死んだ町に居座る適合者【改訂版】
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仮想19世期末。 世界を終焉へと導く千年伯爵と、イノセンスの戦争の真っ只中。
アレンが奏者の資格を持つ14番目として疑惑をかけられつつも、任務に行ってる間、ミランダとクロウリーがコムイ室長に呼ばれた。
「コムイ、任務であるか?」
「私にできることだと、いいのだけれど......」
浮かない顔をしている二人に、室長室の空気が僅かに重くなる。
コムイ室長の顔がいつもより険しいのは、この教団に流れる不穏な空気のせいだろう。
スーマンの裏切りによる、人員の大幅削減。
江戸での激戦に加え、悪魔の製造プラントである卵破壊とレベル4のアクマの襲撃。
そして、極めつけには、黒の教団引っ越し後のクロス元帥の謎の失踪。
教団内を混乱に陥れるには、十分だった。
現在、動けるエクソシストはそうはいない。
そんな中で、古参組に入りつつあるこの2人に、コムイは指令を出したのだ。
「実はね。みんなが江戸での戦い間に、他の地区から上がってきていた報告で、新しいエクソシストが発見されたという情報が入ってたんだよね」
コムイはいつも通り、聳え立つ書類に埋もれながらそう口にする。 彼の言葉に、集められた2人は目を見開いた。
「新しいエクソシストであるか?」
「地方なんでしょう? 私、道に迷わないかしら......」
「今は各支部に、アレンくんが繋でくれたゲートがあるから、移動はそんなに心配ないよ。問題は適合者の説得なんだ」
「説得、であるか?」
2人の不安を拭うように、書類の奥から手を振ったコムイは、“説得”とい う言葉にため息を吐いた。
心底面倒くさそうな様子の彼に、2人は首を傾げる。
──説得、だなんて。
仲間に引き入れるのに、凡そ使うような言葉ではないだろう。
とはいえ、彼が言うことは結構芯を突いていることが多いし、何か問題でもあるというのか。
「ファインダーからの情報だと、今から2人に行ってもらう町には、レベル2のアクマが何度も襲撃しているらしい。教団より先に、イノセンスを回収するのが目的だろう」
コムイの言葉に、なるほど、と話を聞いていた2人は頷く。
──イノセンスの力は強大だ。
それ故、アクマも命がけで取りに来る。それを阻止し、先に回収するのがエクソシストの大きな仕事の一つなのだが、......まさかエクソシストじゃない人間が、アクマを退治しているとでもいうのだろうか。
「でもね、町を襲撃したアクマは全て撃破され続けている報告が上がってきてるから適合者の可能性が高い。ラビとブックマン、神田くんの属してるティエドール元帥にも、別任務の道すがら立ち寄ってもらって説得を試みたんだけどね。全くもって町から出ようとしないんだよねぇ」
いやー困った困った、と言いながら、コムイは盛大にため息をついた。
......彼にしては珍しく、心底困った様子で書類の山にペンを走らせている。その様子に、ミランダとクロウリーは顔を見合わせた。
「そんなに強い方なのに、どうして町を出ないんでしょう?」
――ミランダは純粋に不思議だった。
イノセンスの力のせいで、幾度も同じ時を巡るという体験をした彼女は、自分の力の無さから街から出ることが出来なかった。だからこそ、力があって尚、その街に留まる理由が彼女にはわからなかったのだ。
「その理由を突き止めて、仲間としてホームに連れてくるのが、今回の君達の任務だよ」
「私達が......」
自信なさげに俯くミランダ。俯く彼女の顔には、暗い影が差し掛かっている。
理由を突き止め、説得することが出来るのか。......そんな不安が、彼女の心に広がっていた。
隣ではクロウリーが、心配そうに彼女を見つめている。
そんな彼女の心の不安を、感じ取ったのだろう。コムイは書類から顔を上げると、安心させるように優しい眼差しで、そっと笑みを浮かべた。
「クロウリーもミランダも、みんなに会えてエクソシストになっただろ? 今度は2人が仲間を連れてくる番ってことだね」
和んだコムイの声に、成程、と頷くクロウリー。
自分がここに来て救われた事を、思い出したのだろう。それに、この状況はきっと自分の時と同じだったに違いない。
行かない理由が、そこにはなかった。
「わかったである。......行くである。ミランダ」
