【第7章〜瑠璃の想い〜瑠璃語りシーン】
夢小説設定
本棚全体の夢小説設定夢小説の主人公は、その話に応じて容姿や性格などを設定しています。
全ての小説で、夢用のお名前を使用する場合は、こちらを使用してください。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
そんな日々が続いていた、ある日。
椿が“召使い”と言われる人達に、呼び出された。どうやら“父”と呼ばれる、男側の親かららしい。
椿がいなくなったことで暇になった我は、屋敷内を散歩することにした。相変わらずつまらない家だが、広さは問題ない。中庭で昼寝でもしようかと足を進めていれば、ふと、人間の話し声が聞こえてきた。
耳をすませば、聞いたことのある声────椿だ。
「新しい守神とはうまくいってるかね。椿」
「はい、父さん。問題ありません」
「お前は自慢の娘だ。家宝にも認められて、新たな守神もちゃんと躾けられているようだ」
「何が自慢の娘ですかっ!祭壇の家宝を盗もうとした、罰当たりな子ですよ!?疫病神もいいとこ......こんな子、産むんじゃなかったわっ!」
ヒステリックに叫ぶ女の声に、耳が痛くなる。
“罰当たり”、“疫病神”......そして、産んだことを後悔するような言葉。到底、母親が言うような言葉ではないのだろうが、何か問題でも起きたのか、母親は後悔しているらしい。
(くだらんな)
母親なら、その“罰”とやらから子を守ればいい話だろう。
「こら、落ち着かないか。この子は疫病神なんかじゃないさ。町の者も次期当主として信頼している」
「何が次期当主よ!神様の物に手を出して、私達家族が無事でいられるはずがないわっ!全部全部あなたのせいよ!もう出て行って!!私の前にもう姿を見せないでちょうだいっ!」
「......母さん」
「あんたみたいな子に呼ばれたくないわっ!あぁ、もう本当っ!お前なんか産まなければ良かったのよ!」
バンッと壁が音を立てる。
女が何かを投げたのだろうか。血の匂いがしないから怪我はしていないだろうが、ここまで来ると心配になってくる。
......とはいえ、あの部屋には入らないようにと椿から言われている。約束を破ることは、我にはできない。それでも心配だからと部屋の前まで足を進め、身を潜めた。
何かがあった時、直ぐに駆けつけられるように。
「すまないな椿。母さん今日は調子悪いみたいなんだ。部屋で休みなさい」
「はい、父さん。......失礼します」
静かな声と共に、椿が部屋から出てくる。俯きがちな彼女の顔は、涙ひとつ、流れてはいなかった。しかし、パタリと扉が閉まりきっても、小さな背中は立ち尽くしている。
その背中から漂う哀愁を払拭してやろうと、背中に鼻先を押し付ければ、驚いた椿が振り返った。
まあるい瞳が、我を捉え、嬉しそうに崩れる。
「瑠璃。聞いてたの?」
「少しだけ」
「そっか......ごめんね、親がうるさくして。耳痛かったよね?」
小さな手が、鼻先に伸ばされる。
......僅かに震えているのは、気のせいじゃないだろう。
(本当に、意地っ張りなガキだな)
行こうか、と歩き出す椿の隣で、彼女を盗み見た。いつもよりも濁った笑顔に、怒りを通り越して呆れすら込み上げてくる。
(......我はそんなに、頼りないか)
涙を見せることが出来ないほど、信用されていないのか。こんなに傍にいるのに、まるで外野扱いだな。
「......母さんに認めてもらえるよう、頑張らなきゃ。もっと......もっと」
震える声が、鼓膜を撫でる。隣の床が、ぽつぽつと小さなシミを作っていく。
── 椿が、泣いてる。
その事に、ついさっき自身の中に浮かんだ感情が“違うもの”だったと理解した。
(......この子は泣かないんじゃない)
泣けないのだ。
「わっ。瑠璃、なにするの?」
気がつけば我は、獣人型で椿を抱きしめていた。
涙が胸元を濡らすが、そんなものはどうでもいい。
「我の前では、泣くのを隠さなくていい」
「な、泣いてなんかっ」
「子供は泣くものだ」
拳を握りしめたまま、涙をこらえる椿の髪を傷つけないよう、そっと撫でる。
彼女がいつもしてくれる感覚を思い出しながら、ゆっくりと撫でていれば、椿は小さく唸り出した。背中に回された手が、縋るように毛を掴む。
声を噛み殺しながらも、息も出来なくなりそうなほど泣く椿を、我は周りから隠すように抱きしめた。
ひとしきり泣いた椿は、涙を拭うと、不格好な笑みでふにゃりと笑う。
「瑠璃。言葉うまくなったね。えらいえらい」
我の顔に手を伸ばして頬を包み込む手に、何故だかこっちまで悲しくなってきた。
静かに目を伏せ、────世界は、暗転する。