【第7章〜瑠璃の想い〜瑠璃語りシーン】
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子供の体を寝床へと寝かせ、傍に体を横たえる。
人間は、誰一人中に入れることはしなかった。あんな人間共を、我らのスペースに入れる訳にはいかない。水の匂いを嗅ぎ、手近な容器に水を組む。人間の生活では、こうして水を運んでいたはずだ。
数日に渡り、人間達の生活を観察してきたのが、何だかんだと役に立っている。
扉は押すか引くかをすれば開くし、水を汲む時は紐を引っ張れば簡単に出来る。病人には額に濡らした布を乗せ、衣服は日の下にあるものを使えばいい。
......人という生物が頭がいい、というのは本当のようだ。
密閉された巣穴の中で、我は横たわって眠る子供をじっと見つめる。......もう2度、日が昇り、月が沈んだ。
熱は引いたらしいが、未だ目を覚まさない子供の頬に、手を伸ばして────触れる寸前で手を下ろした。
......ここ数日で、我は自身の体がどうなっているのかを知ることが出来た。
人間とも虎の物とも言えぬ、前足。肩は細くなり、爪は剥き出しのまま、引っ込めることは出来ない。そのくせ、爪が一本一本、自由に動かせるのだから、奇妙なものだ。
足も変わってしまった。
細くなり、関節の使い方が以前とはまるで違う。幸い、尻尾はあるようで、バランスをとるのには苦労しなかった。だが、歩くのにはかなり苦労した。
体も細くなり、背中が以前よりも曲がらなくなってしまった。その代わり、後ろ足で立った時のバランスは、以前よりも良くなっている。とはいえ、使いにくいのは変わらない。
耳も、鼻も、今まで分かったものが分からなくなり、違う音が聞こえ、違う匂いが鼻腔をくすぐる。
目は以前よりも良くなったようだが、遠くは見えるのに横の幅は少し狭くなった。これでは敵の姿を確認するのに、時間がかかってしまう。
そして何より。
窓に移る、自身の顔に────我は背筋が凍るような感覚を覚えた。
なんと、誰がどう見ても虎だった顔が、人間共と同じものになっていたのだ。気味が悪い事、この上ない。
(こんな姿......、ただのバケモノだ)
子供へと伸ばした手を、ゆっくりと下ろす。奇妙な腕で子供に触れてしまうことが、何となく憚憚られた。
人間への憎悪は溜まる一方だが、毎日毎日変わらず新鮮な肉をくれる。
我の姿を見た時は歓喜に震え、この姿を見た者はこの姿が『獣人型』と言われるものだと興奮気味に教えられた。
(バケモノにした人間は、絶対に許さない。......けど、この子供は...)
この子供だけは、自分を守ってくれた。
自分を案じてくれた。
(......守らなくては)
我が、ちゃんと──。
「瑠璃............」
「!、おきたか」
ぼんやりと寝ぼけ眼で周囲を見回す子供のベッドに、駆け寄ってその顔を覗き込んだ。
子供の驚いた様子に、自分が人間の顔をしていたことを思い出した。慌てて身を引こうとすれば、伸ばされる小さな手。
ふわりと頭を撫でられ、前に流したままだった毛を後ろへと撫で上げられる。見えづらかった視界が一気に晴れたような気がした。
「瑠璃、ごめんね。人の勝手で......瑠璃にはこれから、たくさん辛い思いをさせちゃう」
「......」
「私、頑張るから。瑠璃がこれ以上苦しまないように、頑張るから。だから......もう少しだけ、ココにいてくれる?」
今にも泣きそうな顔をして懇願してくる子供。
まるで頭を撫でる手が、縋るようだった。
「わがまま言ってごめん。でも、必ず自由にするから......」
「......おまえ、われ、こわくない?」
「こわくない。怖くなんてないよ......っ」
ボロボロと泣き始めてしまう子供に、我は考える。
(──この子供は、きっと寂しいのだろう)
数日寄り添ってわかったが、この子供を心配して訪れた人間は、一切存在していなかった。皆、この集落の主からの命で来ているか、我の姿を見るがための好奇心で訪れているだけだ。
純粋な気持ちなど、この子供以外、感じることは出来なかった。
小さく頷いたのは、無意識だった。
涙に濡れた瞳を嬉しそうに細め、ふふ、と笑う子供に、こちらも頬が緩んでしまう。
「ずっと側にいてくれてありがとね。──私、椿っていうの。覚えてくれたら、嬉しいな」
「椿?」
「そうだよ。覚えてくれて嬉しい。これからよろしくね、瑠璃」
にっこりと笑みを浮かべる子供──椿に、我は真似をするように口を横に動かした。