【第3章〜町が死んだ理由〜椿語りシーン】
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――俺がここの祭壇に祀られてた家宝に触れ、この身に宿したのは、本当に幼い頃だった。
すぐに特に変わったことは起きなかったから、俺は触れた事を誰にも言わなければ、一生バレないものだ思っていたくらいだ。......今考えれば、浅はかな話だったと思う。
さっきも言ったが、元々この町では虎と生活をしていた。その生活を守るため、この町に生まれた子供達には、幼い頃から弓道を習わせる風習があったんだ。
俺も漏れることなく、小さい頃から弓に親しんでいた。
......それが、仇になったんだ。このリングから流れてくる力がわかるようになって、つい意識を合わせれば、光が零れ、やがてそれは弓になった。
一連の出来事を見た父さんは、俺に神の加護が宿ったと喜んでいた。それはもう、町中を言い回って祝杯を上げようというくらいには、な。
ただ、俺の母さんは少し気の弱い人でな。俺が家宝に触れた事で、祭壇が役目をなくしてしまったと思ったらしい。事実、そうだったんだが......母さんは祟りが起こるんじゃないかと、ひどく心配したんだ。......心を病んでしまう程に。
母さんは元々、信仰心が強かったから、余計なんだろうな。心配と、恐怖と、......自身の子供が触れてしまった事への罪悪感で、日に日に食も細くなり、一年もする頃には伏せりがちになった。
「医者に診てもらっても、『自分との闘いに勝つしかない』と言われ、薬の数が増えていくばかり。その甲斐もなく、回復の兆しは見えないまま......息を、引き取った」
驚きに息を飲む声が聞こえる。
(......わかっている。全ては自分の犯した罪だということくらい)
わかっているんだ。......痛いくらい。
「......母さんの死に耐え切れなかった父さんは、俺が寝た後、毎晩のように母さんの墓石の前で泣き暮れていたんだ。......幼かった俺は、それに気づかないフリをするしか出来なかった。寝れる訳、......ねぇのにな」
父さんからすれば、俺は母さんの死の引き金を引いた張本人で、恨まれてもおかしくは無い。「お前のせいだ!」と指を差されて、殴られてもおかしくはなかった。
それくらいの事をしたのだと、幼いながらに俺は理解していたんだ。......だからこそ。
「俺は父さんに拒絶される事が怖くて、目を背けた。そして――――父さんは、千年伯爵に目を付けられたんだ」
俺の言葉に、空気が振動する。
驚愕、というにはどこかピリついている雰囲気を感じ取りながら、俺は言葉を続けた。
「......その夜は、いつものように瑠璃が町の見回り散歩に出かけていて、寝付けなかった俺は1人で屋敷をうろついてた時だった」
突然、屋敷内に話し声が聞こえたんだ。
この家には、今は俺と父さんしか住んでいない。だから、父さんが帰って来たんだと思ったんだ。
けれど、声が聞こえて来たのは墓地から帰ってくるはずの玄関ではなく、――未だそのままになっている、母さんの部屋だった。
(可笑しい)
そう思った俺は、そっと部屋の中を覗き見た。
暗い、暗い。
月明りしかない、暗い部屋。
わかるのは、母さんが息を引き取ったベッドと、母さんの好きだった本が詰め込まれた本棚。......そして――――。
「父、さん......?」
見た事もない、黒い機械に向かう――父さんの後ろ姿だった。
「父さん、それ何?」
キィ、と扉が開く。
覗き見している事がバレて怒られる、なんて思考は、この時の俺にはなかった。
「おやおや。ここにも、強い魂の繋がりを持つものがいましたか」
不意に、声が聞こえる。
父さんじゃない。誰だ。誰の声だ。
「お嬢さん、お母さんに会いたいですか?」
独特な声で語りかけられた言葉に、慌てて視線を向ける。
そこには、父さんを見下ろすようにして、立っている男がいた。長く黒いシルクハットを被り、裾の開いた白いコートを着ている。
横に尖った耳に、縦に長い、不気味なくらい真っ白い歯。
特徴を上げればきりがない程の男は、いま、何と問いかけただろうか。
「お母さんに、会いたくないですかぁ?」
「母、さんに......?」
人の好さそうな声のトーンに、俺は思わず聞き返す。
独特な声はまるで耳から入り、脳を浸透していくかのような不思議な声色をしており、......何となく、背中が逆立つような気分を覚えた。
「......ソレが、母さんになるの?」
「えぇ、そうですよ。魂の強い繋がりのある人間が死者の名前を呼べば、お母さんは生き返りますよ?さぁ、会いたいでしょ?」
矢継ぎ早に言われる言葉の数々を、その時の俺はどれだけ理解していたのか。
今となっては正直わからないが、父さんの縋るような背中を見て、寒気を覚えたのは間違いなかった。
黒く、光る、機械。
硬く、体温すら感じないそれは、俺には到底――母親とは思えなかった。
「...父さんは、機械の母さんを愛せるの?」
俺の一言に、父さんは縋る手を止めた。空気が凍り付くのがわかる。
......神の加護を受け、自身の妻の命を奪った原因である俺の言葉に、父さんはどう思ったのか。きっと叫びたくなるほど強い憎しみと恨みばかりなのだろう。
しかし、父さんはそれを俺にぶつける事は無かった。その代わりに、伸ばした手を機械へと触れさせる。
ピトリ。
音がしたような気がした。
「――母さん、愛してるよ」
それが、父さんの答えだった。