【第7章〜瑠璃の想い〜瑠璃語りシーン】
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空腹も忘れ、子供についていく。
小さい体のくせに怯えない子供が、気になった。
我を助けるように矢を受けた子供が、気になった。
のしのしとついて行く我に一瞬驚く人間どもがいたが、不思議なほど悲鳴を上げられることはないまま、我は彼らの巣の中へと入ってこれた。
(無防備にも程がある)
だからあっさりと死ぬんだぞ、人間よ。
大きな巣の中は、小さな穴で分けられていた。
その一つに入れば、子供を取り囲むようにし、大きな人間達が何度も行き交う。その様子を観察していれば、ことりと下に何かが差し出された。
新鮮な肉だ。
この匂いは猪か、鹿か。どちらにせよ、美味いものには変わりない。
毒が仕込まれていないか、匂いをしっかり嗅ぐと、我は欲のまま噛み付いた。うむ、やはり新鮮な肉は美味い。
「お納めください、瑠璃様」
「次期当主がお決めになられました」
「どうか、この町に白虎様のご慈悲のあらんことを」
(何をしているんだ、こいつら?)
体を地面に擦り付ける人間達に、首を傾げる。......体が痒いからといって、強者の前で地面に体を擦り付けるなんて、こいつらはそんなに死にたいのか?
──やはり人間は意味がわからない。
ペロリと肉を平らげ、ここに来るまでに乱れた毛を手入れしていれば、ふと小さな気配が動きだした。視線を向ければ、子供の目が僅かに開いている。
それに気づいたのは、傍に居た雌の人間だった。
「~様、気がつかれましたか?」
「......瑠璃、は?」
ぽつりと聞こえた小さな子供の声に、耳がピクリと反応する。
のっそりと起き上がり、子供の方へと足を進めた。
「瑠璃は、どこ?」
心地の良い音色を奏でる子供を、覗き込むように顔を寄せる。
すると、湖の底のように深い色をした大きな目と、視線が合った。パチリ、と瞬きをする瞳は、今にも零れ落ちそうで、子供は赤子のようにふにゃりと柔らかく微笑む。
「ついてきてくれたんだ、瑠璃。......嬉しいな」
子供は怯えることなく、頭を撫でてくる。
......小さな手が少しだけ心地いいと感じたのは、気のせいだろう。
「瑠璃さえ良ければ、ここにいて?ココを、瑠璃の居場所にして?」
強請るように言葉を口にする子供に、我は少し悩んだ末、コクリと頷いた。
その瞬間、笑顔を見せる子供。......肉食獣を前に、そう無防備に笑うもんじゃないだろうに。
――他の人間どもと違って、この子供の言葉は、わかりやすかった。
言葉だけではない。
表情も、行動も。子供のすることに、嘘偽りは一切なく、気持ちがいいくらい真っ直ぐだった。
......それを、横にいる大きな人間どもがどう思うかは、知ったことではないが。
「~様、目が覚めたのなら、包帯を変えましょう」
「~様医者が参ります。それまでに何か食べれそうですか?」
「あぁ、新しき守神をご自身の身を挺して守るなんて......~様はなんと慈悲深いお方......」
「弓道教師は首だろうな。注意不足だ」
「ああ。監督責任も問われるだろうから、今後の未来は知れたもんだがなぁ」
ガヤガヤとうるさく騒ぎ立てる人間共に、眉を顰める。オスもメスも関係ない数々の声は、聞いていて気味が悪い。
不快さを身体の外へ出そうと身を振れば、頭を撫でていた小さな手が距離を取ってしまう。
それだけが残念だ。
「うるさくてごめんね。......ご飯はちゃんともらえた?」
子供の言葉に、口の周りを舐めると、こくりと頷く。
不快な音を発している人間達に返事すら返さず、「そっか」と笑う子供に、少しばかりの眩しさを感じた。人間の顔が眩しいなんて、なんと珍妙な現象なのか。
──嗚呼、でも。
数々の動物達が人間に魅了される気持ちが、少しだけ理解出来たような気がする。
(だが......この子供は、危うい)
根拠はないが、この我が1人にしてはいけないと思ってしまうほど、子供は生への執着を持っていなかった。
それが弱肉強食のこの世界で、どれだけ危ういのかを、我は知っている。
頬を舐めてやれば、くすぐったさに笑い、身を捩った。
......この笑顔が、ずっとあればいい。
くふくふと、赤子のように柔らかく、愛らしい笑顔があれば、それでいい。