死んだ町に居座る適合者【改訂版】
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ゆっくりと浮上する意識に、ハッキリとしてくる視界で、周囲を見回した。
「......いまのは、なんであるか......?」
頭がぼんやりとする。いつの間にか寝てしまっていたのだろうか。分からないが、記憶の最後からそう時間は経っていないことに気がついた。
ペタペタと体を触り、自分が誰であるか確認する。腕、足、体......。全てが見慣れたものである事に、ほっと息を吐く。
「私は......夢を見ていたであるか......?」
随分とリアリティで鮮明な夢だった。
“椿”と名乗る少女と、“瑠璃”と名付けられた、虎の話。しかも視点が虎側であったことは、かなり驚いた。しかし、それよりも驚いたのは...... 恐らく実話であろう、話の方だった。
(あんなにも暗い過去を、彼らは経験していたのだな......)
どこが重たい身体を叱咤し、ゆっくりと起き上がれば──ぽたりと落ちる、一滴。
目元を触れば、そこはしっとりと濡れそぼっていた。それどころか次々と溢れ出る涙が止まらない。両手で必死に拭うが、意味なんてありそうになかった。
──嗚呼。
なんと辛くて、悲しい話なのだろう。
守りたい、笑ってほしい。......そう願うのに、現実は許してはくれない。自分の無力さばかりが突き刺さり、胸が痛む。思えば思うほど、幸せから遠ざかっていこうとする彼女自身に、この願いは受け取ってさえ貰えないのだ。
──『神様』だの、『守護神』だの、馬鹿馬鹿しい。
何も守れない神など、役に立たない木偶の坊だ。名ばかりの偶像だ。そんな物にはなりたくないと思っていても、どうすることも出来ない。
......歯痒い。虚しい。何かを守るというのは、こんなに痛く苦しい事なのかと、吠えたくなってしまう。
「くろ、りー」
「っ、! 瑠璃、大丈夫であるか!?生きているであるか!」
弱い息を繰り返す瑠璃は、薄く目を開いて私を見上げる。
涙は止まりそうにはないが、それよりも彼の安否の方が自分には重要な事だった。
「椿は?」
「まだ、戻ってないである。でもミランダがいるから、大丈夫である!」
「そう、か。......ちゃんと、みたか......?」
瑠璃の確認するような言葉に、私は目を見開いた。それと同時に、さっきの夢は、瑠璃が見せてくれたものであると、理解する。
(出会ってからそう経っていない自分に、過去の記憶を見せてくれたのか......)
それがどれだけ勇気のいる行動であり、彼の決意を表した行為なのか。
想像するには、難くない。
「君達の思いは、痛いくらいわかった。私達が一緒に戦うと誓うであるっ!困難な道でも構わない。君達2人の為なら、力を惜しまないである!」
「はは......たのも、しいな......」
「だから......っ!」
だから。
「もう、椿も瑠璃も、1人で頑張るのは辞めるである......」
ボロボロと落ちていく涙に、声が情けなく震えてしまう。
──記憶の中の2人は、確かに2人で居たはずなのに、............どこま でも、1人だった。
互いに思う気持ちも一方通行で、すれ違い、傷つき、それでも2人でいたいと手を伸ばす。何と滑稽で、哀れで......儚いのだろう。
通じ合わない想いほど、悲しいものはない。通じ合わない想いほど、苦しいことは無い。
胸を締め付ける痛みに、必死に訴える。
君達はお互いに、想い思われているのだと。大切に思うその気持ちに、差異はないのだと。
「......すこし、ねる」
訴えは届いたのか、届かなかったのか。それは分からないが、短い言葉と共に、瑠璃は瞳を閉じて深く息を吐いた。
静かに落ちていく意識が、何となくわかる。
小さくなる息が止まりはしないかと、私はハラハラしながら、彼が起きるのを待つ事しかできなかった。