【第6章〜別行動〜】
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瑠璃を休ませるために戻ってきた椿は、瓦礫の山の中から使えそうな毛布を持ってきて、床に広げた。クッションの役割は無さそうだが、地面に直に置くよりはマシだろう。
しっかりと広げられたのを見て、その上にクロウリーがそっと瑠璃を下ろした。
触れた体温が熱い。
先程落ち着いたはずの容態が、少しずつ戻ってきてしまっているらしい。
「瑠璃、大丈夫か?すまない、無理をさせすぎたな......」
椿が優しく瑠璃の頭を撫でる。水筒を取り出し、瑠璃の口元を濡らす。
荒い息を繰り返す瑠璃の蒼い瞳が、椿を捉え、ゆっくりとクロウリーの方へと向けられた。じっと何かを言いたげに見つめる視線に、クロウリーは膝を着いて、目線を合わせるように顔を近づけた。
「私に何か伝えたいのであるか?」
「...っ、...っ!」
はく、はくり。
熱い息が、声を奪って空気に溶けて行ってしまう。
クロウリーは瑠璃の口元に耳を近づけ、「すまないが、もう一度言ってくれ」と口にした。
同じように耳を近づけようとする椿を瑠璃は前足で押して、遠ざけようとする。優しい拒絶に、椿は胸が痛むのを感じて水筒を手に取った。......どうやら椿には、聞かれたくない話らしい。
「...... 瑠璃、水持ってくるな。クロウリー少し見ていてやってくれ」
俯いたまま、早々に部屋を後にする椿。
奥の部屋へと椿が姿を消すのを待って、瑠璃は前足から力を抜くと、短い言葉を吐き出した。
「椿を...頼む」
──まるで、懇願するような。
か細くも、どこか芯を持ったような声に、クロウリーは反射的に嫌な予感を感じ取った。
「瑠璃、何を言っているである!」
「椿に、笑顔をっ」
「今意識を失ってはダメである! 椿を、置いていっては...っ!」
弱々しくなっていく生命力に、クロウリーは必死に呼びかける。
虎の表情なんて彼にはわからないが、それでも彼が微笑んでいるのが分かった。──わかって、しまった。
「...... 椿」
「瑠璃、気をしっかり保つである! 椿と瑠璃は一緒にいなければならないのである!」
「......──」
「...... 瑠璃、瑠璃!?目を! 目を覚ますである! 瑠璃っ!」
クロウリーの必死の呼び掛けに、瑠璃はぴくりと瞼を動かしていた。......しかし、徐々にその反応は鈍り、目からは生気の炎が鎮火していくのが見えてしまう。
体に牙を立て、アクマの毒を再び吸い出そうとする。しかし、舌を撫ぜた虎の生々しい血に吐き気を覚え、牙を抜いてしまった。
ゲホゲホと咳き込み、ズクリと脇腹が痛むのを感じる。......アクマの血を吸いすぎたのか、それとも虎の血が合わないのか。外傷のない腹部の痛みの理由は分からなかったが、今はそれに構っている余裕はなかった。
「瑠璃! 瑠璃!」
「クロウリーさん......!?どうしたの、瑠璃さんの体調、良くないの?」
「ミランダ! 瑠璃が、瑠璃が起きてくれないである!私に椿を頼んだと言ったきりで!」
地下に降りてきたミランダに、半泣きのクロウリーが縋るように声を上げる。
ボロボロと流れる涙を拭うことも無く、パニックに陥ったクロウリーはアクマの毒が溜まっている場所がないか、瑠璃の体を色々な方向から見つめた。
しかし、医者でもない彼には他人の──ましてや虎の体の構造なんてわかる訳もなく、毒が巡る先なんて探し当てることは不可能だった。
それでも、──彼は死なせたくなかったのだ。
あんなに仲のい2人を引き裂くなんて、したくなかった。これ以上、悲しい出来事を増やさせたくなかった。
......無意識に過去の自分を、2人に重ねていたのだろう。
(私とエリアーデは相反する立場にいたが、この2人は違うのだ)
一緒にいられるはずの2人が引き裂かれるなんておかしな話、実現させたくはなかった。
絶望に駆られ、パニック状態となっているクロウリーに、ミランダは瑠璃の状態と彼の口元の僅かな血を見て、納得する。そうして、絶望の縁にいる彼の肩に手を添えた。
「お、落ち着いて、クロウリーさん。瑠璃さん、寝てるだけだと思うわ」
「だ、だがっ、目の生気が無くなって......!」
「でもほら、お腹動いてるから、呼吸はしてるみたいよ」
ミランダの指さす先に視線を向けたクロウリーが、静かに上下する腹部を見つめ、パニックになっていた思考が少しずつ緩やかになっていく。
冷静に、落ち着いて、瑠璃の体へと手を添える。
手のひらを伝わる脈と、鼓動に────クロウリーは項垂れるように大きくため息をついた。
「はぁあああああ〜..................。よかったである......本当に、もう......」
紛らわしい事をしたのは瑠璃の方なのだが、それを怒ることも無く、ただただ安堵に息を吐く。
そんな彼の様子を横目で見ながら、ミランダは再び瑠璃の様子を目にした。
「......でも、あんまり良くはないかもしれないわ。せめて飲み物だけでも、口にしてくれるといいのだけど」
「ミランダ、戻ったんだな。少し手伝ってくれないか、瑠璃に水を飲ませたい。頭を支えてくれるだけでいいのだが」
「えぇ、もちろんよ!」
ちょうどいいタイミングで帰ってきた椿の言葉に、ミランダはすぐに頷く。
クロウリーとは逆の位置に移動すると、両膝をついて座り込んだ。膝に頭を乗せようとしているのだ。
「んーしょ、と。虎さんって頭だけでも重いのね」
「今は容態が良くないから、脱力して余計だろうな。悪いが、そのまま固定しててくれ」
「えぇ」
ミランダが膝枕をする形で、瑠璃の頭を固定する。思いの外、収まりが良かったらしい。
椿はそのまま躊躇いもなく瑠璃の口元に指を入れると、大きく口を開かせて、こぼれないように水を滑り込ませた。こく、こく、と2度、喉が動くのを見て、椿は水筒を下ろす。
水分を摂って落ち着いたのか、険しい顔が徐々に緩くなっていくのを見て、椿は鼻先を指先で突っついた。
「...... 瑠璃、俺はお前が側にいてくれたから、自暴自棄にならず今日まで生きてこれたんだ」
小さく紡がれた彼女の“本音”に、ミランダは目を伏せる。
.....誰かの絆を垣間見るのは、いつになっても変わらず暖かい。