死んだ町に居座る適合者【改訂版】
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地上に出れば、高く上がった月を囲うように輝く満天の星空を、覆い隠すほどのアクマ達が空を埋め尽くし、町には暗い影が差していた。少し先では外にいた瑠璃が、アクマの弾丸を避けながら戦っている。
即座に空へと弓を引く椿に続いて、戦闘モードに入るクロウリー。
殺気に気づいたのか、アクマがぐるりと体を回転させ、能面のような顔でこちらを見据えた。途端、ガパリと開けられる大きな銃口。
光が集まっていくのを見て、椿が先制攻撃を仕掛けた。
「“レリーフアロー”!」
「数が多いのは好都合だ!その血を全て啜ってやる!」
空へと鋭く発射される矢に紛れるように、クロウリーが駆け出した。
疼く歯を鳴らし、一番手近なアクマへと噛み付く。
その様子を見ながら、ミランダは必死に震える自身の手を握りしめた。
(ミランダ、逃げちゃダメよ。みんなの......役に立つんだから!)
何時でもイノセンスが発動できるよう、意識を集中させる。的になってしまうのは迷惑かもしれないが、自身に攻撃が向かうことで敵の攻撃が単調になり、彼らが戦いやすくなるだろう。
ミランダは自身の恐怖心と戦いながら、それでも気丈に敵を睨みつけていた。
そこに舞い降りたのは、一番初めにアクマと対峙していた瑠璃だった。
「ミランダ、逃げろ!」
「えっ、......っ、!」
獣人型になっていた瑠璃が、ミランダを強く押し退けた。瞬間、ミランダがいた場所にアクマの放った弾丸が勢いよく貫いた。
空を走った攻撃が、ミランダを押し退けた彼の体を突き抜ける。
ぁ、と思った時には、彼の体は地面に叩きつけられて爆発した弾丸の風に、巻き込まれてしまっていた。
「瑠璃さん!」
「...問題ない」
すぐに撒かれた煙の中から、瑠璃がミランダの声に応える。
顔を顰め、ブルリと体を大きく振るった瑠璃は、真っ直ぐ敵を睨み上げた。彼の体にアクマの毒のペンタクルが浮かぶが、すぐさま寄生型のイノセンスが毒を浄化していく。
......何度見ても、この光景はヒヤリとする。
その様子にほっと安堵するミランダに、振り向くことなく瑠璃は飛び上がると、大きな爪を素早く振り抜いた。深い爪痕に爆発するアクマの体。
軽やかに着地した瑠璃に、椿がどこからか側に駆け寄ってきた。
「瑠璃、下がれ。俺が一掃する」
「分かった」
椿の言葉に、瑠璃は大きく跳躍すると、ミランダの傍に降り立った。
守るように身を寄せ、周囲に警戒を巡らせる。
椿は背後で瑠璃の行動を感じながら、弓柄を叩いた。先程よりも少し早く、けれど心を落ち着かせるようにして指先を打ち付ける。
「──イノセンス第二開放、“断罪の矢”!」
力が内側に溜まったのを合図に、椿は弓を引いた。巨大な矢が出現し、それを勢いよく放つ。飛び出した矢が空中で分裂し、アクマの群れに流れ込んでいった。
一撃で射抜かれたアクマ達が、次々に連鎖爆発していく。その光景とい ったら“圧巻”の一言だが、不幸な事にその爆発はクロウリーが戦っていた場所にまで広がってしまった。
爆風に煽られたクロウリーが振り返り、叫ぶ。
「こちらの動きを邪魔するな!」
「ちまちまと一体ずつ片付けてたなら体力持たないだろうが」
「連携というものを知らんのか!」
「会って数時間で連携も何もあるか!」
ぎゃあぎゃあと叫びながらも、連鎖爆発から逃れたアクマを2人してなぎ倒して行く。あちらを倒せばこちらを射抜き、向こうを射抜けば手前のアクマを押さえつけて牙を立てる。
......意外と息があっていると思ったのは、ミランダだけではないだろう。
「瑠璃!行けるか!?」
「問題ない」
「クロウリー、乗れ!」
「全くっ、!人使いが荒いガキだ!」
一際特大の矢が、宙を裂く。金色に輝く矢が、二手に別れ、それぞれに瑠璃とクロウリーが飛び乗った。
矢は主を乗せたまま威力を加速させ、アクマを貫いていく。
矢の軌道から外れたアクマを、矢の主である2人がなぎ倒し、空の群れは驚くほど早く一掃された。肩で息をする3人に、ミランダが声をかける。
「みんな、大丈夫?」
「...問題、ないである」
「チッ。しつけーんだよ、クソアクマども」
心底鬱陶しいと言わんばかりに吐き捨てる椿に、ミランダは苦笑いを零す。
──ひとまず、アクマは全て倒した。
その事実を前に、誰が言うわけでもなく、みんなが先程居た場所へと足を向ける。
「っ」
「!? 瑠璃!」
一難去って、また一難。
ドサリという音と共に、瑠璃が倒れたのだ。慌てて駆け寄る面々。体のペンタクルは全て消え去っていたものの、どうやらアクマの弾丸を受けすぎてしまったらしい。
──......息が荒い。
脈も通常より早くなっている気がする。オレンジ色の体毛には、黒い星が浮かび上がっては消えかけ、再び浮かび上がる、というのを繰り返していた。
椿の背に、冷や汗が伝う。
(まずい、このままじゃ......っ!)
