【第11章〜約束を果たす為に〜】
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「椿ちゃん、良かった......!お帰りなさい」
「お帰りである」
「瑠璃の容態は?」
「眠ってるわ。呼吸も落ち着いたみたい。けど......なるべく早く、お医者様に診てもらったほうがいいと思うわ」
寝床にしている場所へと向かえば、クロウリーとミランダが瑠璃を挟んで、向かい合って座っていた。瑠璃の容態を聞いた椿が、奥から持ってきた鉢と薬草を足元に並べる。
「教団の迎えが来るのは明日の朝だったな」
「えぇ。どうしても瑠璃さんを運ぶ為の支度に、時間がかかってしまうの」
「そうか」
ミランダの声に素直に頷く椿。先程の怒りは既にないのか、彼女はいつもと変わらない様子だった。ミランダは複雑な心境を抱えながらも、蒸し返すほどの勇気は持ってはいなかった。もしかしたら、気にしているのは自分だけかもしれないと思うと、余計に掛ける言葉は見つからなかった。
「2人とも疲れただろう。今日はもう休んだ方がいい。いつアクマが襲ってくるか分からないからな」
まともそうな布を探してくると言い、奥へと引っ込んでしまった椿は、直ぐに大きな布を抱えて戻って来た。あまり使われていないのか、少しぼろく、年季が入っているものの、大きさは問題なさそうだ。
長身のクロウリーは布を二枚重ねることで、事足りるだろう。
「ボロいので悪いな」
「いいや。寧ろありがたいのである。......椿も、ほどほどにして休むであるぞ。昼間からずっと戦い続けている」
「そう、だな。少し寝るか。何かあったら起こしてくれ」
クロウリーの控えめな言葉に、椿は少し考えると素直に頷いた。
自身の分の布を持ち、瑠璃の傍へと向かうと、その近くで横になる。......彼から離れるのが嫌なのか、それとも彼の異変を第一に感じ取りたいのか。
やはり2人は仲がいい、と再認識したクロウリーは満足げに頷くと、マントを身体に巻きつけ、横になった。ミランダもそんな2人を見て、毛布にくるまる。
目を閉じて――――どれくらいが経ったことだろう。
寝息が聞こえてきて来たのを感じ、どちらともなく目を覚ます2人。お互いが視線を合わせると、クロウリーはミランダへ最小限の音量で話しかけた。
内容はもちろん――瑠璃に見せられた、夢の話。
静かに聞き終わったミランダは、いつの間にか閉じていた目を徐に開き、濡れた瞳を寄り添う2人へ向ける。
「......二人とも互いの事が、本当に大事なのね。......ねえ、クロウリーさん。私ね、考えたの。明日の迎えが来るまで、タイムレコードを発動するわ」
「しかし、それではミランダが眠れないである」
「大丈夫よ。寝ないのは慣れてるから。その代わり、クロウリーさんにはちゃんと休んで欲しいの。......首元から見えてるわよ?アクマの、ペンタクル」
「ぬ......。椿には、言わないでほしいである」
「もちろんよ」
言えないわ、とミランダは内心で続ける。
お互いを想い、他人を想うあまり、自分を傷つけてしまう2人に、そんな事を言えるわけがない。けれど、それは椿と瑠璃に限る話ではなかった。
今回派遣され、2人を助けようと手を伸ばしているエクソシスト2名も――自己犠牲の塊のような人間なのだ。
「ミランダ。気にしないで欲しいである。......今日は久々にアクマの血を吸って、体がまだ馴染んでないだけであるから」
「ええ。わかってるわ」
大丈夫、と頷くミランダに、クロウリーは余計な心配をかけてしまった事を内心で悔やんだ。しかし、仲間である以上、信じなくては相手に失礼だ。せめて目に見えないようにと寝返りを打って、クロウリーは自身の体に更にきつく布を巻きつける。
その背中を、ミランダは苦笑いしながら見つめていた。
「......おやすみなさい、クロウリーさん」
「タイムレコードは、瑠璃のみに使うであるぞ」
「ええ。お言葉に甘えるわ。けど......無理はしないでね」
ミランダの労わるような言葉に、クロウリーが言葉を返すことは無かった。しかし、その背中は信頼で溢れており、ミランダは返事がないのを大して気にすることはしない。
意識を集中させ、ミランダは自分だけにしか聞こえない程小さな声で、詠唱を口にした。
「――タイムレコード、発動。対象を包囲確定。......これより私の発動停止まで秩序をロストします。“リバース”」
ミランダのイノセンスが発動し、無数の時計が現れ、皆を包む。逆に回転する時計の針は、いつ見ても幻想的だ。時間が戻ると同時に、眠る3人から戦いの間の時間が、平等に吸い出されていく。
自身の体の中とは別のところで、溜まっていく時間の塊。その時間を覗くことは出来ないけれど、静かに集まる時に願いをかける事は出来る。
......正直、効果の有無はよくわからないけれど、その方がいいとミランダはいつも考えている。
(お願い、私のイノセンス。みんなを少し、楽にしてあげて......)
「...なにを、した?」
「!、瑠璃さん。目が覚めたのね......?」
此処に帰ってきてから初めて聞く声に、ミランダは安心したように微笑んだ。
瑠璃は彼女の周りに浮かぶ数々の時計を目にすると、それがすぐに彼女のイノセンスの力だと理解した。先ほど、僅かだが話を聞いていたことも、察しの良さに関わっているのだろう。
瑠璃は動かないまま、誰かを探すようにゆるりと周囲を見回した。
「......椿は?」
「あなたの隣で寝ているわ。私はみんなの傷の時間を少しだけ吸い出したの。今、みんなの体は昼間のアクマと戦う前まで戻っているわ。私が発動を止めたら時間が戻ってしまうのだけど......」
「そうか。どうりで体軽いと......。だが、折角だ。もう少し寝る」
「えぇ、おやすみなさい」
瑠璃の満足げな声に、ミランダはふんわりと微笑む。
(本当に、お互い大好きなのね......)
ミランダは再び寄り添う2人に、目を細めた。蘇るのは、ついさっきクロウリーから聞いたばかりの、瑠璃の記憶。......決して美しいと言える内容ではなかったけれど、それでも彼らの絆が確かである事は再認識出来た。
(心の、傷......)
果たしてそれが、私達で癒すことが出来るのか。ミランダは椿に怒られた後から、不安と希望を心の中でせめぎ合わせていた。