【第3章〜町が死んだ理由〜椿語りシーン】
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――しかし、事件はこれで終わりではなかった。
その日から、町に異変が増えたのだ。
昼夜問わず、衣服だけ残して人が消える事件が多発し、町は騒然となった。瑠璃は見回りを夜だけでなく昼もやることにし、時間を小刻みにすることで、回数を増やした。
町の人間はそんな瑠璃の姿に安堵したが、......その甲斐もなく、事件は減る事がない。
どうしようか、と悩む反面、俺にはずっと気がかりなことがあった。
「なぁ、瑠璃。千年伯爵は......アクマの材料は悲劇の死を遂げた魂と、魂と強い繋がりのある者の呼び声で、ボディに死者の魂を呼び戻してアクマを作るんだよな?」
「ああ」
仮住まいとなった、木造の小さな部屋で、俺は瑠璃に問いかけた。
唯一の話し相手になった彼は、小さく頷く。
「......もし、さ。......人間そのものがいなくなったら、アクマは製造されなくなるんじゃないか?」
「人を殺すのは、すすめない」
「でも、俺は間違いなく、この家の疫病神だった。俺がこのリングに触らなければ、母さんが死ぬこともなかったし、父さんも機械を愛そうなんて馬鹿な考え起こさなかったと思う。もしこの町にアクマが潜んでるなら、それを全部倒して...関係者も全て洗ってしまった方が、」
「人を殺すの、よくない」
バッサリと俺の言葉を切り捨てる、瑠璃。
よくない。してはだめだ。......そう口にする彼に、俺は心の底に徐々に高まっていく感情を覚えた。
「我を大事にしてくれた。だから、よくない」
「アクマの材料である人間がいなくなれば、少なくともこの町からアクマはいなくなる。そしたら瑠璃と静かに暮らせるんだ」
「だめだ」
「どうして?」
「人は、温かい。殺すのは、よくない。」
「でも、人間がいるからアクマが出るんだぞ?」
「それでも、だめだ」
首を振り続ける瑠璃に、俺は沸々と怒りが込み上げて来た。
「キミに、人を殺してほしくない」
段々と声を荒げ始める俺に、遂には瑠璃がその一言を発する。......けれど、その時の俺にはただの“綺麗事”にしか聞こえなかった。
自分の言っている事がどういうことかなんて、解っていた。わかっていた、つもりだった。
どうやらこの時の俺は、自分の手で父親を殺したことで、倫理観も常識も、全部狂ってしまったらしい。
一人飛び出した俺は、アクマになった奴らとその親族を、片っ端から1人残らず殺していった。イノセンスを使うこともあれば、そこらの道具で殺したこともあったな......。
肉が砕ける感触を、今でもよく覚えている。
人間が害だなんてよく言えたもんだ。害なのはどう考えても俺の方なのに。
......俺は、人間さえいなくなれば、アクマは作られない。
そう思っていた。
だから、殺人を繰り返す俺から逃れようとした町の人間も殺した。逃げてく人間の中にアクマがいるかもしれなかったから、誰彼構わず、全てこの弓で殺したんだ。
逃げ延びたやつは......恐らく一人もいないだろう。
そうして町の人間を全て殺し終えた頃、外からアクマがやってくるようになった。きっと千年伯爵が俺と瑠璃のイノセンスを狙って、壊しにきたんだろうよ。
人が死滅した町だから、建物壊すのに躊躇いもなく、町はあっという間に瓦礫の山と化した。そして――今じゃこんな有様だ。
「......これがこの町が死んだ理由であり、同時に俺がお前たちと同じ――エクソシストに向いてない理由だ」
ゆっくりと伏せていた目を開ける。
正面に座っている2人は、情けないくらい驚愕に満ちた顔をしている。
......目の前に殺人鬼がいるのに、何と無防備な。
まあ、殺すつもりなんてないが。
「町を破壊したのも、アクマが集まるのも、俺のせい。アクマを作らせないためにやった事なのに、結局出来たのはアクマホイホイの場所だけだ。......滑稽だろ?」
アクマを作らせないためだけに、町の人間を残らず殺した殺人鬼なんて、この町から出たら一体何人の人間を殺すことやら。
俺は......自分が怖いよ。
今ものうのうと生きている事も、時々不思議に思う事すらある。
「......後悔は、していないの......?」
ミランダの声が、静かに意識の中へと入り込んでくる。
――こうかい。
後悔、な......。
「後悔なら毎日してる。なんて短絡的な考えで、浅はかな行動をとったのかと。だから――――俺はこの町から出る気はない」