「でも、私闘えないわ。足手纏いになるんじゃ......」
「これは現地のファインダーの情報でしかないけどね。今回の適合者は、理解者を求めてるみたいなんだ。心に、深い傷を負っている。...... 君達も、身に覚えがあるんじゃないのかな?」
「心の、傷......」
はっとしたように顔を上げるミランダ。
その表情は、驚きに染まりつつも、一縷の決意が隠れ見えていた。そんな彼女に、満足そうにコムイの口角が上がる。
――もう、心配は要らないだろう。
ミランダは強い。もちろん、クロウリーもだ。
強いからこそ、心の傷も深くなる。それこそが人間の心理であろうと、コムイは思っている。
だからこそ、今回の適合者も、出来るだけ早く迎え入れたいと思っているのだ。
「ミランダ、行くである。今は少しでも一緒に戦ってくれる仲間が必要である。共に強くなれる仲間が」
「クロウリーさん......」
ミランダが不安げに彼を見上げる。
エクソシストになる前の彼からは想像できない程、凛々しい覚悟を決めたクロウリーに、ミランダは息を飲んだ。
(私も、もっと役に立ちたい)
そんな想いを抱くように、胸元で手を握り締める。僅かに震えているのは、きっと武者震いだと自分に言い聞かせながら。
「現地のファインダーには、2人がいくことを伝えてあるから、ゲートを通ったら合流してほしい。レベル2とはいえ群れてこられると厄介だ。ミランダのイノセンスは貴重な上に、負荷も大きい。十分気をつけ るように」
「わかったである」
「じゃあ、行ってきますね」
コムイの言葉に、頷く2人。
書類の山が崩れそうになるのを見ながら、揃って室長室を後にする。
入れ替わりにリーバー班長が、コーヒーと書類の山を持ってきたのを見て、2人は顔を引き攣らせた。
もう既に崩れそうだった山に、更に山が追加されるのかと思うと、室長が憐れに思えてくる。......だが、彼のサボり癖を考えれば、これは最早自業自得なのかもしれない、なんて複雑な心境が流れていく。
とりあえず室長室へ、心の中で敬礼をすると、2 人は任務に向かう為、 一度自室へと戻る事にした。
――そんな2人の背中を見送ったリーバーが、コムイの前に彼専用のピンク兎が描かれた水色のコーヒーカップを置くと、訝し気な顔で問いかけた。
「大丈夫なんですか?あの2人だけで」
リーバーは、彼等の強さを疑っている訳では、決してなかった。......しかし、彼等の気の弱さはこの教団では有名な話だ。少しばかり不安に思ってしまうのも、致し方ないだろう。
コムイはそんな彼の心情を理解しながら、手元の紙にペンを走らせる。
もちろん、生成されていくのはサインではなく、意味の無い落書きなのだけれど。
「2人も強くなったよ。江戸での戦いを経て、ノアと戦って。守りたい思いの強さを誰よりもわかってる2人だ。それに、今はエクソシストが不足してる。少しでも人員補給しておかないと」
「とか言って、この報告資料、アレン達が江戸にいた合間にあがってきてたでしょ! もっと早く仕事してくださいよ〜」
「えぇ〜だってぇ、僕 1 人しか室長いないのに、こんなにたくさん目を通せるわけないじゃないか!」
リーバーの言葉に顔を上げたコムイは、まるで嘆くかのように悲鳴を上げた。
相変わらず大袈裟な演技だな、と思いながら、リーバーが彼の元から最早落書き用紙となっている紙を引き抜き、その前にドンと自身の持っていた山を無慈悲に叩きつけた。
ひくりと引き攣る顔を見ながら、ニッと笑ってみせる、リーバー。
「コムリン作る時間あるなら、これ全部ハンコお願いしますね!」
「そんなぁ!」
ううっ、と泣き真似をし始めるコムイに背を向け、リーバーは振り返ることなく室長室を後にする。
扉を閉め、彼が逃げ出さないよう閂をかけると、降りてくるのは冷たい静寂だった。
「......クロウリー、コムビタンD事件の後、何も後遺症残ってないといいけど」
込み上げてくる、何とも言えない悪い予感に、リーバーはじくじくと胸の奥が突き刺されていくような感覚を持った。
引越し騒動の際に、原液を飲まされた彼は、コムリンによるワクチン投与の後、感染者に再度噛まれている分、体への副作用が残ってはいないか心配が残る。
眩しい天井を見上げ、拭いきれない不安をため息と共に吐き出す。
――そんな彼の不安は、この後見事に的中することになる。