【第7章〜瑠璃の想い〜瑠璃語りシーン】
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──我はずっと、孤独だった。
暗く深い森の中。獲物を探して彷徨うだけの生活。
守るべきものは己の命のみ。
......そんな日々に、ただただ消費する毎日に、我は獣ながら嫌気が差し始めていた。
──そんな時だった。
いつもの散歩をするべく森の中を歩いていれば、ふと開けた場所に出た。
......人の町だ。
初めて見たが、他の動物達から話に聞いていた物が並んでいる様子は、間違いなく彼らの巣であろう。
理解不能な物も沢山あるが......なるほど。確かに人間は頭のいい生き物らしい。
ただ生きるために獲物を狩るだけの生活に飽きていた我は、何を思ったのか、人間の町を観察することにした。
腰を落ち着け、周囲に警戒を巡らせたまま、“人”という生き物を観察していく。
人同士で大口をあけて話したり、親が子に愛おしげな表情を向けたり。
子の集団では、泣いている者を取り囲んでいる者もいる。
──何と騒がしい奴らなのか。
くだらない。......が、何故か目を離すことが出来ない。
そんな時間を、我は飽きることなく朝から夕まで、何回も繰り返していた。
この暇つぶしを始め、どれだけ経っただろうか。
突然大きな建物の方で、何かが風を切る音がした。ビュッと勢いのいいこの音は......木の枝、だろうか。いや、それにしては不自然なほど、真っ直ぐに飛んでいる。
初めて聞く音に、我は興味本位で足を向けた。
最初に居た位置から、日が落ちる方向へと少し歩けば、そこには人間の子が皆同じ姿で集まっていた。
(なんだ?何をしている?)
この小さな子供達が、あの音を立てたというのか?そんな馬鹿な。
腑抜けになった人間達など、自分達の食料でしかないというのに。
「危ない!」
唐突に聞こえる、子供らしい高い声。それに反応する直前、もっと下にいたはずの小さな子供が、目の前に飛び出してきた。
ドシュッ、と音を立て、子供の体が衝動で揺れ動く。
赤い液体と、ぶわりと広がる生臭い血の匂いに、我はすぐさま警戒心を跳ね上げた。
(大きいのが 1、2......木を使ったのは、子供か)
だが、同族狩りにしては、おかしい。
追撃が来るわけでもないし、仕留める為の毒が塗られている様子もない。
──何より、殺気が感じられなかった上、この子供は自ら飛び出してきたのだ。
理解ができない。
「~様、なんてことを!早く、早く医者を!」
大きな人間達が、少し離れた位置で騒ぎ立てている。
なんだ。何が起きているんだ。
「怪我はない......?あっ、澄んだ蒼の瞳......──あなた、きれいね」
ふふ、と笑みを浮かべた子供は、訳の分からないことを呟くと、パタリと寝そべってしまった。
突然横になる生き物に、思わず鼻先を押し付ければ、軽い体はころりと転がってしまう。
どうするか、と考えていれば、ふと人間達の足音が聞こえた。咄嗟に身を引けば、大きな人間達の目が我を捉える。
(攻撃される。......いや、見世物にされるかもしれない)
いつしか見た事のある、檻に入れられた同志の姿が頭を過り、反射的に身構える。
刃物や石は持っていなさそうだが、人間は何を持っているかわからない。ある奴は鈍く光る、音の出る硬い物を持っていると言うし、ある奴はよく分からない薬を持っているという。──油断は禁物だ。
「おい、この虎......額に十字の模様があるぞ!?白虎様の生まれ変わりではないのか!?」
「しかし毛並みが黄色い」
「そんなことは関係ないだろ!先代が亡くなったばかりなんだ。器になる可能性があれば......!」
わけのわからないことを喚く大きな人間達。......どうやら攻撃されることは無さそうだが......彼らが活気立って来たのは、間違いない。
逃げるべく身を低くすれば、大きな人間に抱き上げられた子供が、こちらへと手を伸ばした。
小さな手が、鼻先に触れる。
「血の匂い、嗅いでも襲わないのね。賢い子。......誰か、この子に食事を」
「~様!動いてはなりません!」
「~様、今肩の矢を抜きますので、少し我慢してください」
「いいから、この子に食事をあげて!きっとお腹が空いて、森から降りてきたんだわ。...なんなら、私を食べる?」
どこか寂しげな瞳で、鼻先を撫でてくる子供。震える指先が、その小さな体に込められた恐怖心を、表しているように思えた。
きっと、このまま襲いかかれば、この子供は瞬く間に肉と化すだろう。
......だが。
(......気が進まんな)
小さな手に付いた血をペロリと舐めて、くい、と鼻先で突っ返す。お前の肉はいらない。そう告げるように。
すると、何故か子供は眩しい物を見るように目を細めて、にこりと笑みを浮かべた。......一瞬、泣いているようにも見えたのは、気のせいだろうか。
「......優しい子。そうね。──あなたの名前は、瑠璃にしましょう。きれいな瞳と同じ名前。気に入ってくれたら嬉しいな」
ふふ、と最初と同じように笑みを浮かべたまま、意識をなくした子供に、我は歩み寄り、鼻先を擦り付けた。
意識を失う前に聞こえた、ひとつの“音”が、心地よく自身の中に入って くる。
(......瑠璃)
なんだか、悪くない響きだ。
もう一度呼んでくれと喉を鳴らせば、大人達は何か喚きながら、子供を連れて行ってしまった。
(おい。何故連れていく)
騒がしく、大きな建物の方へ向かう人間の群れに、我はついて行く。何となく害は与えないであろう事はわかるが、だからと言って子供と離されるのは、心底腹が立った。