何かを取り出した。――白い石だ。
それを少し離れた床に滑らせると、何かを書くように動かし始める。カツ、カツ、と石が床を擦る音だけが響く。
「......なにを書いているの?」
「気にするな、昔から伝わる伝承が活かせないか、試してみるだけだ」
「?」
椿の言葉に、なんのことか分からず首を傾げるミランダ。しかし、説明する気がないであろう椿に、ミランダは問いかけて良いものか悩んでいれば、黙々と書き続けていた椿は、石を静かに置いた。
手を払い、瑠璃を見つめ、......ミランダを見る。何となく嫌な予感が、ミランダの背に走った。
「ミランダ、瑠璃はまだ寝ているよな?」
「え、えぇ。安定した呼吸だわ」
椿に問われ、いつの間にか距離が開いていた彼女の代わりに、慌ててを瑠璃見る。緩やかな呼吸に、ほっとした。
「お前は寝なくて平気なのか?」
「ええ。10日くらいなら寝なくても平気なの」
「......大丈夫なのか?それ」
椿の戸惑ったような声に、ミランダは自信満々に頷く。
自信を持つようなことでは決してないのだが、彼女の不眠はイノセンスの性質上、プラスに働くことだ。その為、彼女自身もこれでいいと思っている。
それを何となく悟った椿は、まあいいかと納得し、一つ大きく深呼吸をした。
「......一つ、約束してくれないか?」
「約束?」
「瑠璃のこと、頼んだ」
どこか、決意を含んだ椿の声に、ミランダは間髪入れずに頷く。
「もちろんよ。瑠璃さんだけじゃなく、椿ちゃんも、」
「今から見る事聞く事は、誰にも話すな」
「えっ?」
「古いまじないの言葉だ。覚えないほうがいい」
怖いくらいに淡々と話す椿の、冷めた視線に、ミランダは身を竦めた。
何か恐ろしい事が起きるとでもいうのか。それとも、何か危険な事をしようとしているのか。
ミランダには全くわからなかったが、椿は気にすることなく、書き終えた床の模様に手をついて、......静かに言葉を紡いだ。
「――古の約定を今宵、果たそう。我らが守護神の力の継承は終わり、この地は静かな安穏に包まれる。全てが終わる最後の夜、この地に眠る西神・白虎の御身が月明かりに舞う。――招来、銀霊虎!」
椿が詠唱を終えるとともに、床の模様が発光し始める。その眩さに、ミランダは一瞬目を閉じてしまった。
暫くの間、煌々と輝いていた光は、音を立てることなくゆっくりと収束していく。もう大丈夫だと目を開けば、――――椿の側には、大きな白い虎が佇んでいた。
「......白、虎......?」
ゆらりと揺れる輪郭が、まるで薄いレースのようにたなびいて、とても幻想的だ。
彼の体を包む青白い光は、“神々しい”と称しても間違いはない。体の大きさは、ゆうに三メートルは超えており、もしかしたら瑠璃より、縦にも横にも大きいかもしれない。
――魅入ってしまう。
そう感じた瞬間、視線を遮るように椿が前に出て来た。その瞬間、ハッと引き戻される意識。
(いま、私は何を......)
「ミランダ。さっきの約束、忘れるなよ?」
「椿、ちゃん......?」
「夜の見回りだ」
――行ってくる。
そう告げ、白い虎を従えたまま、外への階段へ向かう椿に、ミランダは慌てて声をかけた。
「ま、待って、椿ちゃん!ここから出たら危ないわっ」
「町を一周してくるだけだ、朝までには戻る」
「待ってっ、椿ちゃん......っ!」
ミランダの静止も効かず、椿は今度こそ外へと出て行ってしまった。
しん、と静まる室内に、ミランダはコクリと息を飲む。......突然の出来事に、思った以上に彼女の頭の中はパニックになっていた。
(み、ミランダ、落ち着くのよ。今動けるのは私しかいない。でも、今リバースを解除したら、瑠璃さんとクロウリーの傷が戻ってしまう。それに、椿ちゃんも瑠璃さんも互いをとても大事にしてるわ。椿ちゃんに瑠璃さんを頼まれてもいるし......一度探しに行って、リカバリーをかけ直しても、これ以上傷を負ったら発動を解いた時に、みんなが......)
結局、パニックになった思考は全く纏まる事は無かった。
ミランダが一人、手を握り考えてる間にも、時間は刻々と進んでいく。
――彼女のイノセンスが守る世界を置いて。