「私に任せるである」
クロウリーが静かに言葉を吐き、瑠璃の体に手を伸ばした。二、三度、手を往復させると、徐ろにその牙を瑠璃の首元に突き立てる。
今までの攻撃法を見ていた分、突然の出来事に椿が声を荒らげる。
「貴様ッ!何をする!?」
「大丈夫よ、椿ちゃん。クロウリーさんは、アクマの毒を吸い出しているだけだから」
クロウリーに掴みかかろうとした椿を、ミランダが抑える。彼女の言葉に、椿が理解する前に瑠璃の体に浮かんでいた黒い星が引いていった。
息も穏やかになり、顰め面も穏やかな顔色に変わっていく。
アクマの血が、瑠璃の身体から消えていっているのだ。
──その現象を前に、椿はミランダの言葉を正しく理解した。
ゆっくりと牙を離したクロウリーが、口元を袖で拭う。彼の手が、牙を突き立てた場所を癒すように優しく撫でる。
「これで大丈夫な筈だ。アクマの毒は全て吸い出した。虎の皮は少し歯が入りにくかったがな」
「そう、か」
クロウリーの言葉に、瑠璃を見つめる椿。
目を覚ました瑠璃が、彼に礼を言うように視線を向けた。その意図に気づいた椿は、クロウリーに頭を下げた。
「......助かった」
「いや。気にするな」
「......お前、アクマの血を吸うと本当キャラ変わるのな」
白い前髪を逆立て、目を釣りあげたクロウリーに、椿はフッ、と小さく微笑んだ。首を傾げる彼を横目に「瑠璃、立てるか?」と問いかければ、瑠璃は少し瞬きを繰り返すと、体に力を込めた。
──が、力が入らないのか、上手く立つ事が出来ないらしい。
戸惑いに目を曇らせる瑠璃に動いたのは、アクマの血で強化状態にあるクロウリーだった。
「私が運ぼう」
良いな、と瑠璃に問いかけ、頷いた大虎を軽々と肩に担ぐ。
瑠璃の頭を小さく撫でた椿が、彼らを先導するように歩き出した。
「悪いな。階段、気をつけてくれ。さっきの揺れで弱くなってるかもしれない。ミランダも、ありがとうな」
「い、いえ。私まだ何もできてないし......さ、先に戻っていて下さる?私、少し残るわ。ここなら無線ゴーレムも使えると思うの」
「むせん、ごーれむ?」
「椿、瑠璃の息が荒くなってきた。彼を休ませるのが先だ」
怪訝そうに顔をしかめる椿に、クロウリーが声を掛ける。振り向いた椿は瑠璃の状態を見ると、慌てて中へと案内し始めた。
ミランダの言う、“ごーれむ”とやらには興味があるが、それよりも先に瑠璃の体を安定させなければ。
「安心して。すぐ戻るわ」
足元に注意しながら戻っていく2人と、背負われた1匹に、笑いかける。
皆の背中を見送ったミランダは、コートの中から無線ゴーレムを手に取った。通信が繋がるのを待ちながら、ミランダは空を見上げる。
(......身勝手かもしれないけど、瑠璃さんの治療の為に教団の人達に迎えにきてもらった方がいいわ)
きっと嫌がるであろう彼女の気を引いてくれたクロウリーに、心の中でお礼をして、ゴーレムから聞こえる声に、ミランダは意識を戻した。
アクマの残骸と破壊された瓦礫の山を、ただただ静かな月だけが照らしていた。
──まるで、抗う愚かな子羊達を、見守るかのように。